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83:月が欲しいと泣く子ども(1)
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翌日の金曜日は快晴だった。
午前十一時を少し過ぎ、いまは古典の授業中。
古典の担当は初老の斎藤先生だ。
授業中にも関わらず、私がこうして窓の外を見ていられるのは、斎藤先生が生徒を指名したりせず、『授業を聞くのも聞かないのも生徒の勝手、成績についても自己責任』というスタンスを取っているから。
たとえ授業中に眠ろうと、違う科目の課題をやろうと、斎藤先生は怒らない。
周りの生徒の迷惑にならない限り、どんな行為も許容される。
斎藤先生の解説を右から左へ聞き流しながら、私は左隣の空席を見た。
保坂くんは学校に来ていない。
彼の場合、堂々と寝坊したと言って後から登校してくることもある。
どうか今日は、今日だけは、来て欲しい。
話したいことがあるのだ。
いや、話さなければならない。どうしても。
思い出すのは、昨日神谷さんが言った言葉。
――玲央の父親は大層な美形で大企業の重役だったけど、度を越した女好きで、母親は度重なる夫の浮気にヒステリーを起こし、八つ当たりみたいに玲央を殴った。玲央は自分を苦しめる元凶、憎くて堪らない夫にそっくりだったから。玲央に『触れた対象の過去の記憶を覗く』という能力があると知ってから、母親は嫌がる玲央に父親に触れることを強要した。そうして、毎日のように浮気していないかどうかを確認させたの。堪らなかったと思うわ。ただの『記録』じゃなく、生々しい感情が伴った『記憶』として親の浮気現場を見せつけられるのは……
保坂くんが神谷さんに同情し、その恋の成就に協力する気になったのは、神谷さんの母親が不倫したからだろう。
保坂くん自身もずっと父親の不倫に苦しめられてたから、同じ境遇に陥り、周囲の人間から嘲笑されて孤立した神谷さんを放っておけなかった。
神谷さんは昨夜「自分が頼んで悠紀くんが見たあやかしたちの情報を保坂くんに教えてもらっていた」と保坂くんを庇っていたけれど、それは嘘だ。
事実は逆。保坂くんのほうから彼女に声をかけたのだ。
だって、神谷さんはそもそも『悠紀くんはあやかしが見える』ことを知らなかったのだから。
この学園で、亜紀くん以外にその事実を知るのは保坂くんだけ。
触れた相手の記憶を読み取ることができる、保坂くんだけなのだ。
午前十一時を少し過ぎ、いまは古典の授業中。
古典の担当は初老の斎藤先生だ。
授業中にも関わらず、私がこうして窓の外を見ていられるのは、斎藤先生が生徒を指名したりせず、『授業を聞くのも聞かないのも生徒の勝手、成績についても自己責任』というスタンスを取っているから。
たとえ授業中に眠ろうと、違う科目の課題をやろうと、斎藤先生は怒らない。
周りの生徒の迷惑にならない限り、どんな行為も許容される。
斎藤先生の解説を右から左へ聞き流しながら、私は左隣の空席を見た。
保坂くんは学校に来ていない。
彼の場合、堂々と寝坊したと言って後から登校してくることもある。
どうか今日は、今日だけは、来て欲しい。
話したいことがあるのだ。
いや、話さなければならない。どうしても。
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――玲央の父親は大層な美形で大企業の重役だったけど、度を越した女好きで、母親は度重なる夫の浮気にヒステリーを起こし、八つ当たりみたいに玲央を殴った。玲央は自分を苦しめる元凶、憎くて堪らない夫にそっくりだったから。玲央に『触れた対象の過去の記憶を覗く』という能力があると知ってから、母親は嫌がる玲央に父親に触れることを強要した。そうして、毎日のように浮気していないかどうかを確認させたの。堪らなかったと思うわ。ただの『記録』じゃなく、生々しい感情が伴った『記憶』として親の浮気現場を見せつけられるのは……
保坂くんが神谷さんに同情し、その恋の成就に協力する気になったのは、神谷さんの母親が不倫したからだろう。
保坂くん自身もずっと父親の不倫に苦しめられてたから、同じ境遇に陥り、周囲の人間から嘲笑されて孤立した神谷さんを放っておけなかった。
神谷さんは昨夜「自分が頼んで悠紀くんが見たあやかしたちの情報を保坂くんに教えてもらっていた」と保坂くんを庇っていたけれど、それは嘘だ。
事実は逆。保坂くんのほうから彼女に声をかけたのだ。
だって、神谷さんはそもそも『悠紀くんはあやかしが見える』ことを知らなかったのだから。
この学園で、亜紀くん以外にその事実を知るのは保坂くんだけ。
触れた相手の記憶を読み取ることができる、保坂くんだけなのだ。
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