セフィロト

讃岐うどん

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ロシア編

第四話 ダアト

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「だあ、と?」
 少年……『天下蒼天』レードの言葉に、足を止め耳を傾けるのは、秀。少年の後ろまで歩いた蹄を返し、振り向いた。
「おや、知りませんか。とぼけているわけでは無いようですね」
「どういうことだ?」
 少年はタバコを吸いつつ、秀の身体を舐めるように見渡す。気味が悪かった。蛇睨みにあったようで、動けない。
「そもそも、アンタ誰だ!?」
 震える手を隠し、力強く問う。
「調律師。『天下蒼天』レード。どちらでもいいですよ」
「レード……!?」
 こいつが!?
 アストラルから聞いた話を思い出す。此度の戦い。彼女の協力者。この町にやってきた調律師。
「何の用だ……!?」
 逃げ出したい。秀は気持ちをグッと抑える。本能的に察した。背中を見せれば死ぬ。
「確認、ですね」
「確認?」
「ええ。8年ほど前の事です。深淵アビスでとある神具が、行方不明になりましてね」
 解説をする少年の口から、煙とともに明確なる殺気が漏れ出ていた。もはや隠す気すら無いのだろう。
「名をダアト。古きセフィロトの力。その一つです」
 ダアト。
「……知らない」
「でしょうね。そも、調律師ですら一部しか知らないのだから」
 いつしか、彼の左腕には、巨大な斧が握られていた。柄に無数の眼が生えた凶々しい姿に、秀は吐き気を覚えた。
 切先を地面に向けているが、斬られたような感覚に見舞われる。幻覚だと理解して、目が離せなくなった。
「まさか、戦う気か?」
「いえいえ。そんな──」

 タバコを宙に放り投げ、切り刻む。斧の先端を、少年は向ける。塵芥が地面に落ち、

「一方的な、ですよ」
 レードの横殴りの一閃が、秀を襲う。
 加速する一撃は、少年の頬を浅く切り裂き、彼に尻餅を着かせた。
「っ!?」
 一瞬、一撃だった。
 勢いの割に威力はない。レードは秀に当てる直前、刃を止めた。
 首を切らなかったのは、天下蒼天にその気が無かっただけだ。殺意すらない。
 差を示すだけでいい。
 仕事だと完全に割り切っていた調律師は一歩、一歩と近づき、少年と同じ目線へ屈む。
「蘇生術式を刻みます。一度の死は覚悟しておいて下さい」
 先程切り裂いた頬に、手が触れる。滴る血を指先で回収。斧の切先を血でなぞる。
 すると、持ち手に生えている無数の眼、その一つが、閉じた。
「では、お休みなさい」
 少年の首が、刎ねられた。




「……」
 死んだのか? と、少年は思考する。何も見えない今。自分の身体もあるのかないのかわからない曖昧な世界。
「ダアト……?」
 原因を思い出す。
 そんな名前のモノが、オレを殺した。
 タバコの少年に首を刎ねられた。
 恐怖で震えて、声が出なかった。
 体が動かなかった。
 絶対的敗北。
 刻まれた痛みは、意識だけを飛ばした。
「オレは……」
 実感はない。
 死、という事象は理解しているつもりだ。殺された、という事実も。痛みは無かったと思う。一瞬だったし、アドレナリンでかき消された。
「どうすればいいんだ……?」
 悔しい。
 少年の力は圧倒的だ。かないっこない。
 あの斧を振るわせた時点で、絶命は運命だった。もう一度やったって、それは変わらない。
 勝ち目はない。
(……はっ。でももう意味ないや)
 死んだのだ。
 諦めがつき始めてきた。
 意識が溶け、目の前が更に暗く堕ちる。
 少年は、無意識のうちに呟いていた。
「ならば、




『創世よ、我らが命を』

 鈍い感覚の指先で、空をなぞる。

『神に等しき、始まりの木よ』

 空に描く五芒星に、手を伸ばす。

『其が権能を用いて、我らが旅路を』

 五芒星が妖しく光り、溶ける。

『導き給え。かくして──』

 色は、。命、そのものを形取る、セフィロトの印象。

『新なる、世界を迎えよう』

 溶けた光は、優しく少年を包み、目覚めさせた。
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