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024-① 初夜!
しおりを挟む落葉の季節。
涼しかった夏が終わった。
今は秋に差し掛かっている。
この世界にはうっすらとした四季がある。
奥の塔のルーフバルコニーでのタヌキ踊り(護身術の講義)は決まって夕刻に行われた。そのときに、そこはかとなく冷気を感じることがあった。
めっきり涼しくなってしまった、異世界の夜。羽織を被り、自室のヒーターに点火。体毛のあるサベラと違って、俺は人間だからさ。自分の体は自分で面倒を見てやらなければならないわけで。サベラは体温調節が楽そうで羨ましい。
俺は不可抗力で海に落下した。今思えば、荒れた海の冷たさは人体には酷。体内を駆け巡っていたアドレナリンのせいで感覚が遮断されていたのだろう。また、あの廃墟と化した町でも俺の吐く息は白かった。
寒い季節は閉塞感を伴って心細くなる。
今はこんなにもあったかい。動きたくない。
「ノゾム」
「………」
それは、この世界ではこの間まで誰も知らなかったはずの俺の名前。
その広い胸に顔を埋めて、ますます顔が上げられなくなった。
「起きたのか」
「……まだ、起きてない」
「フッ、そうか?」
「………」
ここは天蓋つきベッドの上だ。俺はウィルに横から抱きついて張りついている。
困った。この状態はいつからだ?
抱き枕としては最高の犬なんだ。だって、仕方ないだろ。程よい筋肉の硬さには絶妙な弾力に加えて安心感もある。一度知ってしまったら離れられない吸引力。
「お前が傍に来ると俺の体が変になるから嫌なんだ。近寄らないで……」
「お前が俺に張りついてるんだ。その台詞は俺を誘ってるようにしか聞こえないぞ」
「……誘ってない。あ、石鹸の匂い……」
ウィルも湯浴みをしたようだ。体を擦り寄せ、スンスンと匂いを嗅いでいたら、上半身を引っ張られた。視線が合う。
「……オメガってのは無自覚で煽ってくるんだな」
「だってものすごくいい匂いがする……。もっと嗅ぎたい……」
「どうぞ?」
理性が追いつかない。この俺をダメにする匂いが石鹸だけじゃないことはわかっているんだ。
ウィルの頭の黒毛に顔を押し当てていたら、首筋をペロペロと舐められた。全身が急激に熱くなってくる。
それで、気づいた。
速乾性も甚だしい、性フェロモンを使われている!
「ウィル、お前……」
「顔を見せてくれ」
「いやだ、ダメだ」
「腰が動いてるぞ」
「うるさい、うるさい、ウィルのバカ……」
ああもう、やられた! この年下男のフェロモンに俺は完全敗北だ。
ぐるんと勢いよく体がひっくり返されて、ベッドに押しつけられた。柔らかいマットに体が沈み込む。
「俺が怖いか?」
「え? いや……。何で?」
「顔と体が強張ってるぞ。怯えてるのか?」
「違うよ、これ……」
ウィルは俺を試すようなことを平気で言うんだ。
俺は今、ギリギリの理性と闘ってる。
「お前はお前だ。怖くない。……でも、でもっ……、体を明け渡すのは……、怖い」
「交接行為をしないとお前はまともに生活できないぞ」
「……っ」
言い換えてきた。ずるい犬だ。
「そ、そんなの。お前だってそうだろ!」
「わかってるじゃないか」
ウィルの大きな口が開き、顔を喰われそうになったので避けたら肩を甘噛みされた。
肌を這うそのぬくい手に抗えない俺の中で燻る良心——。
「首は一番いい匂いがする」
「嗅ぐな……っ」
首元を擦られれば、くすぐったさに身を捻る。容易に逃してはもらえない。服の襟をはだかれて、帯を引っ張られる。手が早い。こういう行為に慣れてることに腹が立つ。
「ダメだってば……」
全身から力が抜けていく。
「……お前、犬じゃん。罪悪感が消えないんだよ……。なのに、俺……、お前のフェロモンに屈しちゃうのぉ……。腹の中が疼くんだよぉ……、俺の体、変になっちゃった……」
「犬じゃない。犬に欲情するのか、お前は。そこまで言われて、俺が黙って引くと思うのか……」
「ウィル、ダメだってば……、あっ」
薄明かりの中、俺から服を剥ぎ取ろうとしてくるケモノを前に、恐怖心よりも、まさかの性欲が沸き立ってくる。
これはまずいぞ。まずい。流される!
「ま、待って、ウィル……っ」
「待てない」
「……や」
俺の体を、肌を大事そうに撫で回してきて感度を探ってくる。唐突にガッと布越しに尻を掴まれて、「ぎゃっ」と叫んだら、ウィルが喜んだのがわかった。だって、その尻尾がブンブンしている。
スリスリも止まらない。……触れ合っているところからじんわりと熱が帯びる。
えっと、これってどこまで許していいんだっけ?
いや、どこまでって。反応したくないのに反応してしまう俺の下半身を、ウィルは下着越しにじれったく弄り始める。感じないわけがない。俺のソレをやさしく握ってきて、いやらしい動きをする指でゆっくりと味わうようにしごきだす……。
これ、もう既に許容範囲を超えてるだろ!
「や、やめろ、俺の体は貧相だと散々文句垂れてたくせに……っ」
「以前よりだいぶ筋力がついたな。美味そうなのは変わらない」
上半身は愛おしそうに舐められて、時折、やさしく噛まれもする。首筋から肩へ、そして胸へとゆっくりと下っていく感覚に甘い痺れを感じながら、俺は動けなくなっていく。
「……ちょっ、待って、俺って今、お前に食われてない?」
「そう思うか? なら、覚悟しろ。これまでの分も全部食わせろ」
「!?」
「ノゾム。俺はもう耐えられない」
「その名前で呼ぶのはなしだって……、あっ」
ベローッと口周りを舐められて、俺は完全に言葉を失くしてしまう。固く結んでいたはずの俺の口をその長舌がこじ開けてくる。
「……っ」
注ぎ込まれる熱量に押し負ける……。
舌先で俺の口内まで舐め回してくる、躾のなってない犬は……、最悪なことにキスが上手い!
「んっ、んんっ……」
この犬に出会ったときは、こんなことになるとはつゆほども思ってなかった。
無遠慮に侵入してくるケモノの舌に口の中を掻き乱されながら、体の奥からあられもない欲情が引き摺り出されていくのを感じた——。
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