セフィロト

讃岐うどん

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『黄金卿』編

第18話 強大なモノ

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「──。一人目」
 彼女は蹄を翻した。
 ローブを靡かせ、何処かへと向かう。
(一発とは言え、直撃して死なないのは流石と言うべきか)
 その射撃距離は、およそ5キロメートル。
 雷とは言え、その長距離を狙撃したのだ。
 彼女の背後には、巨大な魔法陣『禁忌の罰リア・レプリカ』が展開されていた。
 数は一つ。術式は既に焼き切れており、赤い煙が舞っていた。
(殺す気じゃ無かったのは、幸運だったね)
 彼女が本気だったら、あの赤雷が何発も飛んで来た。一撃必殺の連撃。
 彼女は住宅街の家根から家根へと伝っていく。家根が踏まれた、と気づくよりも先に、彼女はさらに先へと進んだ。
(まさか……『』を使えないとは……)
 期待外れだった。彼女は最初ハナからベリアル達の戦いを観ていた。その一挙手一投足を、採点をする教師の様に眺めていたのだ。
(『』を使えない守護者ピルグリムなど、あってはならない)
 彼女の周り、命力の密度が高くなっていく。それは、段々と勢いを増す。回転を持ち、いつしか渦巻き状へとなった。
 その意味をが理解するのに、相当の時間が掛かった。
「次は──」
 移動は、終わった。
 まだ、住宅街は抜けていない。だが、道を塞ぐ少年が居た。帽子を深く被り込んだ
 目の前の少年を見て、彼女は悪辣な笑みを浮かべる。
「謎だ。『調律師』ならまだしも、人間が私の前に立ちはだかるとは」
「……」
 彼は答えない。ただ、帽子の奥底から眼前に立つ敵を睨んでいた。
「キミが私に勝てると? 闘いにすらならないのに? 一方的な蹂躙となるのに?」
「──黙れ『赤い罰レッドバレット』。
「……ッ!」
 言葉にでは無い。
 その声はドス黒く、とても少年から発しているとは思えなかった。だが、その声に彼女は聞き覚えがあった。それも、かなりの。
「それ、声真似? だとしたら、キミを殺す。我らが『』を侮辱するか」
「──我が意思は、此処に。我が意思に反する行動は、何人たりとも許さぬ」
 帽子の奥底、視線が交差した。その人物に心当たりがあったのか、彼女は口を開いたまま動かなくなった。
「……何故、アナタが……?」
「──フ」
 とん、と彼女に近づき、顎に触れる。
 距離は無い。息が触れ合う。彼は平然として、彼女にだけ聞こえる声量で呟いた。
「いずれまた、我々は会う。その時はまた、4
「……はい」
 動けなくなった彼女に、彼は少し笑って抱きしめる。一連の行いに、彼は恥ずかしみも躊躇も一切無かった。
「さぁ、『赤い罰』。オマエは見ているだけでいい。干渉はダメだ」
「……」
 彼女の方は、どうだか。
 頭が真っ白になって、話を覚えきれていない。






 彼女アストラルの異変をいち早く察知したのは、二人。
 一人は『黄金卿』との戦闘中であり、優先事項の観点から見捨てる判断を下した。
 その判断は、とても合理的だ。
 調律師としては、100点満点の回答。
 だが、もう一人は違った。
 もう一人は、調律師ではなかったのだから。


 ──数分前。


「おい……何をする気だ!?」
 横になっている御門を担ぎ、小屋を出ようとしていた。その力に、僅かな違和感を覚えた楽。だが、今はそれどころではなかった。
「決まってんだろ! もっと安全な場所まで運ぶ!」
「オマエ分かっているのか? 今この街は戦場とかした! 『黄金卿』に『赤い罰』までいる! 安全な場所なんてない!」
 力無く反論する御門。いつもなら、秀なんて簡単に振り払える。今彼が弱体化しているのも確か。だが、それ以上のモノを感じ取っていた。
「だからって、オマエをあそこに放置なんて出来ない!」
「チッ。いいから降ろせ!」
 その違和感は、漸く言葉にできそうになった。言語化できない小さなそれは、長い時間を掛けて論理としてまとまる。
(俺の命力が……!?)
 それも、ただ減っているだけではない。
 まるで、。誰かに吸われている。そんな感じだ。
(何処だ……誰だ? 誰が、俺の命力を……!)
 その元を辿ると、秀に辿り着いた。あり得ない。そう思った御門だが、何度道標を辿っても、最終的に秀に辿り着いてしまう。
(バカな……いや、そんなわけ無い!)
 あり得ない。信じたくなかった。
(秀が、飢餓……!?)
 調律師では無い。彼が調律師なら、そもそも勝手に命力は持っていかれない。必要が無いのだ。
 だとして、人間では無い。なれば、
「オマエ……誰だ?」
 そう、問うのも仕方あるまい。
「誰って、オレだ。オマエ頭打ったのか?」
 キョトンとした彼の声。本当に心当たりが無いのか。それとも必死に騙しているのか。
「……」

 いつしか森を抜け、山の麓に着いた。
 御門は段々と意識が遠くなっていったのを覚えて、ハッとなる。
「はぁ、はぁ、はぁ。大丈夫か!? 御門」
 地面に下した彼に、秀は右手を伸ばす。だが、
「ッ! 来るな!」
 彼はその手を払い、地面を蹴る。
 間合いを取り、命力を敵対モードへと切り替えた。
「御門? どうしたんだ?」
 警戒を表に出す彼に対して、秀は一切命力を荒立てない。隙だらけだ。
「秀、オマエ。調律師だったのか!?」
 御門は左手の人差し指をピンと伸ばし、彼に向ける。彼の意志一つで、いつでも術を発動できる。
「……」
 答えず、目を逸らす秀。
「沈黙はイエスと受け取るぞ……!」
 パン!
 命力の一閃が、彼の背後の木を打ち抜く。
 眉間に皺を寄せ、険しい目つきになる。
 ようやくその意図を察した秀は、
「オレは調律師じゃない」
 両手を上げ、距離を置いて答えた。
「だろうな。だが、ただの人間でも無い。何故、命力のことを知っている?」
「イスカトルに襲われていたところを、助けられたからだ」
「……イスカトルだと?」
 訝しむ御門。
 彼もラセツ同様、イスカトルとの面識があった。彼らが不殺の条約を結んだのをその眼で見ている。
 その上、常に監視まで行っていた。
「いつだ?」
「一週間前の夜」
 右手を口元に当て、記憶を探る。
(確かに……その日ヤツは神技を使った)
 だが、不信感が拭えなかった。
(なのに何故、ヒトへの記録が無い?)
 人間への使用時、イスカトルに警告が行く術式が仕込まれている。
 そのデータは彼らにも共有される。
(……これ以上敵を増やさないでくれ!)
 警告が来なかった以上、エラーを疑うのが常識だろう。だが、彼には自信があった。
 自分の作った術式がエラーを吐くなど、一度もなかったからだ。
「……おい、どこへ行くつもりだ!?」
 考えていると、秀が後退りしていた。

「……あ?」

「オマエ……何だ……その眼!?」
 正面の少年は虚ろな瞳で、どこかを見つめている。さっきまで話していた少年と同一人物とは思えなかった。
(あの色……!?)
 黒色の眼は、宝石の如き美しさを手に入れた。翡翠色のソレは、

「行かなくちゃ」

 と、呟いて、進む。
 その歩みに意識は無い。ただ、「行かなくちゃ」と呟き続け、歩く。
(クソ……速い!)
 追いかける御門。
 だが、秀? は比較にならない速度で歩いていた。
 まるで、揺らめく影のようだ。
 目の前にいたのに、いつのまにか消え去っている。
「……秀ぅぅぅぅ!!」
 見失った彼は、遥か先に行ってしまった友だちの名を叫ぶ。
(……クソ)
 地面を叩き、歯を食いしばる。
 誰もいなくなった。
 かぁかぁ、とカラスの鳴き声が聞こえる。
 何度も、何度も、何度も、何度も。
 止められなかった自分を、
「……バカが」
 責める。
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