カボチャの馬車に乗り損ねたのにはワケがある。

わをん

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刑部さんのあやまち

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 明朝。

「おはようございます」

 いつもの時間にいつもの格好で向こうから近寄ってきた。

 昨日のことなど忘れたように、平然としている。そうだった。『神林君』は度を越したストーカーだったな。あのような災害級イベントも彼にとってはなんてことは無い……。

「行こうか」
「はい」

 タッタッタといつもの縦列でリズミカルに走る。

 後ろの神林君が俺の背中に向かって言った。

「今日、工場に直行なんです」
「そうなんだ。それって、俺と一緒に行きたいって言ってる?」
「はい」
「いいよ」

 なんとなくだが、和解した気がした。

 昨日みたいな変なことはもう二度と言わないで欲しいと切に願った。

 早朝ランニングからの帰宅後。それぞれ支度をして、部屋を出て。

「どうも」
「どうも」

 マンションの前で待ち合わせたものの、交わされる言葉は少ない。

 会社までの道の神林君といえば。

 横断歩道で立ち止まる老人に寄り添い、通学途中の女子生徒が転んだのを助けてやり、泣いてる赤子をあやしてやり……。

 そのような善行をみていたらば、彼の何を否定してよいものかわからなくなった。

「お前はいい奴だがストーカーだし、俺は男相手に恋愛はできない。差別だと言われても仕方がないが、俺は」

 赤子を母親に返した神林君が、ゆっくりと俺の方に振り向いた。

「僕はストーカーではないです。あなたをつけ回すほど暇ではない。全部、偶然です」
「偶然て、どこからどこまでが? さすがにラーメン屋はなかったでしょ。君、夜は家で食べたい方じゃない」
「……幼稚園のときに」
「幼稚園?」

 信号が赤になったので、足を止めた。

「ヘアドネーションのために髪の毛を伸ばしていたせいで女の子と間違われることがよくありました。僕は男ですが、女の子よりかわいかった上に、付き合いが良かったので非常にモテました。男子から」
「………」

 額に手をやって悩み出した俺が、彼にどう見えていたかわからない。

「近所の男の子に結婚の申し込みを受けたことで、僕の性自認は完全に歪みました。彼からは朝から晩まで顔を合わせるたびに求婚されました。小学生になっても、彼が転校するまでそれはしつこく続きました」
「………」
「僕はおかしくなりました。あの頃から、男の趣味は変わっていません」

 信号は青になったが、タバコ屋のおばあちゃんと散歩途中のプードルが俺の足にすり寄ってきたので動けなくなった。

 プードルを撫でる俺の背中に向かって、彼が言った。

「だから、責任を取っていただきたく思います」






  おわり
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