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※強がりを捨てること※
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愛しい相手に弱い己を晒け出していいのだろうか
天狗達の尽力により、里まで襲われることは無かった。負傷者は数多く出たが、何とか死者を出さずに済んだ。木々や土地が邪気で汚染されたが、里の者たちによって少しずつ浄化がなされている。
長は此度の件の処理に追われて大忙し。風琴の方は10日経ってからようやく意識を取り戻したものの、床から起き上がれないでいた。
「丹田にかなりの負荷がかかったようです。最低でも、半年は安静になさってください」
薬師が厳しい口調で告げる。無理もないか。風琴は苦笑した。傷は残らなくても、満身創痍の身体をこきつかったのだ。
あの時は必死だったが、今から思い出すと我は相当な無茶をしたと反省している。
「分かった。出来る限りは安静にする。元々、隠居暮らしだったからな」
月夜に稽古をつけてやれないのは残念だが、東雲が代わりにやってくれるので問題ないだろう。それにしても、厠や風呂に行くのも億劫とは、嫌なものだな。
「それとご隠居、ちゃんとお食事も召し上がってくださいよ。身体を早く回復させたいならば、食べて寝ることが大事なのですから」
「……分かっている」
風琴は一瞬間を置いて答えた。その目は、気まずそうに泳いでいた。
風琴の診療を終えた薬師が部屋を出る。これからどんな薬を飲ませようかと考えていると、ばったりと月夜に遭遇した。
「ああ、月夜殿。ご隠居の方は済みましたよ」
「ありがとうございます。それで師匠はどうでしたか」
このお弟子さんに何とお伝えすれば良いのやら。薬師は顎に手を当てると、言いにくそうに答えた。
「やはり半年は安静になさったほうがよろしいですな。食欲も芳しくないご様子。捕らわれた時に受けた仕打ちが回復を遅らせているかと」
ご隠居の口から拷問と凌辱を受けたと、何でもないことのように告げられた。丹田の回復が遅れているのは、邪気やあの天狗に犯されて体内が穢れたせいだ。あの見目では凌辱されてもおかしくはない。食欲が無いのは、そのせいだろう。
「こんなことを申しては不敬ですが……その……月夜殿の妖気を注ぎ込むのが回復が早まるかと。ですが……ご隠居にとって、あの仕打ちが初めての女役だったのでしょう? そんなご隠居に再び女役をさせたり、腎水を口から摂取させるのは……」
「いえ、師匠が女役をなさるのは初めてではございません。ですが、あんなことをされた師匠に情交をさせるのは、あまりにも心がない。師匠が求めてくださるまでは、待ったほうが良いでしょう」
月夜殿は苦々しそうに言う。……いや待て。ご隠居が女役をなさるのが初めてではない? この男まさか……。薬師は信じられないものを見るように、月夜を見た。
「月夜殿、まさか貴方……ご隠居を抱いたのですか」
「ええ。最初は私の勘違いからでしたが、師匠が捕まる前までは、何度も身体を交わりました」
ということは、天狗になる儀式の時もか!? よく見れば、月夜殿はがたいが良い。こんな青年に毎日抱かれて、さぞ大変だっただろうに。東雲殿が何度も腰痛の薬を所望されたのはこのことか。
「それならば、妖気を注ぎ込む件はご隠居次第ということで。ただし、今の状態からするに1ヶ月程経ってからが良いでしょうな。……それにしても月夜殿、どうして私に話したのです。今まで内緒になさっていたのに」
「師匠の大事な時に、内密にするべきではないと判断いたしました。それに、貴方の口は固いと師匠も仰っていましたので」
ご隠居、貴方は私をそれ程信頼してくださっていたのですか。普段はそんなことを仰ってくださらないのに。思わず目頭が熱くなる。ご隠居のためならば、全身全霊をかけましょうと胸に誓った。
「恐縮にございます。月夜殿。私は先ほど、ご隠居次第と申しましたが、貴方にかかっていると思います。ご存知の通り、ご隠居は矜持が高く、強がりでおられる。あんなことをされて一切弱音を吐かないというよりも、吐けないのでございます。ですから月夜殿、どうかご隠居が本音を口に出来るまで、傍でそっと待っていてください」
母君が亡くなられてから、ご隠居は怪我をしても泣かなくなった。
血豆を潰しても、泣かずに鍛練を続けた。その度に、私は叱りながら手当てをした。それでも強がりが治らないものだから、いつもご隠居が怪我をしていないかひやひやしたものだ。
拷問と凌辱の件だって、私がしつこく問い質したから、知ることが出来たようなもの。だけど、このお弟子の前では素直になってくれるのではないか。そんな気がしてならない。
「はい、勿論です。師匠が話してくださるまで、待つことにいたします」
月夜殿の声音から、どれだけご隠居を愛しているかが伝わってくる。ご隠居、このようなお弟子を持つことが出来て、貴方は幸せ者ですな。薬師は面の下で笑った。
薬師と話し終えて、月夜は風琴の部屋に入る。微かな寝息を耳にしながら、青い無防備な寝顔を見つめていた。
「師匠……もう大丈夫です……ですからどうか……」
私を頼ってほしい。どうか、もう一人で抱え込まないで。そう言えたら良いのに。だが言ってしまえば、貴方の心の傷を折檻しそうで怖い。月夜は一人、肩を震わせた。
それ1ヶ月後、風琴は床から起き上がることが増えた。だが殆どは床に横になっているか、縁側に腰をかけている。それではつまらないからと時折、琴や笛を吹奏でたり、書を読んでいる。
それと同時に、風琴へ見舞いの品がひっきりなしに届くようになった。
というのも風琴が寝込んでいる間に、長が己の母や母方の者を評定には参加させぬと処断したのが大きな要因であろう。
今まで里を半ば牛耳っていた彼らの目を気にせずに良いので、堂々と風琴に贈り物が出来るのである。とは言え、風琴は療養の身。大勢で押しかけては迷惑ということで、東雲と薬師以外は瑞煙と涼太の2名が見舞いの品を纏めて届けていた。
「こんなに持ってきてもらっても、食べられないのだが……」
「日持ちするのは多いから、大丈夫だ。おっ、これだけで鍋が出来そうだぞ」
瑞煙は見舞いの品を整理しながら、そのようなことを言う。涼太は駄目ですよと呆れた声で言った。
「ご隠居の見舞いの品なのですよ。瑞煙様、私達が手を付けてどうするのです」
「沢山あるんだから、良いじゃないか。それに皆で食べた方が旨いだろ。風琴良いだろ?」
戦の前はぎこちなかったのに、今では昔のように遠慮なく接してくれる。それが嬉しくて、思わず口元が緩んだ。
「良いだろう。我もたまには皆で鍋料理が食べたい」
「なら決まりだな。後で酒を持ってくるから皆で飲もうぜ」
それから風琴と瑞煙は鍋談義に興じる。それを少し離れたところで、月夜と東雲が眺めていた。
「鍋か。胃にも優しいし、良いんじゃないか」
「そうですね。師匠が召し上がってくださるのならば、私は何でも良いですよ」
月夜の落ち込んだ様子に、東雲はおやと胸の中で呟く。恐らくは、風琴のことで落ち込んでいると、理解できた。
「風琴の最近の食欲はどうだ?」
「1か月前よりは、ましになりました。ですが、戦の前から比べると、半分程度かと」
ただでさえ、線が細い風琴だ。囚われてからは、より痩せてしまったそうだし、無理もない。東雲はぽんと月夜の肩を叩いた。
「心配しなさんな。それでも、少しであろうと食欲は戻りつつあるのだろう。時間が経てば、以前のようになるさ」
「……本当ですか?」
月夜は泣きそうな目で東雲を見る。東雲は本当だともと頷いた。確証はない。むしろ、自分に言い聞かせているのだ。風琴。早く、元のように元気になってくれ。東雲は心の中で祈るしかなかった。
それから夕刻になり、5人で鍋料理を食べることにした。涼太と月夜と瑞煙が料理している間、東雲が風琴の護衛をする。風琴はぼんやりと寝床で横になっていた。
「そういえば、お前も頑張ってくれたらしいな。礼を言う」
「あれくらい、お前や長に比べれば、大したことないさ」
まあ、ちょっと飛べるようになるまでに時間はかかったがと心の中で呟く。これは内緒にしておきたい。別に恩を売りたいわけではないのだから。
「風琴、1人で我慢するなよ。お前は痩せ我慢ばっかりするのだから」
「我慢だと? 別にそんなことはしていない」
即答ではあるが、目が泳いで落ち着かない様子である。やはりかと東雲は顔をしかめた。
「……それなら良いんだが。まあいいさ。今宵は戦終わりを祝して、飲むぞ」
「あんまり飲みすぎるなよ。我の衣に吐いた恨みは忘れておらんからな」
「そうだっけ? あっ、もうそろそろ出来るようだぞ。ほら、行こう」
東雲は風琴の手を掴んで立たせる。袖から見えた痩せた腕に一瞬、胸が痛んだ。
それから皆で、鍋料理を食べる。談笑しながら食べる鍋が美味だったのか、風琴は昨夜よりも多めに食べた。流石に風琴が飲んだ酒は徳利1本程度。皆で賑やかに騒いだ後、風琴は月夜と部屋に戻る。月夜が寝床を整えていると、風琴が後ろから抱きついた。
「師匠、どうかなさいましたか」
久しぶりに風琴に抱き締められたことに胸が高鳴りつつも、月夜は必死に平静を保つ。するとくぐもった声が背後から聞こえた。
「……どうして、我を抱かないのだ」
震える声に驚いて背後を振り返る。そこには萌葱色の瞳を涙で濡らした風琴がいた。
胸元を緩め、潤んだ瞳で此方を見る師匠の妖艶さにぞくりとする。駄目だ。師匠はお辛そうなのに欲情してはいけない。月夜は目を伏せた。
「その……師匠にとって、肌を重ねるのはお辛いかと思いまして……」
拷問や凌辱を受けたというのは、あくまでも薬師から口伝てに聞かされたのだ。貴方が良いと言うまでは、しないでいようと思ったのだが。月夜はちらちらと風琴を窺う。すると、信じられない言葉が風琴の口から出た。
「我を抱きたくないとか嫌いになったのではないのか」
「はい!? どうして、貴方を嫌いになることが出来ましょうや! それに……私はずっと貴方が抱きたかったです」
貴方と肌を重ねたかった。黒雅とやらに触られた部分をずっと己の熱で上書きしたかった。だけど、私は貴方を傷つけてしまうのが怖かった。だからずっと耐えていたのに、師匠はそのようなことを思っていたのか。
「良かった……お前に嫌われてしまったのではないかと怖かった。あの仕打ちよりも、そちらの方が考えるだけで身が竦んだのだぞ」
師匠は安心したのか、穏やかな笑みを浮かべる。張り詰めていた糸が切れたように、萌葱の瞳から涙が溢れだした。肩を震わせてしゃくりあげる姿は、幼子同然。気がつけば、線の細い身体を腕の中に引き寄せていた。
「月夜……辛かった……。痛くて……堪らなかった」
「師匠、大丈夫です。どうか我慢せずに、私の腕の中で泣いてください」
熱い涙が私の衣を濡らす。師匠はいつも強い方だ。凛とした立ち振舞いは美しく、弱音など見せない方。そんな愛しい方が、私の腕の中で弱い部分を晒け出している。それが愛おしいのに、辛い。月夜もつられて涙を流していた。
「お前以外なんて……受け入れたくなかった。それなのに……っ……我は嫌悪感だけでなく、快楽も感じてしまったんだ。犯された怒りよりも、己自身への怒りが大きくて……ずっと自分を責めるしかなかった」
血を吐くが如く、師匠はその事実を吐露する。きっと、師匠はそれが最も辛かったのだろう。私はそのようなことで嫌ったりしないのに。熱い師匠の背を擦った。
「悪いのは、あの敵です。師匠、私は貴方のお側にいると誓ったのです。貴方への愛が揺らぐことなど、ありません」
月夜の晩に貴方に出会ってから、一度もこの想いは揺らいだことなどない。だから信じてほしい。私が貴方を決して嫌ったりしないと。その言葉で、ようやく師匠が顔を上げた。
「月夜……どうか……我を抱いてくれ。余すところなく、我をお前のものにしてくれ」
「承知しました。私の愛おしい師匠」
触れ合うばかりの口づけから、次第に舌を絡める。久方ぶりの口づけは、熱くて甘い。2人は目を閉じると、互いに相手の心地よい温もりを感じる幸せに浸っていた。
「んっ……月夜……」
風琴の身体にはたくさんの赤い跡が刻まれていた。赤い花弁を散らしたような跡は、白い肌に映える。久しぶりの愛撫に、風琴は気恥ずかしさを覚えていた。
「どこまで、口づけをするつもりだっ……」
「余すところなく全部……と言いたいところですが、もう欲しくなっちゃいましたか?」
爽やかな笑顔で、意地悪なことを言ってくれるものだ。風琴は目を逸らした。
「たわけ、いつも以上にねちっこいから聞いたのだ」
こやつの前戯はねちねちと焦らしてくる。触れた箇所が熱くて堪らない。だけど触れ方が優しくて、安堵のあまりいつまでもこうして欲しいと願ってしまう。
「頭のてっぺんから爪先まで私で染めたいのですから、当然ですよ」
月夜はそう言うと、我の胸元に唇を近づける。既に硬くなった胸の頂きを舐めると、口に含んだ。
「っ……!? 月夜……っ……それっ……やっ……」
初めて抱かれた夜と同じ生温かい舌の感触。風琴は胸を逸らして甘い声を吐いた。
「その舐め方っ……やめろっ……何も出ぬぞ!」
「師匠の可愛い声が出ているでしょう。私にはそれで十分ですよ」
月夜は片方の胸の頂きを舐めながら、残りを指で弄る。閨ではどうしてこうも月夜に翻弄されるのか。
「月夜っ……あっ……」
突然指と舌の感触が無くなる。思わず物寂しげな声を出してしまった我に、月夜がにやりと笑った。
「師匠、もっと胸を弄って欲しかったですか?」
「い、いや。いい加減に先に進めろ」
どうせ閨では見透かされているが、素直には言ってやらぬ。すると月夜は少し残念そうな顔をした。
「承知いたしました。師匠、俯せで四つん這いになってください。まだ安静の身ですので、そちらの方が楽かと」
「分かった。……だが、抱く時は少しくらいは向かい合ってしろ。その……お前の顔が見えぬと落ち着かん……気がする」
四つん這いの姿勢になりながら、ぽつりと呟く。本当は言うのが恥ずかしい。だが、今夜はお前の顔を見ながら抱かれたいのだ。
ちゃんと言っておかないと、月夜は我の負担を考えて後ろから抱くだろうから。すると、月夜は嬉しそうな声ではいと頷く。
そのせいか、背後の月夜が眩しい笑顔を浮かべているさまが手に取るように分かった。
「師匠、薬師殿から妙薬入りの油と妙薬が入っていない油を頂いたのですが、どちらがよろしいですか」
あの薬師め。我と月夜の仲を理解した途端、そのようなものを用意するとは。用意周到だと褒めるべきだろうか。風琴は四つん這いの格好で、苦笑いをした。
「妙薬無しの方がいい。酒を飲んだから素面とは言えぬが……ありのままでお前を感じたい」
妙薬や媚薬の方が快楽が強いだろうが、それよりも月夜と睦み合って肌のぬくもりを味わいたいのだ。月夜は分かりましたと優しい声で呟くと、我の後孔に油を垂らした。
「っ……」
油の冷たさに思わず震えてしまう。月夜は己の指も油で濡らすと、後孔に指を入れた。
「あっ……ん……んんっ……」
指は我の感じるところを知り尽くしていると言わんばかりに、指の腹でなぞってくる。風琴は褥に爪を立てて、快感を逃そうとする。だが、甘い呻き声や火照る肌は隠せない。
「師匠……腰が揺れていますよ。そんなに私のが欲しいのですね」
「揺れて……っ……悪いか。お前の指使いが、いやらしいからだ」
気持ちいいところには触るが、最も感じやすいところはわざと避けてくる。こやつの焦らし方には少し叱りたくもなるが、四つん這いの男が叱ったところで、威厳なぞない。それに……焦らされるのが、嬉しいと思う自分もいるのだ。
「悪くないですよ。私の指使いで感じて頂けるなら、光栄ですよ」
月夜は好青年の声音で笑うが、指を増やして容赦なく焦らしてくる。風琴は腰を高く上げると、顔を褥に埋めた。
「あんっ……待てっ……そんなに指を動かすな……ひあっ……んぅ……」
「久しぶりなので、もうちょっと慣らした方が良いでしょう? 我慢してくださいな」
我慢できない程に焦らしているのはお前だろうが! 風琴は涙目で月夜を睨む。月夜は思わず雄の笑みを浮かべると、風琴を指で翻弄する。
「うあっ……」
突然指を抜かれると、風琴は褥に突っ伏した。月夜はそんな風琴の姿勢を仰向けにすると、風琴の足を広げる。風琴はむすっと月夜を睨んだ。
「この阿呆。焦らすのにも限度があろうが」
「すみません。もっと師匠に求められたくてつい」
月夜は悪戯をした子供ように笑う。風琴も困ったように笑うと、月夜の首に腕を回した。
「たわけ、我が求めるのはお前だけだぞ。……それに、お前にならば我の全てを与えたいと思っている」
月夜は両目を見開いて驚く。その後、目を細めて柔らかく笑った。
「師匠……貴方の弟子になれて私は幸せです」
「いいから、さっさと抱け。ぐずぐずしていると夜が明けるぞ」
我は照れ臭くなって、目を逸らす。月夜はふふっと笑い声を上げると、我の額に口づけをした。その感触が心地好くてされるがままになっていると、やがて後孔に熱く硬いものが触れた。
一瞬、脳裏を過ったのは初めて凌辱されたあの時のこと。少しでも忘れたくて、月夜を引き寄せる。月夜は我の腰を掴むと、少しずつ熱の楔を埋めていく。
「んんっ……う……」
いつもはいきなり奥まで貫くのに、今日は随分とゆっくりしている。じわじわと内側から身を焼く快感が心地好い。あの凌辱と違う。全てを委ねたくなる快楽だ。
「師匠、口を開けてください」
「分かった……ん……む……」
言われるままに口を開けば、口の中に生温かい舌が入ってくる。我の中に埋めてくるものと違い、舌は性急に我の舌を絡み取る。
本当は一気に貫きたいのだろう。それをしないのは、我を気遣ってくれているのだろう。そんなことをしなくても、お前にならば無茶苦茶にされても良いのだが。
だが、月夜が己の情欲と葛藤しているさまは、可愛らしい。これもありかもしれない。風琴は月夜の頭を幼子を褒めるように撫でる。月夜はぴくりと震えたが、ゆっくりとそのまま魔羅を奥まで埋めた。
「全部入ったようだな。普段と違って急がないとはえらい、えらい」
「子供扱いしないでください。……そんなことをされると、私は我慢できなくなってしまいます」
月夜は頬を赤くしてそっぽを向く。やはり我慢をしておったか。今までは野生の獣であったのに、成長したものだ。
「我慢などもうせずによい。お前が思うままに抱いてくれ」
「ですが、師匠……嫌なことを思い出したりしませんか?」
抱いておいて今さらだと思うが。まあ、そう言ってしまうのは可哀想か。風琴は月夜の頬を撫でた。
「思い出させたくないなら、お前で上書きしろ。何もかも忘れるくらい、激しくしてくれ」
「では……仰せのままに。掴まっていてくださいねっ……」
月夜は風琴の腰をがっしりと掴むと、軽く引いてからずんと奥を穿つ。あまりの強さに、風琴は悲鳴を上げそうになった。
「あんっ……!? 月夜……やはり……うあっ……」
「師匠……そんなに私のが欲しかったんですねっ……。ほら……っ……美味しそうに締め付けている」
言われた通り、我の中は熱の楔を離すまいと締め付けている。指摘されたことが恥ずかしくて、風琴は耳まで赤くなった。
「言うな……あっ……止めろっ……お前……いくらなんでも……激しすぎっ……」
「激しくしてくれと……ふっ……仰ったのは……師匠でしょう……? もう止められませんよ」
確かに言ったのは我だ。しかし、動くとこうも腰が砕けかねんこと忘れていたのだ。腰が逃げようとしても、掴まれているので逃げられない。
「やらあっ……ひうっ……腰っ……壊れる……。このけだものっ……!!」
「1ヶ月も……我慢したのですよ。私のものを全てを……受け入れてくださいっ……」
目を開ければ、月夜は余裕の無い顔つきをしている。ああ……愛おしいな。身体を貪られているのに、弟子の愛しさばかりが胸を満たす。風琴は激しく揺すぶられながらも、穏やかな笑みを浮かべた。
「受け止めるっ……から……っ。んっ……ああ___っ!」
中に熱い飛沫が注がれると、視界が白く染まる。風琴は細い身体を大きく仰け反らせると、目を閉じた。
それから2回程中に注がれるまで、情交が繰り返された。病み上がりの身体は思った以上に耐えられなかったようで、気がつけば気を失っていたようだ。風琴が目を開ければ、月夜の逞しい胸板が目の前にあった。
「師匠、お目覚めになってしまいましたか」
「ああ。月夜、我はどのくらい眠っていた」
月夜は、そんなに経っていませんよと風琴の背を撫でた。他の者に背中を撫でられるのは嫌だが、月夜の大きな手に撫でられるのは気持ちよい。
「先程、後始末を終えたところです。師匠、お身体は大丈夫ですか」
「腰が痛い。気だるさもある。だが、妖力が少し回復しているようだな」
丹田が癒えているかは実感がない。だが、妖気が回復しているということは、妖気を産み出している丹田も多少は癒えていると考えてよいだろう。月夜は良かったと安堵の息を吐いた。
「薬師殿が仰るには、私が師匠のお身体に妖気を注ぐことで、回復が早まるそうです」
「なるほどな。だが、流石に毎日はもたぬぞ。せめて3、4日に1回にしよう」
でないと、我の腰が風前の灯火になってしまう。月夜もそれを理解しているのか、素直に頷いた。
「ところで月夜……その……情けない姿を見せてすまなかったな」
弟子の前で泣きじゃくるとは、師匠失格だ。思い出すだけでも、恥ずかしい。穴があったら入りたい。我は月夜の顔を見れなくて、その胸板に顔を埋める。すると、月夜は我をぎゅっと抱き締めた。
「何を仰いますか。情けないとは思っておりませぬよ。師匠、誰にも脆い部分を見せないようにとなさっておられたでしょう? 今までよりも心を開いて頂けたようで、私は嬉しかったですよ」
心を開いたと言うか。今までだって、月夜には心を開いたつもりでいた。言われてみれば、月夜に情交以外では情けない姿を晒していなかった。当然だ。我は月夜の師匠なのだから。今宵は本当の意味で月夜に心を全て開いたのかもしれない。
「月夜……ありがとう。 今後は泣くことなど無いかもしれぬが、もしもの時は胸を貸せ」
「勿論です。貴方は私の生きる全てなのですから」
月夜の声は優しく、力強い。子供だ未熟者だと思っていたが、もう立派な青年なのだな。風琴は目を閉じると、愛おしい弟子の腕の中で寝息を立てた。
天狗達の尽力により、里まで襲われることは無かった。負傷者は数多く出たが、何とか死者を出さずに済んだ。木々や土地が邪気で汚染されたが、里の者たちによって少しずつ浄化がなされている。
長は此度の件の処理に追われて大忙し。風琴の方は10日経ってからようやく意識を取り戻したものの、床から起き上がれないでいた。
「丹田にかなりの負荷がかかったようです。最低でも、半年は安静になさってください」
薬師が厳しい口調で告げる。無理もないか。風琴は苦笑した。傷は残らなくても、満身創痍の身体をこきつかったのだ。
あの時は必死だったが、今から思い出すと我は相当な無茶をしたと反省している。
「分かった。出来る限りは安静にする。元々、隠居暮らしだったからな」
月夜に稽古をつけてやれないのは残念だが、東雲が代わりにやってくれるので問題ないだろう。それにしても、厠や風呂に行くのも億劫とは、嫌なものだな。
「それとご隠居、ちゃんとお食事も召し上がってくださいよ。身体を早く回復させたいならば、食べて寝ることが大事なのですから」
「……分かっている」
風琴は一瞬間を置いて答えた。その目は、気まずそうに泳いでいた。
風琴の診療を終えた薬師が部屋を出る。これからどんな薬を飲ませようかと考えていると、ばったりと月夜に遭遇した。
「ああ、月夜殿。ご隠居の方は済みましたよ」
「ありがとうございます。それで師匠はどうでしたか」
このお弟子さんに何とお伝えすれば良いのやら。薬師は顎に手を当てると、言いにくそうに答えた。
「やはり半年は安静になさったほうがよろしいですな。食欲も芳しくないご様子。捕らわれた時に受けた仕打ちが回復を遅らせているかと」
ご隠居の口から拷問と凌辱を受けたと、何でもないことのように告げられた。丹田の回復が遅れているのは、邪気やあの天狗に犯されて体内が穢れたせいだ。あの見目では凌辱されてもおかしくはない。食欲が無いのは、そのせいだろう。
「こんなことを申しては不敬ですが……その……月夜殿の妖気を注ぎ込むのが回復が早まるかと。ですが……ご隠居にとって、あの仕打ちが初めての女役だったのでしょう? そんなご隠居に再び女役をさせたり、腎水を口から摂取させるのは……」
「いえ、師匠が女役をなさるのは初めてではございません。ですが、あんなことをされた師匠に情交をさせるのは、あまりにも心がない。師匠が求めてくださるまでは、待ったほうが良いでしょう」
月夜殿は苦々しそうに言う。……いや待て。ご隠居が女役をなさるのが初めてではない? この男まさか……。薬師は信じられないものを見るように、月夜を見た。
「月夜殿、まさか貴方……ご隠居を抱いたのですか」
「ええ。最初は私の勘違いからでしたが、師匠が捕まる前までは、何度も身体を交わりました」
ということは、天狗になる儀式の時もか!? よく見れば、月夜殿はがたいが良い。こんな青年に毎日抱かれて、さぞ大変だっただろうに。東雲殿が何度も腰痛の薬を所望されたのはこのことか。
「それならば、妖気を注ぎ込む件はご隠居次第ということで。ただし、今の状態からするに1ヶ月程経ってからが良いでしょうな。……それにしても月夜殿、どうして私に話したのです。今まで内緒になさっていたのに」
「師匠の大事な時に、内密にするべきではないと判断いたしました。それに、貴方の口は固いと師匠も仰っていましたので」
ご隠居、貴方は私をそれ程信頼してくださっていたのですか。普段はそんなことを仰ってくださらないのに。思わず目頭が熱くなる。ご隠居のためならば、全身全霊をかけましょうと胸に誓った。
「恐縮にございます。月夜殿。私は先ほど、ご隠居次第と申しましたが、貴方にかかっていると思います。ご存知の通り、ご隠居は矜持が高く、強がりでおられる。あんなことをされて一切弱音を吐かないというよりも、吐けないのでございます。ですから月夜殿、どうかご隠居が本音を口に出来るまで、傍でそっと待っていてください」
母君が亡くなられてから、ご隠居は怪我をしても泣かなくなった。
血豆を潰しても、泣かずに鍛練を続けた。その度に、私は叱りながら手当てをした。それでも強がりが治らないものだから、いつもご隠居が怪我をしていないかひやひやしたものだ。
拷問と凌辱の件だって、私がしつこく問い質したから、知ることが出来たようなもの。だけど、このお弟子の前では素直になってくれるのではないか。そんな気がしてならない。
「はい、勿論です。師匠が話してくださるまで、待つことにいたします」
月夜殿の声音から、どれだけご隠居を愛しているかが伝わってくる。ご隠居、このようなお弟子を持つことが出来て、貴方は幸せ者ですな。薬師は面の下で笑った。
薬師と話し終えて、月夜は風琴の部屋に入る。微かな寝息を耳にしながら、青い無防備な寝顔を見つめていた。
「師匠……もう大丈夫です……ですからどうか……」
私を頼ってほしい。どうか、もう一人で抱え込まないで。そう言えたら良いのに。だが言ってしまえば、貴方の心の傷を折檻しそうで怖い。月夜は一人、肩を震わせた。
それ1ヶ月後、風琴は床から起き上がることが増えた。だが殆どは床に横になっているか、縁側に腰をかけている。それではつまらないからと時折、琴や笛を吹奏でたり、書を読んでいる。
それと同時に、風琴へ見舞いの品がひっきりなしに届くようになった。
というのも風琴が寝込んでいる間に、長が己の母や母方の者を評定には参加させぬと処断したのが大きな要因であろう。
今まで里を半ば牛耳っていた彼らの目を気にせずに良いので、堂々と風琴に贈り物が出来るのである。とは言え、風琴は療養の身。大勢で押しかけては迷惑ということで、東雲と薬師以外は瑞煙と涼太の2名が見舞いの品を纏めて届けていた。
「こんなに持ってきてもらっても、食べられないのだが……」
「日持ちするのは多いから、大丈夫だ。おっ、これだけで鍋が出来そうだぞ」
瑞煙は見舞いの品を整理しながら、そのようなことを言う。涼太は駄目ですよと呆れた声で言った。
「ご隠居の見舞いの品なのですよ。瑞煙様、私達が手を付けてどうするのです」
「沢山あるんだから、良いじゃないか。それに皆で食べた方が旨いだろ。風琴良いだろ?」
戦の前はぎこちなかったのに、今では昔のように遠慮なく接してくれる。それが嬉しくて、思わず口元が緩んだ。
「良いだろう。我もたまには皆で鍋料理が食べたい」
「なら決まりだな。後で酒を持ってくるから皆で飲もうぜ」
それから風琴と瑞煙は鍋談義に興じる。それを少し離れたところで、月夜と東雲が眺めていた。
「鍋か。胃にも優しいし、良いんじゃないか」
「そうですね。師匠が召し上がってくださるのならば、私は何でも良いですよ」
月夜の落ち込んだ様子に、東雲はおやと胸の中で呟く。恐らくは、風琴のことで落ち込んでいると、理解できた。
「風琴の最近の食欲はどうだ?」
「1か月前よりは、ましになりました。ですが、戦の前から比べると、半分程度かと」
ただでさえ、線が細い風琴だ。囚われてからは、より痩せてしまったそうだし、無理もない。東雲はぽんと月夜の肩を叩いた。
「心配しなさんな。それでも、少しであろうと食欲は戻りつつあるのだろう。時間が経てば、以前のようになるさ」
「……本当ですか?」
月夜は泣きそうな目で東雲を見る。東雲は本当だともと頷いた。確証はない。むしろ、自分に言い聞かせているのだ。風琴。早く、元のように元気になってくれ。東雲は心の中で祈るしかなかった。
それから夕刻になり、5人で鍋料理を食べることにした。涼太と月夜と瑞煙が料理している間、東雲が風琴の護衛をする。風琴はぼんやりと寝床で横になっていた。
「そういえば、お前も頑張ってくれたらしいな。礼を言う」
「あれくらい、お前や長に比べれば、大したことないさ」
まあ、ちょっと飛べるようになるまでに時間はかかったがと心の中で呟く。これは内緒にしておきたい。別に恩を売りたいわけではないのだから。
「風琴、1人で我慢するなよ。お前は痩せ我慢ばっかりするのだから」
「我慢だと? 別にそんなことはしていない」
即答ではあるが、目が泳いで落ち着かない様子である。やはりかと東雲は顔をしかめた。
「……それなら良いんだが。まあいいさ。今宵は戦終わりを祝して、飲むぞ」
「あんまり飲みすぎるなよ。我の衣に吐いた恨みは忘れておらんからな」
「そうだっけ? あっ、もうそろそろ出来るようだぞ。ほら、行こう」
東雲は風琴の手を掴んで立たせる。袖から見えた痩せた腕に一瞬、胸が痛んだ。
それから皆で、鍋料理を食べる。談笑しながら食べる鍋が美味だったのか、風琴は昨夜よりも多めに食べた。流石に風琴が飲んだ酒は徳利1本程度。皆で賑やかに騒いだ後、風琴は月夜と部屋に戻る。月夜が寝床を整えていると、風琴が後ろから抱きついた。
「師匠、どうかなさいましたか」
久しぶりに風琴に抱き締められたことに胸が高鳴りつつも、月夜は必死に平静を保つ。するとくぐもった声が背後から聞こえた。
「……どうして、我を抱かないのだ」
震える声に驚いて背後を振り返る。そこには萌葱色の瞳を涙で濡らした風琴がいた。
胸元を緩め、潤んだ瞳で此方を見る師匠の妖艶さにぞくりとする。駄目だ。師匠はお辛そうなのに欲情してはいけない。月夜は目を伏せた。
「その……師匠にとって、肌を重ねるのはお辛いかと思いまして……」
拷問や凌辱を受けたというのは、あくまでも薬師から口伝てに聞かされたのだ。貴方が良いと言うまでは、しないでいようと思ったのだが。月夜はちらちらと風琴を窺う。すると、信じられない言葉が風琴の口から出た。
「我を抱きたくないとか嫌いになったのではないのか」
「はい!? どうして、貴方を嫌いになることが出来ましょうや! それに……私はずっと貴方が抱きたかったです」
貴方と肌を重ねたかった。黒雅とやらに触られた部分をずっと己の熱で上書きしたかった。だけど、私は貴方を傷つけてしまうのが怖かった。だからずっと耐えていたのに、師匠はそのようなことを思っていたのか。
「良かった……お前に嫌われてしまったのではないかと怖かった。あの仕打ちよりも、そちらの方が考えるだけで身が竦んだのだぞ」
師匠は安心したのか、穏やかな笑みを浮かべる。張り詰めていた糸が切れたように、萌葱の瞳から涙が溢れだした。肩を震わせてしゃくりあげる姿は、幼子同然。気がつけば、線の細い身体を腕の中に引き寄せていた。
「月夜……辛かった……。痛くて……堪らなかった」
「師匠、大丈夫です。どうか我慢せずに、私の腕の中で泣いてください」
熱い涙が私の衣を濡らす。師匠はいつも強い方だ。凛とした立ち振舞いは美しく、弱音など見せない方。そんな愛しい方が、私の腕の中で弱い部分を晒け出している。それが愛おしいのに、辛い。月夜もつられて涙を流していた。
「お前以外なんて……受け入れたくなかった。それなのに……っ……我は嫌悪感だけでなく、快楽も感じてしまったんだ。犯された怒りよりも、己自身への怒りが大きくて……ずっと自分を責めるしかなかった」
血を吐くが如く、師匠はその事実を吐露する。きっと、師匠はそれが最も辛かったのだろう。私はそのようなことで嫌ったりしないのに。熱い師匠の背を擦った。
「悪いのは、あの敵です。師匠、私は貴方のお側にいると誓ったのです。貴方への愛が揺らぐことなど、ありません」
月夜の晩に貴方に出会ってから、一度もこの想いは揺らいだことなどない。だから信じてほしい。私が貴方を決して嫌ったりしないと。その言葉で、ようやく師匠が顔を上げた。
「月夜……どうか……我を抱いてくれ。余すところなく、我をお前のものにしてくれ」
「承知しました。私の愛おしい師匠」
触れ合うばかりの口づけから、次第に舌を絡める。久方ぶりの口づけは、熱くて甘い。2人は目を閉じると、互いに相手の心地よい温もりを感じる幸せに浸っていた。
「んっ……月夜……」
風琴の身体にはたくさんの赤い跡が刻まれていた。赤い花弁を散らしたような跡は、白い肌に映える。久しぶりの愛撫に、風琴は気恥ずかしさを覚えていた。
「どこまで、口づけをするつもりだっ……」
「余すところなく全部……と言いたいところですが、もう欲しくなっちゃいましたか?」
爽やかな笑顔で、意地悪なことを言ってくれるものだ。風琴は目を逸らした。
「たわけ、いつも以上にねちっこいから聞いたのだ」
こやつの前戯はねちねちと焦らしてくる。触れた箇所が熱くて堪らない。だけど触れ方が優しくて、安堵のあまりいつまでもこうして欲しいと願ってしまう。
「頭のてっぺんから爪先まで私で染めたいのですから、当然ですよ」
月夜はそう言うと、我の胸元に唇を近づける。既に硬くなった胸の頂きを舐めると、口に含んだ。
「っ……!? 月夜……っ……それっ……やっ……」
初めて抱かれた夜と同じ生温かい舌の感触。風琴は胸を逸らして甘い声を吐いた。
「その舐め方っ……やめろっ……何も出ぬぞ!」
「師匠の可愛い声が出ているでしょう。私にはそれで十分ですよ」
月夜は片方の胸の頂きを舐めながら、残りを指で弄る。閨ではどうしてこうも月夜に翻弄されるのか。
「月夜っ……あっ……」
突然指と舌の感触が無くなる。思わず物寂しげな声を出してしまった我に、月夜がにやりと笑った。
「師匠、もっと胸を弄って欲しかったですか?」
「い、いや。いい加減に先に進めろ」
どうせ閨では見透かされているが、素直には言ってやらぬ。すると月夜は少し残念そうな顔をした。
「承知いたしました。師匠、俯せで四つん這いになってください。まだ安静の身ですので、そちらの方が楽かと」
「分かった。……だが、抱く時は少しくらいは向かい合ってしろ。その……お前の顔が見えぬと落ち着かん……気がする」
四つん這いの姿勢になりながら、ぽつりと呟く。本当は言うのが恥ずかしい。だが、今夜はお前の顔を見ながら抱かれたいのだ。
ちゃんと言っておかないと、月夜は我の負担を考えて後ろから抱くだろうから。すると、月夜は嬉しそうな声ではいと頷く。
そのせいか、背後の月夜が眩しい笑顔を浮かべているさまが手に取るように分かった。
「師匠、薬師殿から妙薬入りの油と妙薬が入っていない油を頂いたのですが、どちらがよろしいですか」
あの薬師め。我と月夜の仲を理解した途端、そのようなものを用意するとは。用意周到だと褒めるべきだろうか。風琴は四つん這いの格好で、苦笑いをした。
「妙薬無しの方がいい。酒を飲んだから素面とは言えぬが……ありのままでお前を感じたい」
妙薬や媚薬の方が快楽が強いだろうが、それよりも月夜と睦み合って肌のぬくもりを味わいたいのだ。月夜は分かりましたと優しい声で呟くと、我の後孔に油を垂らした。
「っ……」
油の冷たさに思わず震えてしまう。月夜は己の指も油で濡らすと、後孔に指を入れた。
「あっ……ん……んんっ……」
指は我の感じるところを知り尽くしていると言わんばかりに、指の腹でなぞってくる。風琴は褥に爪を立てて、快感を逃そうとする。だが、甘い呻き声や火照る肌は隠せない。
「師匠……腰が揺れていますよ。そんなに私のが欲しいのですね」
「揺れて……っ……悪いか。お前の指使いが、いやらしいからだ」
気持ちいいところには触るが、最も感じやすいところはわざと避けてくる。こやつの焦らし方には少し叱りたくもなるが、四つん這いの男が叱ったところで、威厳なぞない。それに……焦らされるのが、嬉しいと思う自分もいるのだ。
「悪くないですよ。私の指使いで感じて頂けるなら、光栄ですよ」
月夜は好青年の声音で笑うが、指を増やして容赦なく焦らしてくる。風琴は腰を高く上げると、顔を褥に埋めた。
「あんっ……待てっ……そんなに指を動かすな……ひあっ……んぅ……」
「久しぶりなので、もうちょっと慣らした方が良いでしょう? 我慢してくださいな」
我慢できない程に焦らしているのはお前だろうが! 風琴は涙目で月夜を睨む。月夜は思わず雄の笑みを浮かべると、風琴を指で翻弄する。
「うあっ……」
突然指を抜かれると、風琴は褥に突っ伏した。月夜はそんな風琴の姿勢を仰向けにすると、風琴の足を広げる。風琴はむすっと月夜を睨んだ。
「この阿呆。焦らすのにも限度があろうが」
「すみません。もっと師匠に求められたくてつい」
月夜は悪戯をした子供ように笑う。風琴も困ったように笑うと、月夜の首に腕を回した。
「たわけ、我が求めるのはお前だけだぞ。……それに、お前にならば我の全てを与えたいと思っている」
月夜は両目を見開いて驚く。その後、目を細めて柔らかく笑った。
「師匠……貴方の弟子になれて私は幸せです」
「いいから、さっさと抱け。ぐずぐずしていると夜が明けるぞ」
我は照れ臭くなって、目を逸らす。月夜はふふっと笑い声を上げると、我の額に口づけをした。その感触が心地好くてされるがままになっていると、やがて後孔に熱く硬いものが触れた。
一瞬、脳裏を過ったのは初めて凌辱されたあの時のこと。少しでも忘れたくて、月夜を引き寄せる。月夜は我の腰を掴むと、少しずつ熱の楔を埋めていく。
「んんっ……う……」
いつもはいきなり奥まで貫くのに、今日は随分とゆっくりしている。じわじわと内側から身を焼く快感が心地好い。あの凌辱と違う。全てを委ねたくなる快楽だ。
「師匠、口を開けてください」
「分かった……ん……む……」
言われるままに口を開けば、口の中に生温かい舌が入ってくる。我の中に埋めてくるものと違い、舌は性急に我の舌を絡み取る。
本当は一気に貫きたいのだろう。それをしないのは、我を気遣ってくれているのだろう。そんなことをしなくても、お前にならば無茶苦茶にされても良いのだが。
だが、月夜が己の情欲と葛藤しているさまは、可愛らしい。これもありかもしれない。風琴は月夜の頭を幼子を褒めるように撫でる。月夜はぴくりと震えたが、ゆっくりとそのまま魔羅を奥まで埋めた。
「全部入ったようだな。普段と違って急がないとはえらい、えらい」
「子供扱いしないでください。……そんなことをされると、私は我慢できなくなってしまいます」
月夜は頬を赤くしてそっぽを向く。やはり我慢をしておったか。今までは野生の獣であったのに、成長したものだ。
「我慢などもうせずによい。お前が思うままに抱いてくれ」
「ですが、師匠……嫌なことを思い出したりしませんか?」
抱いておいて今さらだと思うが。まあ、そう言ってしまうのは可哀想か。風琴は月夜の頬を撫でた。
「思い出させたくないなら、お前で上書きしろ。何もかも忘れるくらい、激しくしてくれ」
「では……仰せのままに。掴まっていてくださいねっ……」
月夜は風琴の腰をがっしりと掴むと、軽く引いてからずんと奥を穿つ。あまりの強さに、風琴は悲鳴を上げそうになった。
「あんっ……!? 月夜……やはり……うあっ……」
「師匠……そんなに私のが欲しかったんですねっ……。ほら……っ……美味しそうに締め付けている」
言われた通り、我の中は熱の楔を離すまいと締め付けている。指摘されたことが恥ずかしくて、風琴は耳まで赤くなった。
「言うな……あっ……止めろっ……お前……いくらなんでも……激しすぎっ……」
「激しくしてくれと……ふっ……仰ったのは……師匠でしょう……? もう止められませんよ」
確かに言ったのは我だ。しかし、動くとこうも腰が砕けかねんこと忘れていたのだ。腰が逃げようとしても、掴まれているので逃げられない。
「やらあっ……ひうっ……腰っ……壊れる……。このけだものっ……!!」
「1ヶ月も……我慢したのですよ。私のものを全てを……受け入れてくださいっ……」
目を開ければ、月夜は余裕の無い顔つきをしている。ああ……愛おしいな。身体を貪られているのに、弟子の愛しさばかりが胸を満たす。風琴は激しく揺すぶられながらも、穏やかな笑みを浮かべた。
「受け止めるっ……から……っ。んっ……ああ___っ!」
中に熱い飛沫が注がれると、視界が白く染まる。風琴は細い身体を大きく仰け反らせると、目を閉じた。
それから2回程中に注がれるまで、情交が繰り返された。病み上がりの身体は思った以上に耐えられなかったようで、気がつけば気を失っていたようだ。風琴が目を開ければ、月夜の逞しい胸板が目の前にあった。
「師匠、お目覚めになってしまいましたか」
「ああ。月夜、我はどのくらい眠っていた」
月夜は、そんなに経っていませんよと風琴の背を撫でた。他の者に背中を撫でられるのは嫌だが、月夜の大きな手に撫でられるのは気持ちよい。
「先程、後始末を終えたところです。師匠、お身体は大丈夫ですか」
「腰が痛い。気だるさもある。だが、妖力が少し回復しているようだな」
丹田が癒えているかは実感がない。だが、妖気が回復しているということは、妖気を産み出している丹田も多少は癒えていると考えてよいだろう。月夜は良かったと安堵の息を吐いた。
「薬師殿が仰るには、私が師匠のお身体に妖気を注ぐことで、回復が早まるそうです」
「なるほどな。だが、流石に毎日はもたぬぞ。せめて3、4日に1回にしよう」
でないと、我の腰が風前の灯火になってしまう。月夜もそれを理解しているのか、素直に頷いた。
「ところで月夜……その……情けない姿を見せてすまなかったな」
弟子の前で泣きじゃくるとは、師匠失格だ。思い出すだけでも、恥ずかしい。穴があったら入りたい。我は月夜の顔を見れなくて、その胸板に顔を埋める。すると、月夜は我をぎゅっと抱き締めた。
「何を仰いますか。情けないとは思っておりませぬよ。師匠、誰にも脆い部分を見せないようにとなさっておられたでしょう? 今までよりも心を開いて頂けたようで、私は嬉しかったですよ」
心を開いたと言うか。今までだって、月夜には心を開いたつもりでいた。言われてみれば、月夜に情交以外では情けない姿を晒していなかった。当然だ。我は月夜の師匠なのだから。今宵は本当の意味で月夜に心を全て開いたのかもしれない。
「月夜……ありがとう。 今後は泣くことなど無いかもしれぬが、もしもの時は胸を貸せ」
「勿論です。貴方は私の生きる全てなのですから」
月夜の声は優しく、力強い。子供だ未熟者だと思っていたが、もう立派な青年なのだな。風琴は目を閉じると、愛おしい弟子の腕の中で寝息を立てた。
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