悪夢

ふにゃー

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  夢は、あの夜だけで収まらず……

  オークやオーガが討伐されてる、喜ばしい筈の夢だったんだけど、大剣を奮って居たのは、マクシミリアン殿下ではなかった。

  全く知らない者だけど、町で見掛ける冒険者の様に、黒い革のジャケットに、黒い革のズボン、黒いブーツ姿だった。

  美麗ではないけど、整った顔をしていて、自信に満ち溢れていた。

  何故か寒気が走り、レイノルドに抱き着いたくらいだった。

  嫌悪感以前に、近寄ってはいけないと言う印象だけが残った。

  それが誰なのかは……


  数日後に、本当に起きたスタンピードで明らかになった。

  ハイレミシッド領に、いつの間にか出来たダンジョンのスタンピードで、マクシミリアン殿下は、シンディを始め多くの領民を逃がして、亡くなった。

  王国に激震が走る程の出来事で……

  マクシミリアン殿下の行為を讃え、公爵に叙爵という形にして、王都で葬送のパレードが粛々と成された。

  その際に、スタンピードを制圧したと言う事で出て来たのが、夢の男だった。

  隣国の勇者だと紹介されてた。

  自分は寒気を覚え、震えて居れば、隣に居て、レイノルド抱き寄せてくれた。

  ただ、レイノルド、ソビジェーブ領の為に走り回ってくれたから、少々痩せてしまったの。

  だから、美丈夫になったレイノルドに、多くの女性の視線が降り注いでた。

  その事で、多少、自分は気弱になっては居たけど、懐妊に気付き、強くならなきゃと思ってたの。

  ただ、その所為で、シンディが隣国の勇者を睨んで居た事に、気づいていなかった。

  太っていようと好きだったレイノルドの側に居らず、
勇者が、ベッドの横で寝る事になってしまった事を、今でも悔いてる。



  あの日は、レイノルドの侍従に申し訳なさそうな顔をされただけでなく、侍従が持ってたレイノルドの着替えから、鼻を歪めそうになるくらいの香水が匂って……

  レイノルドに懐妊は伝えたけど、「気になる事があるから、皆に伝えるのはちょっと待って」と言われてただけに、香水の匂いに吐き気がしたくらいなの。

  貴族の着替えは、夫人でも触らないと言う事になっているの。

  その侍従の言動が気になって、伴も付けずに後を付けたのは悪手だった。

  だって、娼館に入って行くレイノルドの姿も見てしまったんだもの!

  それもショックだったけど、妊娠中と言ってあるので、男の生理で行く事もあるだろうと、狼狽えるのを抑えようとしてたら……

  後を付けてたのを侍従に気付かれていた様で、近くに居て、その近さと形相に後ずさりしてた。

  「奥様にあの様な男は相応しくありません」

  そう言い出し、お慰めしますって!

  その怒りで、立ち直って「何ですって!?」と言い返せば……

  このままでは、侯爵家を追われると気付いたんだろう。

  自分を手篭めにすれば、弱味を握れるとでも思ったんだろう。

  襲い掛かって来たので、パラソルで迎撃してたんだ。

  その時に「あ?」と言って、行き合わせたのが勇者で……

  レイノルドの侍従は、脱兎のごとく逃げ出した。

  「そのままの姿じゃ、何言われるだろうなあ」

  そう言われ、睨んでいれば「身を整えるだけよ」と言ったのが、勇者と一緒に行動してるパーティの女性1人だったのが悪かった。

  勇者は女好きで、傲慢で自信家だとは聞いてたけど、パーティの女性が4人居て、恋人だとも言ってたので、気が緩んだんだろう。


  あの日、リリアンヌ・ゴラスティーニは姿を消した
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