25 / 79
第2章 乙女ゲームの矯正力は強いのか
遠征実習・2日目
しおりを挟む休憩所には、馬の水飲み場になる物がある場所も、たまにあるんだけど、野営の場所が、まさにそれ。
休憩所によっては、簡易の竈がある場所や、壁はないけど柱と屋根だけあって、食事がテーブルで出来る様な場所がある処もある。
この場所は、水飲み場がある程度の休憩所。
幌馬車を盾にして、テントを張る者に任せ、今回はレイトルを小屋に戻した。
理由は単純で、赤くなる者がいなかったから。
更に、不運にも首を狩られる者が出ない様にするのに戻した。
「親父の馬も、バトルホースだが、もう1つ気が強いな」
そう言って、笑ってるヴィルジーク様は、果敢にも寄って行って、齧られそうになってたの。
「師匠の婆ちゃんにさえ、噛み付こうとするので、困るんですよ」
そう言いながら、今晩の夕食をコーデリアと作ってたんだ。
そう、ご令嬢方で料理が出来るのはマレです。
まだ肌寒い時期なので、スープを作るんだけど、その前に火起こしです。
「遠征実習でなければ、手伝うんだけどなあ」
そう言いながら、覗き込んで来てたヴィルジーク様。
「騎士団でも、野外訓練あるんですよね」
そう言って話し掛ける生徒の話に付き合ってくれてた。
「訓練もあるが、遠征討伐の方が多いからね。近衛でない限り、王都にいないよ」
騎士団の実体に、驚いてるご令嬢方が多かった。
食事の時、夜間の見張り番の順番を決めたんだけど……
明日の朝の食事の準備の兼ね合いもあって、自分は最後だった。
ちなみに、休憩所には、魔物に襲われない様に、魔物避けが張られては居るんだけど、見張り番は居るんだよ。
召喚獣の小屋があると、1人だと全く気にしないで良いんだけどね。
「適宜で、お休みください」
そう言って、コーヒーの入ったマグカップを、ヴィルジーク様に渡せば、目を丸くしてた。
「何も入っておりませんよ。ご安心を」
そう言えば、噴き出したヴィルジーク様。
「本当に、情報通だな」と言って、困った様に笑ってるけど……
自分も聞いた時は噴き出したもん。
何でも、まだ公爵家三男の肩書きが効いた頃、媚薬を盛られたんだってー。
「こら、誰に聞いたんだ?」
少し本気で聞いて来たので、「早く寝ないと」と言って、逃げたんだ。
コーデリアと一緒に起こされて、テントから出てくれば……
ヴィルジーク様起きていて、基礎練してた。
「早いですね」っていうよ。
だって、昨夜、しばらく、ヴィルジーク様の声、聞こえてたからさ。
火起こし後、スープを作る際、休憩所の前にある草原に、コッコが居る事に気付き……
コーデリアに任せ、「卵取ってくる」と言って来た。
コーデリアは唖然としてたけど、「宜しく」と送り出してくれた。
ヴィルジーク様が驚く中、雄の朝の鳴き声がする位置に忍んで行って、索敵の位置にネットを放った。
けたたましいコッコの鳴き声も、電流ショックで直ぐ沈黙。
それから、卵の回収をしてれば、驚きながらも、ヴィルジーク様寄って来た。
うふふと笑う自分に「何処でも食べて行けそうだな」なんて事を言ってる。
ので、「夏に、辺境領に行くんですよー」と、取り引きの言葉を口にし始めた自分。
「それで、お願いがあるんですよね。ダーイン伯爵家にもあると便利ですよ~」
にこにこしながら言えば、目を丸くしてるヴィルジーク様。
「夏休みになる前に、こっそり王都のダーイン伯爵邸に呼んでくださいな」
そう言って、卵を入れた籠を抱え、前を向いて、歩き出せば……
「ちょっと待て!了承していない!」
そう叫んでるヴィルジーク様だったけど、嫌がっていないのは、声音で気付いてた。
コッコが騒いだ声で、野営地に居た人殆ど起きてた。
ので、「お騒がせしました。良ければ」と言って、卵を渡せば、誰も責めないんだよ。
自分たちのグループで食べる7個あれば良いんでね。
困惑してたけど、「お騒がせ代です」と言えば、受け取ってくれる。
ま、自分はコッコの肉が15羽分、インベントリにあるんで良いの~。
ベーコンエッグを乗せ、パンで挟んで焼いてたら……
コーデリアは「ホットサンド……」と呟き、何処で、そのホットサンドメーカー売ってるのか、聞いて来てた。
「鍛冶屋のオルガンさんに作って貰ったの。ランドルフ商会で売ってるよ」
そう言えば、「ええ~、そんな事聞いてない」とコーデリア言うので、聞けば……
あらまあ、ロッテンマイヤー家が、と言うか、コーデリアが手を出した商会だそうだ。
追放処分になった時の為に、稼いでたそうだけど、主に、コーデリア付きの侍従とメイドが運営してるそうだ。
自分が作って出したホットサンドと、コーデリアのスープに、「美味しい」と言って、食べてたご令嬢方。
食後、早速、出発したんだけど……
居合わせた人全員に、お礼を言われてしまった。
その野営地から、ヴィルジーク様の故郷、ランバルディア公爵領は直ぐだったんだけど……
公爵の弟が御者してるので、驚いて見て来られてただけでなく、当主に連絡が入ったんだろう。
ヴィルジーク様と代わる者が来てた。
それで、例年、魔法学園の者が野営する森に連れて行ってくれたんだ。
その後、行程通り、周囲の探索をして、キノコや薬草を採り、魔物が出れば討伐し、ギルドに売るまでが1連の行程なんだ。
その間は、代わりの者が監視というより、護衛の様な事をしていた。
まあ、魔法学園の生徒は貴族のご令嬢だからねえ。
傷物になったといちゃもん付けられたら、敵わないもんね。
ヴィルジーク様が戻って来たのは、夕刻だった。
ただ、何故か、現当主のヴィルジーク様の兄で、攻略対象者の父親を連れて来てた。
ので、全員でご挨拶させて戴いた。
のだけど、何やら値踏みしてる様に感じたんだよねえ。
まあ、見てるのは自分だけじゃなく全員だけど。
確かに、コーデリアとイルラは、第2王子が決められば、息子の相手になりうるから分かるけど。
コーデリアはどうするのか聞いてないけど、イルラは魔術師塔に籠るんだってー。
本当に出来るかどうか不明だけど。
次の日には、ランバルディア公爵領を出て、王都に向け、帰途に着いたんだけど……
遠足は家に着くまでとは、よく行ったものだと思ったのは、王都に向かう道で、盗賊に遭遇した。
イルラのバトルホークの索敵に、え?!と思ったけど、ベリンダも同じ報告で、びっくりしたよ。
だけど、ヴィルジーク様が驚いていないと言う事は、この領は以前より、不当に税を上げてるって事?!
だって、捕まったら犯罪奴隷に落ちるの確定なのに、盗賊になるのは、死活問題で仕方なくの者が多いって、婆ちゃんから聞いた事がある。
そう思うのも、盗賊の武器や装備がお粗末でさあ。
他人の富を掠めとる輩の盗賊とは丸っきり違って……
ヴィルジーク様が、端正な顔を歪めて、こっちに走るなら、領主の税金が暴利だとする証拠を掴んで、持ってこいと言っていた。
他家の養子に行ってしまう自身へではなく、ランバルディア公爵領に。
そう、街道を塞ぎ、手に武器を持っていても、ヴィルジーク様の姿とバトルホースのレイトルを目にして、武器を置いたの。
きっと、ヴィルジーク様の姿は、この辺で有名なんだろうね。
でも、ヴィルジーク様の姿が抑止力になるのであれば良いと思うよ。
盗賊の1件があったとしても、時間通りに学園に戻って来れた。
「ご一緒して戴きありがとうございました」
そう、全員で、ヴィルジーク様に挨拶をして、お別れしたんだけど……
ヴィルジーク様の後ろ姿に、全員で「かっこいいよねえ」と言ってたんだ。
でも、皆、ヴィルジーク様が辺境のダーイン伯爵家に養子に入るのを、そう知ってたの。
こういう情報、やっぱり水面下で流れて行くんだね。
と言うか、自分の耳に入るくらいだもん。
それでほぼ全員が、「目の保養が……」と残念がってるけど、辺境領に嫁に行こうと思うご令嬢方はいない。
魔の森の側だからだろうけど、高級素材いっぱいだよ。
自分なんて、夏休みに稼ぎに行こうと思ってるのに。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
71
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる