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第2章 乙女ゲームの矯正力は強いのか
遠征実習、初日
しおりを挟む楽しみだったと聞かれれば、楽しみだったんだろう。
騎獣に乗れなくても。
ちょっと考えれば、生徒の大半が騎獣を持っていないんだから、一緒のグループが全員騎獣を持っていたとしても……
許可されないか。
ただ、第2殿下であったとしても、王族が居ると第3じゃなく第1騎士団が出てくるんだあ。
そう思っていたのは、例年、第3騎士団からの監視の者が参加すると聞いてたからなんだけど……
副団長のヴィルジーク様が来るとは……いや、見送りだけかも。
なんて思いながら見てたら、「ライラ」と声を掛けられた。
「お久しぶりです、ヴィルジーク様」
そう言って、頭を下げたら、コーデリアとイルラが何やら驚いてる。
「お見送りですか?」と聞けば、驚いたのが……
「親父に、1度領地に顔を出しておけと言われてね」
ヴィルジーク様の答えで、分かった事が2つ。
「まさか、私のグループの監視者、ヴィルジーク様ですか?!」
「そうだよ」と言って、笑ってるんだけど……
後ろに居るグループの令嬢、コーデリア、イルラだけでなく、息を飲んだだけじゃなく、黄色い声が上がった。
もう1つは、辺境領のダーイン伯爵家に養子に入るのが決まったんだろう。
そう、夏休みに、辺境領にある中級と上級のダンジョンに行きたくて、情報を集めてたら……
後継者がひ弱なのしか居ないダーイン伯爵が、王家に依頼して居たのか、騎士団で次男・三男で、辺境領を御せる者という事で、ヴィルジーク様に白羽の矢が立った様なのよ。
ただの他家への養子であれば、王都でのパーティーで顔を合わせられるけど、辺境領では、度々出て来れないだろうからねえ。
その為のお里帰りだと察し、
小声で「おめでとうございます」と口にしておいた。
ちょっと驚いた顔をしてるので……
「王都のダーイン伯爵家には、もう入られてます?」
そう言えば、息を飲んだヴィルジーク様。
「情報通だな。Aランク確定の冒険者だけある」
そう言って、破顔し、幼少期の様に、頭を撫でて来た。
「ヴィルジーク様!もうちっちゃくないんです!」
そう言って、抗議してたんだけど、相変わらず、はははと笑う声は重低音で、破壊力満載。
他のグループに付く騎士団員が、驚いた顔をしているとは思ってなかった。
その後、遠征実習の担当教官が挨拶をし、グループに分かれて、出掛けて行くんだけど……
幌馬車に、お嬢様ばかり乗り、御者がヴィルジーク様っていう贅沢なシチュエーションに、ぐったり。
あのさあ、有り得ない御者だけど、一応、遠征実習だよ。分かってる?
「後ろをレイトルに乗って、警備します」
そう言えば、頷いてくれた。
殆ど、街道で行くけど、遠足じゃないんだよ。
出発の処から、実習なんだと分かってくれ。
まあ、余程の事がない限り、お嬢様は冒険者しないんだろうけど。
学園の南口から出れば、王都外なので、レイトルを出して騎乗し、幌馬車の後ろに着く。
それと共に、通常の索敵よりも、薄く広範囲に流して行くのは、冒険者にとっては基本中の基本。
1人で行動する時も、必ず、忘れずにするもの。
そりゃ、別に、ナーフと呼ばれる索敵専門の遠距離攻撃を持つ者が居るのなら、任せても良いんだけど……
事前に、担当を決めれば、重要性を分かっていなかった。
うん、確かに、学園で習うのは攻撃魔法が大半だからねえ。
戻ったら、レポートの課題提出があるから、奏上しよう。
でないと、監視し、点数を付ける者が、索敵をしなくちゃいけなくなるよ。
まあ、日頃から守られているから、空気の様で気付いていない可能性の方が高いんだろう。
初級ダンジョンに行ったコーデリア、イルラでも、護衛も居たので、分かって居ない。
ただ、自分がフレスベルグのブレンダを出して、「前方周囲の確認して来てくれる?」と頼めば……
やっと気付いた模様。
イルラが、「マイルにも偵察行かせようか?」と言って来た。
「午後、お願いしてもいい?」と言えば、頷いた。
ブレンダは、勿論、小鳥サイズで行かせたんだけどね。
そうそう、召喚獣は喋れないと思ってたんだけど、体の何処か触れてる状態だと、念話が出来ると判明。
教えてくれたのは、コーデリアで、白ピヨがお喋りらしい。
うちの子は重要な事しか伝えて来ない無口です。
イベルダはたまに、愚痴ってるけど、野ブタに木の実を取られたと。
その後、街道沿いにある休憩所で、お昼休憩を予定通りに入れた。
行程は、遠征実習の上で要で、学園が決めるんじゃなく、生徒達で組んで、学園に提出し、許可が出て、実習と言う事になっている。
なので、余程の無茶でなければ、生徒が決めたってことで、実行出来るんだ。
日頃から、馬車といえば、転生者が弄った揺れが少ない物に乗っているだろうからと思い、昼休憩を入れたんだ。
実際、お尻が痛いと口にしてるし。
だって、この世界、貴族は別として、太陽と共に生活するから、夕暮れに食すの。
だから、昼休憩は入れても主食じゃなく、オヤツ程度。
貴族においては、お茶会などがあるから、お昼は平民と違う意味で同じくお菓子。
まあ、冒険者はお昼も食べて休まないと、体が持たないので、しっかりと食べるけど。
ただ、決めてた休憩所には、先に休憩してる者が居たんだよねえ。
王都に行くのであれば、ここでは休憩せずに向かうので、チェックを入れておく案件。
だって、今晩は休憩所で野営になるんでね。
ご令嬢が多いだけに、注意しておかないといけない。
付けて来る場合もあるんで。
実際、今、ヴィルジーク様が幌馬車を止めれば、ご令嬢方が馬車から降りて来たんだけど……
索敵が一気に赤くなったのが数名。
自分がレイトルと入って来たら、バトルホース狙いか、更に数が増えた。
ので、1発かましておくか。
「お休みの処、横を失礼します。予め、言っておかないと、死人が出ては困りますので」
にこにことしながら、地面に、毛皮を敷いて、休憩する商人と思われる馬車3台に、護衛6人のパーティーに声を掛けた。
「私が乗っていたバトルホースは、デュラハンギャロップ、近付けば首を噛みちぎりますので、お気を付けください。今までに、12名あの世に送っています」
休憩所では、忠告する様に、ギルドから言われております。とまで言えば、気付いた模様。
「冒険者なのか?」ってね。
「はい。3ヶ月経って16になりましたら、Aランクに上がる事になってます」
そう言って、にっこりと微笑めば、数名、赤が黄色になった。
それでも、赤いままなのは、商人の方だね。
それも、ご令嬢方をロックオンしてるって事は、コイツ奴隷商人の可能性が高いね。
「あ!もう1つ、魔法学園の遠征実習中ですので、高位貴族を敵に回すのは、如何かと思いますよ」
そう言って、商人を睨み付ければ、顔色を変えた。
だけじゃなく、「ほぉ。ジェレミー商会じゃないか」と、馬の世話をしてたヴィルジーク様が出て来た。
第1騎士団副団長の肩書きは有能で、あっという間に、赤は消え、黄色も消えてた。
ヴィルジーク様じゃない団員だったなら、どうだっただろうな。と思いながら、グループに戻った自分。
「ライラ、お前、優秀だな。交渉も出来るのか」
そう言って、ヴィルジーク様戻って来た。
「1つの言葉で、表と裏がある会話をする令嬢方の方が優秀ですよ。猫は逃げるし」
そう言って、溜息を吐いてた自分。
自分たちが出発する前に、奴隷商人と思われる車列出て行った。
だって、馬車が木の箱型で、出入口に鍵が掛かってるし、糞尿垂れ流しなのか、すえた臭い匂いがしてたし。
ただねえ、その匂いがしてるのは、魔物を呼びやすいので、非常に不味いんだ。
自分が顔を顰めてる理由が、コーデリアでさえ分かっていない様だったけど、ヴィルジーク様は分かってる模様。
だけど、監視者だけに、助言を与える訳には行かない。
自分1人であれば、気にせずに行くよ。
出くわせば、討伐するだけだから……
攻撃魔法は知ってるけど、ほぼ初心者に、遭遇する可能性が高い魔物の襲撃に遭わせるのか。
「説明するね。さっきの商会の馬車から、荷物は奴隷なの。」
そう言えば、全員の顔が引き攣った。
「到着地に着くまで、馬車の鍵は開けられない為、糞尿はその場で垂れ流し。その匂いで、魔物が襲撃して来る。このまま、出発すれば、こっちの馬車の方が軽いので追い付く。」
そこまで口にして、出発するか否かを問われてると分かったみたい。
「襲撃に遭遇し、助けられるのなら、出発する」
そう言ったのは、出発が遅れると行程が狂う以前に、遭遇した時点で狂うから。
「追い抜くのは?」と聞かれ……
「うーん、ここから先、道が狭くなるからなあ」
そう言えば、「その場所が襲撃地になる?」と聞いたのは、コーデリア。
「盗賊なら、その場所だけど、魔物に知恵はないからねえ、匂った時点が襲撃時」
6人も護衛が居たんだから、大丈夫じゃない?と言う者はいなかったので、そこまで頭は回ってないと思う。
ほぼ初心者の学園の遠征実習ではなく、冒険者パーティーなら、助けに行った可能性はあった。
女子ばかりのグループではなく、男子ばかりのグループであれば、尚のこと、頭でっかちになって、突っ走った可能性があったけど……
結局、少し時間を置いて、出ようと言う事になった。
この判断をどう感じるかは、個々だけど、ヴィルジーク様に守って貰って、行程通り先に進もうと言う者がいなかった事には、ホッとした。
この遠征実習の視点を理解していない者が陥りがちな点に、行程を組む際に、釘を刺しておいて良かったよ。
行程通りに進まないのは失敗ではないんだ。
予定通りに行く事の方が少ないだけに、遭遇した事にどう対処したのかの方が重要なんだ。
だから、グループ行動を乱す行為は厳禁なんだよ。
それで、案の定、奴隷商人の隊列は襲われた様だけど……
護衛が強いのか、ゴブリンが6体死んでたんだけど、後始末して行け!
3頭の狼が貪っていて、レイトルが蹴り入れる羽目になった。
「先に進んでいて下さい。始末して追い付きます」
そう言って、ヴィルジーク様には先に進んで貰った。
レイトルが魔石を食べると言うので任せ、その後、消失魔法を行使してから、追い掛けた。
レイトルが駆けたら、あっという間に追い付いた。
その後、野営する予定の場所まで、魔物が出くわさず、奴隷商人にも追い付かなかった。
たぶん、襲われた事で急いだんだろう。
野営の予定地には、またしても、先乗りの者が居たので、安堵は出来なかったんだけど……
ご令嬢方は安堵したみたいだよー。
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