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『黄金卿』編
第19話 ラセツ
しおりを挟む他方での決着が着き始め、終戦の兆しが見え始めた頃も、彼らはその手を止めなかった。
「貫け! 千連葬送!」
ゴーレムの腕が呆気なく切断される。
勢いは止まらず、後ろにいたエルドラドを切り裂かんと突き進んでいた。
「……ほぉ?」
と、
「……何!?」
そのとき、
「……赤雷!?」
ゴォォォォォォォン!!
と、轟音が鳴り響き、全員の視線が一致した。赤色の閃光が、世界を照らす。
(バカな。彼女がここに?)
エルドラドは思考の一部を現象に向け、残りを敵に向ける。
(レッドバレットだと!?)
ラセツは咄嗟に地面を蹴り、距離を稼いだ。
(……マズイですね)
『天下蒼天』ことレードは選択を迫られていた。
「あの方向……ベリアルの」
呟いたエルドラド。
目を丸くしたレード。
眉間にシワを寄せたラセツ。
「ラセツ! 私は──」
「解ってる。行け!」
レードの意思を読み取った彼は、二つ返事で許可を出した。
「すみません、頼みます!」
言い残し、スッ、と消えていった。
「ほう。『赤い罰』相手に向かったか。我相手に、そこまで余裕があるとは思えぬが」
杖をトン、と叩き、地面を黄金色に変える。命力の流れは、血脈に侵攻し、我が色へと世界を塗り替えていく。
「……一人か」
塗り替えられていく世界。
その意味を知っている彼は、無駄な抵抗をやめ、呼吸を整えていた。
(結局、こうなるのか)
ため息半分、殺意半分。
切り替えて、前を見ろ。
「いい加減、鬱陶しくなってきた。そろそろ、本気でケリつけるぞ」
肩を回し、チャクラムを手に取るラセツ。
暗い空が、昼間のように明るくなる。
金属光沢が眩しい。踏んでいた草が、硬くなる。『黄金郷』だ。
「いいだろう。──行くぞ!」
「伝うは熱。与うは光。玉砕しろ──」
黄金卿が唱える。一言一句聞き逃さないラセツは、突き進み、両手のチャクラムを新たな形へと変形させる。
「木蓮──『虎衣殿斗』!」
三又の槍へと変化した武器は、
「はぁ!」
敵の頬を掠め、その心を捉えんと振り落とされる。
「無駄だ。『黄金肉体』!」
彼の肉体の一部が黄金へと変化し、トライデントを止める。やはり黄金。彼の力は全て黄金に回帰する。
「良い加減、鬱陶しいな」
エルドラドは杖を剣がわりに振るう。
その速度は、
「うごぉ!!」
ラセツの反応速度を上回っていた。
腹に命中し、咄嗟に痛みを抑える。
「それは、隙だ」
紳士の蹴りが、
「おお!!」
ラセツを蹴り飛ばし、地面に叩きつけた。
「……がは!」
「知っているだろう。『命力』の込められた一撃は、全てを打ち砕くと。命の燈。輝きは硬度の壁を越える。それは、生命に対しても同じだ」
ゆっくりと近づくエルドラド。
対するラセツは、血反吐を吐き力無く横倒れている。敵を睨むその眼力は、今でも他を寄せ付けない。
「木蓮に命力を注ぎ過ぎたな。ガードを棄てた時点で、キサマの敗北は確定していた」
トドメを刺そうと、左手に命力を寄せ集める。
(クソ……負けか?)
どうにかしようにも身体が動かん。
内臓が逝っている。どの臓器が壊れたのか判断がつかないが、一つではなさそうだ。
痛みは治りつつある。だが……
(考えろ……考えろ!)
何か手はあるはずだ。
詰みだとしても抗え!!
希望は、まだ……!
「死ね。希望など────────」
諦め半分、目を瞑った。
撃たれるのは時間の問題だ。
敗北を喫したのは、これが初めてだった。
まぁ、敗北は死だからな。生きてる時点で無敗なんだが。
あの日を、思い出す。
たった一人を守ることができなかった。
飢餓に目の前で喰われた女を。
絶対に守ると誓った大切な人を。
誰も、不幸にならない世界を求めて、調律師になったんだ。
せめて……
「ある!」
それは、
「何!?」
少女の一閃!
満身創痍の、完全なる不意打ちだった。
エルドラドが気づいたのは、一撃を喰らった直後。
「バカな!!」
(我が結界に我々以外居なかった!! 途中で入ったのなら、絶対に気づく!! こやつ……!!)
予想できなかったのは、この場にいた二人とも。
「ぬぅ!!」
背後へ杖を払う。当たらない。もうとっくに移動していた。
「オマエ、どうやって……?」
「いろいろあった。でも、もう大丈夫!」
『安心して休め。ただし、決着は我々が貰う』
なんだそりゃ。
いろいろあった? 説明になってない。
でも、適当な答えに納得してしまった。
何故だろうか、任せる以外。
「……頼んだぞ」
思い浮かばなかった。
「うん!」
───数分前。
「……あ?」
彼が気づいた時、彼は唖然としていた。
周りを見渡せば、彼岸山。降りたはずなのに、また登っていた。
「……御門?」
運んだ友人の姿が見当たらない。
辺りを見渡した瞬間、それに気づいた。
「何だ……アレ!」
夜中だというのに、昼間のように輝いてるそれを。ドーム型で、山間部を呑み込んでいる黄金。
「エルドラド?」
無意識に口にした名前。
心当たりは無い。でも、知っている。
「行かなくちゃ!」
自分にできることを、するんだ!
「無駄だ」
走り出そうとして、止められた。
どこからか発せられた男の声。
振り向けば、影。人の形をした陽炎がいた。木の枝に、ニンジャの様に乗っている。
「誰だ!?」
拳を構える秀。
敵意を向けられた陽炎は、ゆっくりとその姿を表す。
「二度、我が身を晒すことになるとは」
それは、いつしかの仮面の男。
人間に近しいが、かけ離れている異形のそれは、
「結界の中に入る、などと考えるな。今の貴様が行っても、数秒足らずで死ぬだけだ」
パッと消え、また別の場所に出現する。
「守護者の子に救われた命。帰れと警告された上で、こちらの世界に入り込むのか?」
右手を握りしめ、睨む。
すると、また、消えた。
「冷静に考えろ、周防秀。今の貴様に何ができる? 敵の囮か? 的役か? ……論外だ。話にならん」
「わ、わからないだろッ!!!」
声を荒げてしまった。
「いいや、分かる。公園での『飢餓』にすら勝てなかった貴様だ。足を引っ張り、今戦っている者を敗北へと陥れる」
「ッ!」
彼の話はどれも、正しい。
今更、足手纏いが行って何ができる?
命を捨てて、それで何を得る?
助けれる。ああ、そうだろう。でも、誰を?
「強者には、強者の闘いがある。そして──」
仮面の男は、秀の眼前に現れると、
「弱者には、弱者の闘いがある」
それだけを言って、秀の手を握った。
「!?」
理解よりもずっと早く、術が発動する。
刹那、秀の視界が、一転した。
「ク……! ここは!?」
目の前には、川が流れていた。
秀の焦りとは裏腹に、川の流れはとても緩やかだった。
不良の溜まり場で有名な河川敷には、誰もいない。
『人払い』が使われているのだろう。
「己の思いに従うのは間違っていない。自分の背中を突き動かす、ナニカを定め、見極めろ」
「どういう……ことだ!?」
秀が男の言葉を理解するより先、
「……ぅ、ぁ」
川から、力無いうめき声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声に、秀は目を見開く。血だらけで、所々の皮膚が焼けこげていた。
「アストラル!」
致命傷だ。赤雷をその身に受けたのだ。肉体は死を迎えかけていた。意識はある。
『周防……秀……!』
彼女の身体に纏わりつく黒いもの、エディアは目の前の少年に気付いたのか、持ち主と同じく力無く声を発する。
『なぜ……オマエ……が?』
途切れ途切れの声に答えず、秀は仮面の男を見ていた。彼はいつしか宙に浮いており、視線は秀へと向けられていた。
「貴様の覚悟を見せてみろ」
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