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02:元気出して!
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「…………」
何故か困惑したような顔で私を見る日向くん。
『家族はいるんでしょう?』
答えない彼に、私は同じ質問を繰り返す。
「……兄が二人と父が。母はいない。小さい頃に亡くなった」
日向くんもお母さんを亡くしているんだ……。
『仲は悪いの?』
この質問をするには多少の勇気が必要だった。
肯定されたらどうしよう。どうか否定して欲しい。
「いや、別に。普通だと思う」
あ、良かった。
私は胸を撫で下ろし、次の文字をメモ帳の余白に綴った。
『お母さんが亡くなったのは残念だけど、日向くんに心配してくれる家族がいて良かった。自分語りになるけど、私は小学生のときに両親を事故で亡くしたの。兄弟のいない私はひとりぼっちになっちゃった』
「……。いまはどうしてるんだ?」
『遠縁の家でお世話になってるよ。辛いことも多いけど、それでもがんばって生きてる』
「……大変なんだな」
神妙な面持ちで日向くんは呟いた。
彼の形の良い顎から雨の雫がしたたり落ちる。
『ううん、だいじょうぶ。私のことより、なやみごとがあるなら思い切って家族に打ち明けてみて。きっと力になってくれるよ。学校でいじめられてるなら転校しちゃえばいいし、いやな人がいるなら逃げちゃえばいい。日向くんの人生は日向くんのもので、他人に煩わされる必要なんてないんだよ』
「…………」
日向くんは押し黙り、私が綴る文字を目で追っている。
水をたっぷり含んだ彼の前髪から、ぽたり、と新たな雫が地面に落ちた。
『私には日向くんがどんな問題を抱えているのかわからない。でも、自殺なんかして、家族を悲しませたらだめだよ。ぜったいだめ』
「あー……」
真剣な瞳で見つめると、日向くんは眉間に皺を寄せて小さく唸った。
偉そうに説教じみたことを言ったせいで気分を害してしまったのだろうか。
でも、自殺なんて絶対駄目だ。
幼い頃に両親を失い、祖母も見送った私はこれ以上誰かに死んでほしくない。
誰にだって生きていてほしいし、願わくば生きて幸せになってほしい。
……綺麗事だってわかってるけど。
『わかってくれた?』
「ああ、うん。いや、……わかった」
念を押すと、日向くんは微苦笑した。
ささいな笑顔だったが、感情が出せるようになったならもう大丈夫だろう。
私はほっと息を吐いてから、メモ帳に文字を綴った。
『帰りが遅くなると家族が心配するよ。このままじゃかぜを引いちゃうし、早く帰ったほうがいいよ。私は卵を買いに行かなきゃいけないからこれで失礼するけど、ちょっとまって』
「?」
不思議そうな顔をしている彼の前で、私はリュックを下ろした。
メモ帳をリュックに押し込み、代わりに未使用のタオルを引っ張り出す。
こんなこともあろうかと、タオルを用意しておいて良かった。やはり日ごろの備えは大事だ。
私は日向くんの首にタオルをかけ、リュックを背負い直した。
「いや、要らないから。傘も返す――」
日向くんはタオルと傘を付き返そうとしてきたが、私は手を振った。
――返さなくていいから、使って。風邪引かないでね。
彼の目をまっすぐに見つめ、そう念じてから踵を返し、土砂降りの雨の中を駆け出す。
渡る途中で青信号が点滅し始めたのを見ながら、私は橋の先の横断歩道を走り抜けた。
「待てって!」
日向くんは追いかけてきたが、赤信号に阻まれて足を止めた。
走り出した車越しに彼の悔しげな顔を見て、私は目を開けていることが辛いほど激しい雨に打たれながら、にっと笑った。
頭の横まで両手を上げて拳を作る。
――元気出して!
そのポーズの意味は正しく伝わっただろうか。
横断歩道の前で立ち尽くしている日向くんに向かって、私は大きく右手を振った。
そして、くるりと足のつま先の向きを変え、軽くなった足取りで雨の中を歩き出したのだった。
何故か困惑したような顔で私を見る日向くん。
『家族はいるんでしょう?』
答えない彼に、私は同じ質問を繰り返す。
「……兄が二人と父が。母はいない。小さい頃に亡くなった」
日向くんもお母さんを亡くしているんだ……。
『仲は悪いの?』
この質問をするには多少の勇気が必要だった。
肯定されたらどうしよう。どうか否定して欲しい。
「いや、別に。普通だと思う」
あ、良かった。
私は胸を撫で下ろし、次の文字をメモ帳の余白に綴った。
『お母さんが亡くなったのは残念だけど、日向くんに心配してくれる家族がいて良かった。自分語りになるけど、私は小学生のときに両親を事故で亡くしたの。兄弟のいない私はひとりぼっちになっちゃった』
「……。いまはどうしてるんだ?」
『遠縁の家でお世話になってるよ。辛いことも多いけど、それでもがんばって生きてる』
「……大変なんだな」
神妙な面持ちで日向くんは呟いた。
彼の形の良い顎から雨の雫がしたたり落ちる。
『ううん、だいじょうぶ。私のことより、なやみごとがあるなら思い切って家族に打ち明けてみて。きっと力になってくれるよ。学校でいじめられてるなら転校しちゃえばいいし、いやな人がいるなら逃げちゃえばいい。日向くんの人生は日向くんのもので、他人に煩わされる必要なんてないんだよ』
「…………」
日向くんは押し黙り、私が綴る文字を目で追っている。
水をたっぷり含んだ彼の前髪から、ぽたり、と新たな雫が地面に落ちた。
『私には日向くんがどんな問題を抱えているのかわからない。でも、自殺なんかして、家族を悲しませたらだめだよ。ぜったいだめ』
「あー……」
真剣な瞳で見つめると、日向くんは眉間に皺を寄せて小さく唸った。
偉そうに説教じみたことを言ったせいで気分を害してしまったのだろうか。
でも、自殺なんて絶対駄目だ。
幼い頃に両親を失い、祖母も見送った私はこれ以上誰かに死んでほしくない。
誰にだって生きていてほしいし、願わくば生きて幸せになってほしい。
……綺麗事だってわかってるけど。
『わかってくれた?』
「ああ、うん。いや、……わかった」
念を押すと、日向くんは微苦笑した。
ささいな笑顔だったが、感情が出せるようになったならもう大丈夫だろう。
私はほっと息を吐いてから、メモ帳に文字を綴った。
『帰りが遅くなると家族が心配するよ。このままじゃかぜを引いちゃうし、早く帰ったほうがいいよ。私は卵を買いに行かなきゃいけないからこれで失礼するけど、ちょっとまって』
「?」
不思議そうな顔をしている彼の前で、私はリュックを下ろした。
メモ帳をリュックに押し込み、代わりに未使用のタオルを引っ張り出す。
こんなこともあろうかと、タオルを用意しておいて良かった。やはり日ごろの備えは大事だ。
私は日向くんの首にタオルをかけ、リュックを背負い直した。
「いや、要らないから。傘も返す――」
日向くんはタオルと傘を付き返そうとしてきたが、私は手を振った。
――返さなくていいから、使って。風邪引かないでね。
彼の目をまっすぐに見つめ、そう念じてから踵を返し、土砂降りの雨の中を駆け出す。
渡る途中で青信号が点滅し始めたのを見ながら、私は橋の先の横断歩道を走り抜けた。
「待てって!」
日向くんは追いかけてきたが、赤信号に阻まれて足を止めた。
走り出した車越しに彼の悔しげな顔を見て、私は目を開けていることが辛いほど激しい雨に打たれながら、にっと笑った。
頭の横まで両手を上げて拳を作る。
――元気出して!
そのポーズの意味は正しく伝わっただろうか。
横断歩道の前で立ち尽くしている日向くんに向かって、私は大きく右手を振った。
そして、くるりと足のつま先の向きを変え、軽くなった足取りで雨の中を歩き出したのだった。
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