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日常編
7-2
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「うわ、うわ~! ひゃ~!」
「陽波うるさい」
「普通あんなことする!?」
陽波は今映像で見たのを真似て、アストの顎に指を置いた。そして低く囁く。
「『よそ見すんな、俺だけ見てろ』」
「……え、陽波がそっち?」
「かぁ~! やばいな最近の恋愛映画。どういうテンションで見ればいいか分かんない」
出来るだけ非日常をと思い、陽波が選んだのは学生ものの恋愛映画だった。陽波からすると実にびっくりするほど非現実的だったが、その分何も考えずに楽しめていた。
アストは「ん~?」と疑問符を浮かべながらも一応真剣に見てはいるようだ。
「ねえ陽波、ドSって何?」
「ちょっと意地悪、みたいな?」
男の設定がドSなのである。タイトルにもドS王子だのと書いてあった。アストはドS王子に迫られるヒロインの心情がいまいち理解出来ないらしい。
「この子は意地悪なことされて嬉しいの? 何で?」
「分かってない、アストは分かってない! それが良いんだって。この、たまに優しくなる時とのギャップっていうか! あーこんな恋愛してみてぇ~」
「本当にしてみたい?」
「実際……こういう人がいたら嫌だよね。いないけどね」
さすがにそこまで夢は見られない。もし陽波がヒロインの立場ならば真っ先に逃げ出しているだろう。画面の中では、ヒロインの心が揺れ動く様が描写されている。
アストは集中しきれていないのか質問を続けた。
「じゃあどういう人がいい?」
「んー……給料そこそこ貰ってて、家事とかも出来る人がいいなー。あ。アスト家事出来るじゃん。アストと結婚しようかな」
「お、俺? え、でも、俺は」
アストは分かりやすく狼狽えた。陽波とスマホの画面とを交互に見ている。陽波は笑ってしまった。
「あははめっちゃ動揺してるー! 冗談だよ、ごめんごめん。私もいずれは素敵な人を見つけるから、アストはアストで幸せになってくれ」
「なんだよ~……びっくりした」
アストは安堵している。そんなに真面目に受け取ったのか、と陽波は申し訳ない気持ちになった。一応念を押しておく。
「ごめん。アストにそういう気は無いから安心してよ。私からしたらアストはマスコットキャラみたいなものだし、なーんにも無いから大丈夫」
マスコットキャラじゃない、と文句が飛んでくるのを陽波は待ち構えていたが、アストは何も言わなかった。映画に夢中になっているのかもしれない。陽波も黙って集中することにした。
映画の中の二人は紆余曲折あって、無事に恋人になって終了した。分かりやすい話で、陽波も最後まで飽きずに見られた。
「あー面白かった。少女漫画みたいなのもたまには良いよね~。そんじゃ夕飯作ろっか」
「うん」
陽波は伸びをしながら立ち上がった。アストも立ち上がり、共にキッチンへ向かおうとするも、アストは何故か陽波を壁際に追いやった。
「どうしたの、アスト斜めに歩いてるよ? え?」
アストを押し返すが、びくともしない。陽波が壁にぴったりくっつくと、アストは陽波の顔の横に手を突いた。そして目を見ながら言う。
「俺は男だ」
「うん。確かに」
確かにそうだ。陽波は頷いた。他に何を言えばいいか分からず無言のまま見つめ合う。と、アストが先に折れた。
「そ、そうじゃなくて……そういう意味じゃなくて」
「ん? え? ハッ、これ壁ドンじゃん! 映画のやつじゃん!」
陽波は遅れて事態を理解した。アストは恥ずかしそうに俯く。彼を励まそうと陽波は催促した。
「もう一回やってもう一回! ごめん、いきなり過ぎて分かんなかった!」
「違う~……」
「え? ほらほら、映画の台詞! 言って!」
アストは床を見たまま唸っていたが、渋々顔を上げ、息を吸った。陽波が期待の眼差しを向ける中、真面目な顔を作る。
「『一生俺から離れられなくしてやるよ』」
「……ひぇ~……」
陽波は怯えている。どう見てもヒロインの反応ではない。
「それどういう反応?」
「私、一生魔法少女やるの? とか考えちゃった……ごめん、私が悪い」
「一生ってことは無いと思うよ……」
アストは陽波から離れた。溜め息を吐く。
「違うんだよ、俺が言いたかったのは、マスコットキャラじゃないってことであって!」
「ああ、そういうこと~。でもさっきのアストは男っぽかったよ」
「そ、そう?」
「うん」
アストは「ならいいけど」とその場は満足して、しかし後になって“男っぽい”とはつまり“っぽい”であって男ではないと気付いたのだった。
「陽波うるさい」
「普通あんなことする!?」
陽波は今映像で見たのを真似て、アストの顎に指を置いた。そして低く囁く。
「『よそ見すんな、俺だけ見てろ』」
「……え、陽波がそっち?」
「かぁ~! やばいな最近の恋愛映画。どういうテンションで見ればいいか分かんない」
出来るだけ非日常をと思い、陽波が選んだのは学生ものの恋愛映画だった。陽波からすると実にびっくりするほど非現実的だったが、その分何も考えずに楽しめていた。
アストは「ん~?」と疑問符を浮かべながらも一応真剣に見てはいるようだ。
「ねえ陽波、ドSって何?」
「ちょっと意地悪、みたいな?」
男の設定がドSなのである。タイトルにもドS王子だのと書いてあった。アストはドS王子に迫られるヒロインの心情がいまいち理解出来ないらしい。
「この子は意地悪なことされて嬉しいの? 何で?」
「分かってない、アストは分かってない! それが良いんだって。この、たまに優しくなる時とのギャップっていうか! あーこんな恋愛してみてぇ~」
「本当にしてみたい?」
「実際……こういう人がいたら嫌だよね。いないけどね」
さすがにそこまで夢は見られない。もし陽波がヒロインの立場ならば真っ先に逃げ出しているだろう。画面の中では、ヒロインの心が揺れ動く様が描写されている。
アストは集中しきれていないのか質問を続けた。
「じゃあどういう人がいい?」
「んー……給料そこそこ貰ってて、家事とかも出来る人がいいなー。あ。アスト家事出来るじゃん。アストと結婚しようかな」
「お、俺? え、でも、俺は」
アストは分かりやすく狼狽えた。陽波とスマホの画面とを交互に見ている。陽波は笑ってしまった。
「あははめっちゃ動揺してるー! 冗談だよ、ごめんごめん。私もいずれは素敵な人を見つけるから、アストはアストで幸せになってくれ」
「なんだよ~……びっくりした」
アストは安堵している。そんなに真面目に受け取ったのか、と陽波は申し訳ない気持ちになった。一応念を押しておく。
「ごめん。アストにそういう気は無いから安心してよ。私からしたらアストはマスコットキャラみたいなものだし、なーんにも無いから大丈夫」
マスコットキャラじゃない、と文句が飛んでくるのを陽波は待ち構えていたが、アストは何も言わなかった。映画に夢中になっているのかもしれない。陽波も黙って集中することにした。
映画の中の二人は紆余曲折あって、無事に恋人になって終了した。分かりやすい話で、陽波も最後まで飽きずに見られた。
「あー面白かった。少女漫画みたいなのもたまには良いよね~。そんじゃ夕飯作ろっか」
「うん」
陽波は伸びをしながら立ち上がった。アストも立ち上がり、共にキッチンへ向かおうとするも、アストは何故か陽波を壁際に追いやった。
「どうしたの、アスト斜めに歩いてるよ? え?」
アストを押し返すが、びくともしない。陽波が壁にぴったりくっつくと、アストは陽波の顔の横に手を突いた。そして目を見ながら言う。
「俺は男だ」
「うん。確かに」
確かにそうだ。陽波は頷いた。他に何を言えばいいか分からず無言のまま見つめ合う。と、アストが先に折れた。
「そ、そうじゃなくて……そういう意味じゃなくて」
「ん? え? ハッ、これ壁ドンじゃん! 映画のやつじゃん!」
陽波は遅れて事態を理解した。アストは恥ずかしそうに俯く。彼を励まそうと陽波は催促した。
「もう一回やってもう一回! ごめん、いきなり過ぎて分かんなかった!」
「違う~……」
「え? ほらほら、映画の台詞! 言って!」
アストは床を見たまま唸っていたが、渋々顔を上げ、息を吸った。陽波が期待の眼差しを向ける中、真面目な顔を作る。
「『一生俺から離れられなくしてやるよ』」
「……ひぇ~……」
陽波は怯えている。どう見てもヒロインの反応ではない。
「それどういう反応?」
「私、一生魔法少女やるの? とか考えちゃった……ごめん、私が悪い」
「一生ってことは無いと思うよ……」
アストは陽波から離れた。溜め息を吐く。
「違うんだよ、俺が言いたかったのは、マスコットキャラじゃないってことであって!」
「ああ、そういうこと~。でもさっきのアストは男っぽかったよ」
「そ、そう?」
「うん」
アストは「ならいいけど」とその場は満足して、しかし後になって“男っぽい”とはつまり“っぽい”であって男ではないと気付いたのだった。
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