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19. 一歩
「なんだと?」
リアム様の眉が跳ね上がる。その剣幕に押されて、心臓が早鐘を打つ。喉がカラカラに乾いていた。それでも私は、口を閉ざさなかった。
「私をあのような姿で連れ歩き、笑いものにしたのは貴方です。……私が恥なのではありません。あなたが……あなたが、私を蔑ろにしたのです」
声が震える。膝も笑う。立っているのがやっとだ。けれど、俯かなかった。真っ向から彼の双眸を見据える。
リアム様が瞬きをする。まるで、人形が急に意思を持って喋り出したかのような顔。
「……は。どうやって戻ってきたんだ。馬車はなかったろう」
話題が変わった。いや、変えたのだ。
「先に帰ったあなたには、関係のないことです」
「口を慎め!」
彼が一歩、踏み込んでくる。整った顔が苛立ちに歪み、亀裂が入る。威圧感が肌を刺す。
「それが本性か。下品な。」
彼は鼻で笑った。私の反抗を、矮小な感情へとねじ曲げる。
「そうやって耳障りに喚くのは、アリスへの当てつけか?また嫉妬か?醜いぞ」
「嫉妬では……ありません」
首を横に振る。
「私はただ、……もうどうでもいいのです」
「どうでもいい、だと?」
低く、地を這うような声。彼は私の前に立ち塞がり、見下ろしている。かつてはその顔が曇るだけで胸が痛んだ。今では遠い昔の出来事のよう。
「はい。ですから、どうか私のことはお構いなく、……アリス様とお幸せに」
淡々と告げる。それが彼の逆鱗に触れるとは知らずに。
「――黙れ!」
怒号と共に、空気が震えた。
リアム様が拳を握りしめ、私のすぐ側の壁を叩く。ドン、と鈍い音が響き、リアム様の声が、鞭のように空気を叩いた。
「なぜ大人しくしていない?なぜ逆らう?」
彼の瞳にどす黒い炎が宿る。私は身震いした。
「人形のようにしていればいいんだ。ただ立って、笑っていればいい。命令に背くな。従順でいろ。お前の価値はそれだけだ」
彼の手が振り上げられた。暴力。体が強張る。思考より先に、肉体が恐怖を思い出す。私は目をきつく閉じた。
衝撃は来なかった。恐る恐る目を開ける。
リアム様は、震えて縮こまる私を見て、満足げに鼻を鳴らした。手を下ろす。
「そうだ。それでいい。怯えていろ。そのほうが似合っている」
踵を返し、扉を叩きつけるように閉めて出て行った。嵐が去った。
膝から力が抜ける。床へへなへなと座り込んだ。手が震えている。吐き気がする。怖かった。心臓が壊れそうだ。でも、彼は去った。私は立ち向かった。
小さな、小さな一歩。けれど、最初の一歩。
リアム様の眉が跳ね上がる。その剣幕に押されて、心臓が早鐘を打つ。喉がカラカラに乾いていた。それでも私は、口を閉ざさなかった。
「私をあのような姿で連れ歩き、笑いものにしたのは貴方です。……私が恥なのではありません。あなたが……あなたが、私を蔑ろにしたのです」
声が震える。膝も笑う。立っているのがやっとだ。けれど、俯かなかった。真っ向から彼の双眸を見据える。
リアム様が瞬きをする。まるで、人形が急に意思を持って喋り出したかのような顔。
「……は。どうやって戻ってきたんだ。馬車はなかったろう」
話題が変わった。いや、変えたのだ。
「先に帰ったあなたには、関係のないことです」
「口を慎め!」
彼が一歩、踏み込んでくる。整った顔が苛立ちに歪み、亀裂が入る。威圧感が肌を刺す。
「それが本性か。下品な。」
彼は鼻で笑った。私の反抗を、矮小な感情へとねじ曲げる。
「そうやって耳障りに喚くのは、アリスへの当てつけか?また嫉妬か?醜いぞ」
「嫉妬では……ありません」
首を横に振る。
「私はただ、……もうどうでもいいのです」
「どうでもいい、だと?」
低く、地を這うような声。彼は私の前に立ち塞がり、見下ろしている。かつてはその顔が曇るだけで胸が痛んだ。今では遠い昔の出来事のよう。
「はい。ですから、どうか私のことはお構いなく、……アリス様とお幸せに」
淡々と告げる。それが彼の逆鱗に触れるとは知らずに。
「――黙れ!」
怒号と共に、空気が震えた。
リアム様が拳を握りしめ、私のすぐ側の壁を叩く。ドン、と鈍い音が響き、リアム様の声が、鞭のように空気を叩いた。
「なぜ大人しくしていない?なぜ逆らう?」
彼の瞳にどす黒い炎が宿る。私は身震いした。
「人形のようにしていればいいんだ。ただ立って、笑っていればいい。命令に背くな。従順でいろ。お前の価値はそれだけだ」
彼の手が振り上げられた。暴力。体が強張る。思考より先に、肉体が恐怖を思い出す。私は目をきつく閉じた。
衝撃は来なかった。恐る恐る目を開ける。
リアム様は、震えて縮こまる私を見て、満足げに鼻を鳴らした。手を下ろす。
「そうだ。それでいい。怯えていろ。そのほうが似合っている」
踵を返し、扉を叩きつけるように閉めて出て行った。嵐が去った。
膝から力が抜ける。床へへなへなと座り込んだ。手が震えている。吐き気がする。怖かった。心臓が壊れそうだ。でも、彼は去った。私は立ち向かった。
小さな、小さな一歩。けれど、最初の一歩。
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