アラサー魔法少女ミラクル☆ルチカ!!~マスコットキャラの愛が重くて面倒臭いと思っているけど本人には内緒だよ~

空木切

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日常編

8 臆病で弱虫

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 帰宅早々、怪物が現れた。今日は残業も無く、のんびりできると思った矢先の出来事である。

「陽波、行くよ!」
「分かってます……」

 休みモードに入りかけていた体に鞭を打って外へ出た。

 兎姿になったアストと共に現場に到着。陽波は変身バンクを経てミラクル☆ルチカに変身すると怪物の前に飛び出した。
 例の如く、怪物に乗ったティグロが赤い目で陽波を見下ろした。

「お! 早かったなァ!」
「空気を読みなさい!!」
「何の話だよ?」

 ティグロは眉をひそめた。ルチカは彼に向かって遠くから指を突きつける。

「タイミングってものがあるでしょう! 要は、帰宅後の再出動は辛いってこと!」
「ンなこと知らねーよ。お前のプライベートに興味はねェし」
「ふん! 実はね、今日は作戦があります!」
「へえ?」

 ティグロは馬鹿にするように片目を細めた。ルチカの隣ではアストが、愛らしいつぶらな瞳を瞬かせた。

「作戦って何? 俺も聞いてないけど」
「まあいいからアストは見てなさい。とうっ!」

 ルチカはミラクルなパワーで高く飛び上がった。人型怪物の肩のところに、ティグロの姿を確認。いつも定位置だ。ルチカはミラクルスティックを両手で握った。

「いくわよ! 秘技、ミラクル直殴り!」
「うおっと!」

 ティグロに向かって振り下ろされたスティックは、いともあっさり受け止められてしまった。ルチカは悔しく歯噛みする。

「くっ。やるわね」
「変わった技だなァ。初めて見たぜ」
「秘技ですから」

 ルチカも怪物の肩に乗り、ティグロへ蹴りを繰り出した。が、当然避けられてしまう。

「あーっ、もうっ! 避けないで!」
「俺様を痛い目に遭わせてどうする。お前の相手はデカブツだろォ?」
「私、思ったの。直接ティグロを倒した方が早いってね!」

 再びスティックを、今度はティグロの脇腹を狙って振った。空振り。

「戦闘技術が欲しい……!」
「ハイ無駄ァ~。一般人のお前が俺様に勝てるわけねーだろバァカ!」
「うわ! 危ない!」

 ティグロが拳を振ったのでルチカは避けた。明らかにレベルが違う。スピードもパワーもルチカより相当強かった。ルチカはひやひやしつつ文句を言った。

「危ないじゃない! 怪我したらどうするのよ!」
「こっちのセリフ~。つかよ、兎を置いてけぼりにして良いのかァ? 寂しがって泣き出すぞアイツ」
「このっ!」

 一瞬ティグロが下を見たので、その隙にスティックを振った。またもや受け止められてしまう。しかもティグロは、スティックの先を握ったまま放さない。

「あっ、もう! 放して~!」
「ハァー鬱陶しい。なあルチカ、こんなことして意味があると思ってんのかァ? ン?」
「思ってるからやってんのよ!」

 ルチカはスティックを引っ張るがびくともしない。ティグロは怠そうに、空いた片手を持ち上げた。

「分かってねーなァ。どーでもいいけどよ、お前も兎も、やることは決まってんだろ? 余計なことは考えんな」
「何、どういう意味?」
「俺様を殴ってもなーんの意味もねェってことだ。そんじゃ、兎んとこへお帰りィ~!」

 突然スティックを引かれ、ルチカは前のめりになる。と、その額に、ティグロがデコピンを食らわせた。その衝撃でルチカは地面まで吹っ飛ばされてしまう。

「うわわ、っとぉ! 着地!! ……なんて指の力してんのよ本当」

 しっかり両足で着地し、ルチカは額を擦った。衝撃はともかく、普通にデコピンをされたのと変わらない痛みだ。
 アストがすぐに飛んできて、ルチカを叱咤する。

「ルチカ、大丈夫!? なんて無茶するんだよ! 勝手に危ないことするな!」
「だって……このままじゃキリないじゃん」

 ティグロに全く歯が立たなかったのもあって、ルチカは若干拗ねていた。

「いくら倒しても怪物は出てくるし、元凶を直接殴った方が早いと思ったの」
「それは確かにそうだけど、俺たちじゃティグロには敵わないよ」
「ほら! そうやって諦める! やってみなきゃ分かんないのに!」
「でも実際やって負けたよね?」
「それは、そうだけどさあ……」

 ルチカは肩を落とした。同じことの繰り返しでは何も解決しない。そう思っての行動だったが、結局何の意味も無かった。

「ンでも弱虫兎よりは良いよなァ、ルチカ。お前もこっちに来るか? 歓迎するぜェ? 土産は兎の肉で良いからよォ」
「行きません! 人の会話を盗み聞きするな!」

 ルチカはいつも通り怪物に攻撃を加え、光によって消滅させた。怪物がいなくなった後も、ティグロはじっと佇んでルチカを見つめていた。ルチカは睨む。

「何? 用が済んだならさっさと帰りなさいよ。無駄なことをした私を笑いたければ笑えばいいわ。その三倍笑ってやるから!」

 敢えて胸を張って言うと、ティグロは愉快そうに笑った。

「ハッ。勿体ねーなァ。兎にくれてやるには勿体ない、が、仕方ねえな。こればっかりは」
「主語を言いなさいよさっきからムカつく! 曖昧な物言いは会社で嫌われるわよ!」
「ハーイハイ。そんじゃ、また明日~!」
「来なくていい!」

 ティグロは姿を消し、ルチカは変身を解いた。無駄に動き回った所為でいつも以上に疲労は濃い。一度深呼吸をしてから、兎姿のアストを見た。兎のマスコット姿だと可愛らしいものの表情が分かりにくい。

「あー、えっと、ごめんアスト。今思うと無茶したと思う。すみませんでした」
「次に何かする時は、絶対に相談して。俺も協力したいから」

 気まずい。陽波も冷静さを欠いている自覚はあった。アストに相談すれば止められるだろうと分かった上でやってしまったのだ。アストの臆病さに苛ついていたのもある。しかし、アストが常に最善を考えてくれているのも事実だ。闇雲に突っ込んだって意味はない。

「陽波も俺が弱虫だって思う?」

 アストは人の姿に変わってから、真面目な顔で言った。陽波は首を振る。

「ううん。多分、それくらいが良いんだと思うよ。私は無鉄砲に突っ込んじゃうところあるから、アストと私で丁度いいんじゃないかな。まあー、ちょっと慎重すぎるかなーと思うところはあるけど」

 陽波は苦笑いを浮かべた。アストは、

「俺、陽波をちゃんと守れるか、いつも不安なんだ」

 と表情を暗くした。

「俺は別に痛くても辛くてもいいんだ。でも、陽波が痛いのとか辛いのは嫌なんだよ。見たくない。もし陽波が大怪我したらどうしようって、いつも怖いんだ。陽波に何かあっても、俺が出来ることは少ないから……」

 アストは辛そうに目を伏せた。陽波は息を吐いて、冗談ぽくアストを睨む。

「さては~、アストは私を信用していないな? 私がそんな簡単に怪我すると思う?」
「思う」
「即答すんな。いや、今日のはさすがに私も無茶したなあとは思ったよ。そうじゃなくて。私はアラサーなので、そもそもがそんなに無茶効かないんですよ。分かります? 怪我したら治りは遅いし、跡も残るし、私だって怪我しないように細心の注意を払っているわけですよ」

 陽波は少しでもアストを臆病だと思ってしまったことを悔いた。彼が常に心配してくれているのは、陽波も知っていたはずなのに。

「……ごめんねアスト。私、本当はアストのこと臆病~って思ってた」
「やっぱり!」
「でも、まあさっきも言ったけどそれくらいでいいんじゃない? 二人揃って無鉄砲だったら全滅しちゃうし」
「うん……。でも俺、本当に臆病で弱虫なんだ。だって、ティグロのあの目とか怖いし」
「ええー」
「俺のこと睨んでくるし」
「それくらい耐えなよ」
「た、耐えてるじゃんいつも……」

 アストは弱々しく言った。弱い。アストが以前、魔法少女たちの尻に敷かれていたのを思い出すと、陽波も“まあ~そうだよな”と納得してしまった。臆病というか、気が弱いというか。
 アストは戦うよりも家でご飯作ってた方がいいんじゃないだろうか。陽波は帰り道を歩きながら、夕飯の献立を考えた。

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