アラサー魔法少女ミラクル☆ルチカ!!~マスコットキャラの愛が重くて面倒臭いと思っているけど本人には内緒だよ~

空木切

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日常編

7-2

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「うわ、うわ~! ひゃ~!」
「陽波うるさい」
「普通あんなことする!?」

 陽波は今映像で見たのを真似て、アストの顎に指を置いた。そして低く囁く。

「『よそ見すんな、俺だけ見てろ』」
「……え、陽波がそっち?」
「かぁ~! やばいな最近の恋愛映画。どういうテンションで見ればいいか分かんない」

 出来るだけ非日常をと思い、陽波が選んだのは学生ものの恋愛映画だった。陽波からすると実にびっくりするほど非現実的だったが、その分何も考えずに楽しめていた。
 アストは「ん~?」と疑問符を浮かべながらも一応真剣に見てはいるようだ。

「ねえ陽波、ドSって何?」
「ちょっと意地悪、みたいな?」

 男の設定がドSなのである。タイトルにもドS王子だのと書いてあった。アストはドS王子に迫られるヒロインの心情がいまいち理解出来ないらしい。

「この子は意地悪なことされて嬉しいの? 何で?」
「分かってない、アストは分かってない! それが良いんだって。この、たまに優しくなる時とのギャップっていうか! あーこんな恋愛してみてぇ~」
「本当にしてみたい?」
「実際……こういう人がいたら嫌だよね。いないけどね」

 さすがにそこまで夢は見られない。もし陽波がヒロインの立場ならば真っ先に逃げ出しているだろう。画面の中では、ヒロインの心が揺れ動く様が描写されている。

 アストは集中しきれていないのか質問を続けた。

「じゃあどういう人がいい?」
「んー……給料そこそこ貰ってて、家事とかも出来る人がいいなー。あ。アスト家事出来るじゃん。アストと結婚しようかな」
「お、俺? え、でも、俺は」

 アストは分かりやすく狼狽えた。陽波とスマホの画面とを交互に見ている。陽波は笑ってしまった。

「あははめっちゃ動揺してるー! 冗談だよ、ごめんごめん。私もいずれは素敵な人を見つけるから、アストはアストで幸せになってくれ」
「なんだよ~……びっくりした」

 アストは安堵している。そんなに真面目に受け取ったのか、と陽波は申し訳ない気持ちになった。一応念を押しておく。

「ごめん。アストにそういう気は無いから安心してよ。私からしたらアストはマスコットキャラみたいなものだし、なーんにも無いから大丈夫」

 マスコットキャラじゃない、と文句が飛んでくるのを陽波は待ち構えていたが、アストは何も言わなかった。映画に夢中になっているのかもしれない。陽波も黙って集中することにした。




 映画の中の二人は紆余曲折あって、無事に恋人になって終了した。分かりやすい話で、陽波も最後まで飽きずに見られた。

「あー面白かった。少女漫画みたいなのもたまには良いよね~。そんじゃ夕飯作ろっか」
「うん」

 陽波は伸びをしながら立ち上がった。アストも立ち上がり、共にキッチンへ向かおうとするも、アストは何故か陽波を壁際に追いやった。

「どうしたの、アスト斜めに歩いてるよ? え?」

 アストを押し返すが、びくともしない。陽波が壁にぴったりくっつくと、アストは陽波の顔の横に手を突いた。そして目を見ながら言う。

「俺は男だ」
「うん。確かに」

 確かにそうだ。陽波は頷いた。他に何を言えばいいか分からず無言のまま見つめ合う。と、アストが先に折れた。

「そ、そうじゃなくて……そういう意味じゃなくて」
「ん? え? ハッ、これ壁ドンじゃん! 映画のやつじゃん!」

 陽波は遅れて事態を理解した。アストは恥ずかしそうに俯く。彼を励まそうと陽波は催促した。

「もう一回やってもう一回! ごめん、いきなり過ぎて分かんなかった!」
「違う~……」
「え? ほらほら、映画の台詞! 言って!」

 アストは床を見たまま唸っていたが、渋々顔を上げ、息を吸った。陽波が期待の眼差しを向ける中、真面目な顔を作る。

「『一生俺から離れられなくしてやるよ』」
「……ひぇ~……」

 陽波は怯えている。どう見てもヒロインの反応ではない。

「それどういう反応?」
「私、一生魔法少女やるの? とか考えちゃった……ごめん、私が悪い」
「一生ってことは無いと思うよ……」

 アストは陽波から離れた。溜め息を吐く。

「違うんだよ、俺が言いたかったのは、マスコットキャラじゃないってことであって!」
「ああ、そういうこと~。でもさっきのアストは男っぽかったよ」
「そ、そう?」
「うん」

 アストは「ならいいけど」とその場は満足して、しかし後になって“男っぽい”とはつまり“っぽい”であって男ではないと気付いたのだった。
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