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14. 鍵
拳を握りしめる。爪が掌に食い込み、痛みが私を現実に引き戻す。
顔を上げる。視線が合った。喉をこじ開けて声を絞り出す。
「変えたい……です」
かすれた、震える声。けれどそれは、紛れもない私の本音。
「でも、私には何も……何もありません」
彼は視線を逸らさなかった。むしろ、踏み込んでくる。
私のうつろな瞳の奥。暗い湖の底をさらうように、彼は覗き込んだ。
「――ずっと探しているものがあるんだ」
フィンレイ様は声を落とした。その響きが、夜気に柔らかく溶ける。
「この国に来たのも、そのためだ」
彼が一歩、近づく。
「単なる直感だが――君が、その『鍵』かもしれない」
「……鍵?」
その言葉は、あまりに突拍子もなく、私の理解を滑り落ちた。
私が? 何かの間違いだろう。私は『呪われた子』だ。家名の汚点。捨てられた人形。
「強制はしない」
彼は言った。
「ただ、もし君が俺に協力することを選んでくれるなら……対価として、俺の力を貸そう。その『複雑な事情』から、抜け出すための」
その深海のようなブルーの瞳は、私の卑屈さを突き抜け、ただ静かに答えを待っていた。
理性が叫ぶ。首を横に振るべきだ、と。
けれど、彼の真剣な眼差しに当てられて、拒絶の言葉は、喉の奥で消えた。
知りたい。
もし、私に価値があるなら。
ただ呪われた運命以外の、別の結末がここにあるのなら。
「具体的には……何をすれば良いのでしょうか?」
私は身構えた。
「簡単なことだ」
彼は軽く肩をすくめた。
「俺はここに来たばかりで、知人も少ない。……暇つぶしに付き合ってくれればいい。たまに、ただ話し相手になる。それだけさ」
そんなことで、いいの? 虚を突かれた。難題を突きつけられると覚悟していた。拍子抜けするほど、安い対価。宝石を差し出して、石ころを要求するようなものだ。
「ああ、心配しなくてもいい。二人きりというわけではない。俺には影のように張り付いている執事がいる。ギデオンというんだが……あいつはどんな教育係よりも口うるさいからな」
私の沈黙を、警戒と取ったのか。固まった私を解きほぐすように、彼は軽い調子で付け加えた。
私にはもう、守るべき評判もない。失うものなど、何も残っていない。何を迷う必要がある? 泥にまみれて泣く私に、ハンカチを差し出してくれたのは、この人だけだったのだから。
顔を上げる。
「わかりました」
ためらいがちに、けれどはっきりと、私は頷いた。
「取引成立だ」
彼は口元に弧を描いた。そこにはただ少年のように無邪気な輝きがあった。
顔を上げる。視線が合った。喉をこじ開けて声を絞り出す。
「変えたい……です」
かすれた、震える声。けれどそれは、紛れもない私の本音。
「でも、私には何も……何もありません」
彼は視線を逸らさなかった。むしろ、踏み込んでくる。
私のうつろな瞳の奥。暗い湖の底をさらうように、彼は覗き込んだ。
「――ずっと探しているものがあるんだ」
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「この国に来たのも、そのためだ」
彼が一歩、近づく。
「単なる直感だが――君が、その『鍵』かもしれない」
「……鍵?」
その言葉は、あまりに突拍子もなく、私の理解を滑り落ちた。
私が? 何かの間違いだろう。私は『呪われた子』だ。家名の汚点。捨てられた人形。
「強制はしない」
彼は言った。
「ただ、もし君が俺に協力することを選んでくれるなら……対価として、俺の力を貸そう。その『複雑な事情』から、抜け出すための」
その深海のようなブルーの瞳は、私の卑屈さを突き抜け、ただ静かに答えを待っていた。
理性が叫ぶ。首を横に振るべきだ、と。
けれど、彼の真剣な眼差しに当てられて、拒絶の言葉は、喉の奥で消えた。
知りたい。
もし、私に価値があるなら。
ただ呪われた運命以外の、別の結末がここにあるのなら。
「具体的には……何をすれば良いのでしょうか?」
私は身構えた。
「簡単なことだ」
彼は軽く肩をすくめた。
「俺はここに来たばかりで、知人も少ない。……暇つぶしに付き合ってくれればいい。たまに、ただ話し相手になる。それだけさ」
そんなことで、いいの? 虚を突かれた。難題を突きつけられると覚悟していた。拍子抜けするほど、安い対価。宝石を差し出して、石ころを要求するようなものだ。
「ああ、心配しなくてもいい。二人きりというわけではない。俺には影のように張り付いている執事がいる。ギデオンというんだが……あいつはどんな教育係よりも口うるさいからな」
私の沈黙を、警戒と取ったのか。固まった私を解きほぐすように、彼は軽い調子で付け加えた。
私にはもう、守るべき評判もない。失うものなど、何も残っていない。何を迷う必要がある? 泥にまみれて泣く私に、ハンカチを差し出してくれたのは、この人だけだったのだから。
顔を上げる。
「わかりました」
ためらいがちに、けれどはっきりと、私は頷いた。
「取引成立だ」
彼は口元に弧を描いた。そこにはただ少年のように無邪気な輝きがあった。
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