少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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84:月が欲しいと泣く子ども(2)

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 ――中二の夏休み、玲央の両親は離婚した。そして、玲央はどちらの親からも捨てられた。父親は過去を覗く力を持つ玲央を嫌悪し、忌避し、怪物を見るような目で見た。母親は「お前の顔を見るだけで虫唾が走る」と面と向かって言い放った。最悪よ。どんなに最低な親でも、それでも玲央は愛されたくて、必死で優等生を演じてたのに。玲央の両親は玲央を押し付け合って、要らないゴミみたいに扱って、玲央の心を壊したの。

 神谷さんから聞いた衝撃的な――あまりにも衝撃的な話を思い出し、私はそっと下唇を噛んだ。

 昨夜、私たちは帰宅して早々に真紘さんと正孝さんと連絡を取り、緊急家族会議を開いた。
 私たちをそうさせずにはいられないほど、神谷さんの話は重く、辛く、苦しかった。

 保坂くんはいまどうしているんだろう。
 一人暮らししてるアパートに引きこもってるのかな。

 それともこの青空の下のどこかにいるの?

 ――死んじゃうかもしれない。

 神谷さんから聞いた不吉な言葉が蘇る。
 まさか、まさかね。そんなわけない。

 私は胸中でかぶりを振って最悪の想像を振り払い、視線を転じた。
 ノートにシャーペンを走らせる神谷さんの表情は物憂げだ。

 悠紀くんに至っては、シャーペンを握る気力もないらしく、心ここにあらずといった表情で俯いている。

 多分、彼の頭の中は保坂くんのことでいっぱいだ。

 今朝、私は悠紀くんと屋上に行き、山神さまに昨日のお礼を言った。
 悠紀くんは「もし保坂が遅れて学校に来たら教えてくれ」とも言っていた。

 私が悠紀くんを見つめていた、そのときだった。
 悠紀くんは突然、驚いたようにびくっと身体を震わせ、顔を左に向けた。

 それから、目を見開き、椅子を蹴飛ばして立ち上がった。

 がたんっ!!!

 授業中の静かな教室に、その音はことさら大きく響き渡った。
 居眠りしていた生徒も、真面目にノートを取っていた生徒も、神谷さんも――クラスの全員が、ぎょっとしたように悠紀くんを見る。

「なんだ。どうした日向」

 水を打ったような静寂の中、斎藤先生が訝しげに眉をひそめる。
 愕然とした表情で立つ悠紀くんは、振り返って私を見た。

 顔が真っ青だ。
 昨日十分に休んだおかげで、血色はだいぶ良くなっていたはずなのに。

 どうしたの? 何があったの?
 悠紀くんは戸惑うばかりの私を見つめて口を動かし、何か言った。

 短い言葉。
 でも、私には読唇術の心得がないから彼が何と言ったのかわからない。

 何? いま何て言ったの? 何があったの?――焦燥ばかりが胸を焼く。

「――腹が痛いので保健室に行ってきます!」

 悠紀くんは叫ぶなり教室を飛び出した。
 何かがあった――それも、確実に良くないことが。

「先生、すみません、私も!!」
 私は弾かれたように立ち上がり、彼の後を追った。

「え、おい――」
 斎藤先生が何か言っているけれど、それもすぐに聞こえなくなった。

 全力で廊下を走り、階段の向こうに消えた彼の後を追う。

 悠紀くんは昨夜事件があった西階段を駆け下りている。
 例の鏡は撤去されたので、彼が通っても問題はない。
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