異国の地で願うもの、それは

桃木葉乃

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 声が聞こえる。
 波の音と一緒に……声が、聞こえる。
 誰の声? 男性の……どこか懐かしい低い声。
 そして女性のこの声はまさか……。

「また会いましょうね、また五年後にここで。船に乗って会いに行きます」

 これは私の記憶? ああっ、私は思い出せるんだ。
 このまま夢に身を任せれば――。


 けれど、現実は甘くなんてなかった。
 夢は眠っているときに見るもの。自分の意志で長く見ることなんて出来るわけないのだから。

「ああっ、思い出せそうだったのに……」

 私は自然と言葉を漏らした。
 目が覚めて一番最初に見えるもの、それは夢の続きなんかじゃなくて、もう見慣れた木材の天井。
 布団から出て襖を開けると空はまだ薄暗く、夜が明けようとしているようだった。
 私は彼にもらったお守りを見つめると、ほんの暇つぶしに部屋に置いてある一冊の本を手に取った。
 この本は、この国の文字が書かれた本。
 本を開き数ページ捲ると、そこには大量の文字が記されていた。

「うっ、うぅ……やっぱり、む、難しいですね……」

 私にはこの本に載っている文字が読めない。
 それはここが異国なのだと、ひしひしと感じるのだった。
 更にページを捲ると、一枚の紙が本の隙間から流れ落ちた。
 紙を手に取ると、そこには文字が書いてあった。

「えぇーっと……タカ、ハナ……鷹華? 鷹華って……」

 紙を裏返すとそこ描かれる男の人は、幼いながらも間違いなく面影の残る姿は彼だった。
 そしてその隣に描かれている女の人の顔に息を呑んだ。
 私は鏡で自分の顔を見て、もう一度紙を見た。
 そう、描かれている女の人は私に似ていた。
 私に似て、違う人。その時私は思い出した。

『どうして私にこんなに良くしてくださるのですか?』
『それは君が――いや、そろそろ……』

 あれはやっぱり話を逸らしたんだ。
 一緒に写ってるこの子は誰? この子に似てるから私に彼女の名前を?
 考えれば考えるほどわからなくなっていく。
 なんだろう、この気持ち……すごく胸が痛い。


 肖像画を見つめていた私の肩はポンッと叩かれる。
 驚いて顔を上げると、彼が心配そうな表情で私を見ていた。

「どうしたんだい? 呼んだけど返事もないし、体調でも悪いかな?」
「いえっ、大丈夫です。ただ、その……ごめんなさい、勝手に読んでしまいました」

 私はとっさに肖像画のを隠して本を見せた。

「ははっ、構わないよ。でも鷹華には難しくなかったかい?」
「あはは、実はとても……難しくてなんて書いてあるかわかりませんでした」

 彼は私が隠したことに気が付いてるかもしれない。
 私には気付かないフリをしてくれているように見えてしまう。

「今日は休みだけど、行きたい場所はあるかい」
「海に、海に行きたいです。今日、夢を見ました。海の夢……なんだか懐かしかったんです」
「そうか。記憶の手掛かりになるかもしれないね。じゃあ、海に行こうか」
「ありがとうございます」
「いや、君の力になれるなら嬉しいよ」

 そう言って私の頭を撫でてくれる彼の手に、肖像画の彼女にも同じようにしていたかと思うと胸が締め付けられた。
 もしかしてこれは……嫉妬?
 ああっ、やっとわかったこの気持ち。私は彼が好きなんだ。
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