病弱だった私がメイドに転生しました!幼馴染の執事と一緒にお仕事頑張ります!

空木切

文字の大きさ
10 / 16

10

しおりを挟む
 フレイドは当て所なくシェナを探し回っていた。急がなければ、二度と会えなくなるかもしれない。彼女は遥か遠くへ行ってしまうかもしれない。

 使用人たちの制止も振り切って来てしまった。こんなことは初めてだ。
 使用人に任せられることは全て任せてきたというのに、今回はどうしても自分が見つけなければいけないと躍起になっていた。

 じっとしているなんて出来ない。早く気持ちを伝えたい。そして、放って置けばすぐにも消えてしまいそうな彼女を、この世界に留めなくては。

「シェナ! どこにいるんだ!」

 何十回目かの呼びかけは、街行く人々を少し振り返らせただけだった。



**



「どうしたんだシェナ」
「今、呼ばれた気がして……」
「きっと風の音だよ」
「うん、そうだよね」

 まさかリーゼロッテが追いかけてくるわけもない。シェナは僅かに抱いた希望をすぐに消して、また歩を進めた。
 屋敷をほとんど出たことがないシェナにとって、街中の風景はとても新鮮だった。テオの足取りには迷いがない。彼は頻繁に買い出しに来る為よく知っているのだろう。

 テオは通りの先に目をやった。

「この先に、安くていい宿があるんだ」
「テオは何でも知ってるね。本当にテオがいてくれて良かった……」
「大袈裟だなあ」

 テオはくすくすと笑い声を零した。シェナも一緒になって笑う。

 仕事とちゃんとした住居が見つかるまで、しばらくは宿に泊まることにした。テオがいなければ、シェナは宿も何も分からず途方に暮れていたことだろう。

 テオには助けられてばかりだ。シェナは、自分も彼の助けになりたいと考えていた。何か出来ることはあるだろうか。

「ねえテオ、私も何か――」
「シェナ! 見つけた!」

 大声に驚いて振り向くと、空色の瞳が。空よりも青くそこにあった。
 シェナは息を呑んだ。声が裏返る。

「フレイド様!?」
「良かった、もう二度と会えないかと……」

 フレイドは汗を流し、肩を上下させている。シェナへ手を伸ばそうとするも、間にテオが入った。

「何の用ですか。僕たちはあの屋敷から追い出されたんです。これから――」
「シェナ、私は、君が好きなんだ」
「へっ? え、な、何ですか? 私が何か?」

 フレイドの言葉は自らの呼吸に阻まれ上手く届かなかった。シェナは首を傾げている。テオはシェナを背後にして、ゆっくり一歩下がった。

「フレイド様。お願いですから、僕たちのことはもう忘れてください。これ以上、上の者の都合に振り回されるのは御免です」

 テオははっきりとフレイドを拒絶した。一方フレイドは、今やっとテオに目を向けたところだった。

「君は……? ええと、あの屋敷で働いていた人かな?」
「ええ。ですが、僕たちはもうキングスコート伯爵家とは無関係です。当然、貴方とも」

 テオは苛ついていた。何故ここで彼が現れるのか、予定外のことに余裕が失われつつあった。

 フレイドはそんなテオに向かって真摯に言った。

「関係ある。君を私の家で雇おう」
「はい?」

 フレイドはテオを無視してシェナへ近寄った。そして地に片膝を突く。

「シェナ、聞いて欲しい。私は君を愛している。一緒に同じ月を見よう。温もりを分かち合おう。やっと理解したんだ。私は、ずっと君に会う為にあの屋敷に通っていたのだと」

 真剣な眼差しにシェナは狼狽えた。突然のことで、頭が上手く働かないでいた。

「……フレイド様が私を? で、でも私、そんな、大した身分ではありません。きっと、勘違いをされているのだと思います。フレイド様は、リーゼロッテ様を愛していらっしゃるはずです」
「違う。シェナ、私は本気で、本当に君だけを愛している」
「あ……っ、その……」

 熱烈な告白に、シェナは赤面した。どう反応して良いか困って、思わずテオを見てしまう。彼はすぐにシェナの腕を引いて、自分の後ろに隠した。フレイドを睨む。

「やめてください。無理矢理従わせるつもりですか? シェナ、行こう」
「でも」
「僕の言うことが聞けないの? シェナ」
「ううん……行こうテオ。フレイド様、申し訳ありません」

 そうだ、テオの言うことは正しい。シェナはほっとしてフレイドに背を向けた。フレイドはそこへ疑問を投げつける。

「君たちはどういう関係なんだ。今のやり取りは何だ?」
「ただの、家族みたいなものです。フレイド様、屋敷へお戻りください。使用人たちが貴方を探している頃でしょう。あまり困らせては可哀想ですよ」
「私は戻らない。シェナ、君はどうしたい? 君の意見を聞きたいんだ」
「……私は……」
「シェナ!」

 テオが厳しく言う。珍しく怒っていた。しかし、シェナは、

「私、あの、フレイド様のお話をちゃんと聞きたいです」

 フレイドの方を振り向く。フレイドは安堵した表情を見せた。




「シェナ……何でだよ」

 テオは誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

処理中です...