アラサー魔法少女ミラクル☆ルチカ!!~マスコットキャラの愛が重くて面倒臭いと思っているけど本人には内緒だよ~

空木切

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日常編

9-2

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 合コンが開幕して一時間後。陽波は現在、光る鞄を抱えて街中を走っていた。スーツで走るのも慣れたものである。

「めちゃめちゃ目立つ!」

 職質されたらどう答えればいいか分からない。あ~、これはですね、鞄の中に玩具を入れてまして、はい、はい、すみません……。無理だ。

 怪物の気配が近い。人があちこちで倒れている。陽波は倒れた人を踏まないように気を付けながらミラクルスティックを掲げた。

「ミラクル☆チェンジ!」

 暖かい光に包まれ、陽波は無事にフリフリの全身ピンクに変身した。

「世界にキラキラ煌めく光! ミラクル☆ルチカ!! ……あーもー毎回叫ばなきゃいけないのかこれは!」

 半分ヤケクソになりながら禍々しい怪物の前に立つ。お馴染みの顔が見えた。ティグロだ。

「出勤ゴクローサン。給料は出ねぇけどなァ」
「出たわねティグロ、ふふ、今日ばっかりは貴方に感謝してやってもいいわ」
「何だァ気色悪い」
「気色悪いとは何よ!」

 ルチカはスティックと拳を握りしめた。気合十分に戦おうとしたところへ、

「アスト! 早かったね!」

 黒い兎が飛んできて、申し訳なさそうな声を出した。

「ルチカ……ごめん。合コンの邪魔して」
「何で謝るの? 良いのよ謝らなくて。私は今気分がいいから!」
「え?」

 ルチカは地を蹴ると、スティックを振り上げた。

「いくわよっ! ミラクル~、自称偉い人の息子って何なのよアタック!!」
「何だァ?」

 ルチカの攻撃で怪物は少し身を退いた。しかしまだ元気なようだ。怪物の咆哮にも怯まずルチカは次の攻撃に移る。

「えーいっ! ミラクル、職場の愚痴ばっか言ってもしょうがないだろうがキック!!」
「ウワー……八つ当たりかよォ」

 ティグロがぼそっと呟いたのをルチカは耳聡く拾った。

「何。他にどうすればいいのよこの感情! 悪いけど今日はミラクル八つ当たりをさせてもらうわ」
「堂々と言うなア。おい、お前も頑張れ。サンドバッグになりたかねェだろ?」

 返事でもするように怪物は声を上げ、腕を振り回した。ルチカは華麗に避けつつ隙だらけの腹部に拳を叩き込んだ。

「ミラクル~、私の分の唐揚げまで食べるなんて許さないパーンチ!!」
「ルチカ、唐揚げくらいなら俺が作るよ……」
「続いて、『あ~二十七? そうなんだ、惜しいな~彼女にするなら二十五までって決めてんだよね俺』ってハァ!? パンチ!!」
「気合入ってんなァ~」
「ラスト! ああああもう全部全部ふざけんなパーンチ!!」

 散々に腹を殴られた怪物は尻もちをついた。ルチカは素早くアストを振り返る。

「アスト!」
「はっ、はい!」

 アストは怯えながらルチカの頭に乗った。ルチカの全身から覇気が滲み出ている。スティックを構えて叫んだ。

「必殺! スパークルクラァァアーッシュ!!」

 心なしかいつも以上に眩い光を放ち、怪物は八つ当たりされたままに消滅した。

「ああ……人間なんて滅べばいいのに……」

 ルチカは虚ろな目で呟く。まるで決め台詞のようだ。アストはそっとルチカから離れた。刺激してはいけないと思ったのだった。

 ティグロが気の毒そうに言う。

「あー、その、災難だったなァ……ルチカ、元気出せよ」
「よりによってあんたに励まされるなんてね。意外と良い奴じゃない」
「ハハ……帰るわ」

 ティグロは早々に姿を消した。これ以上付き合いたくないと思ったのかもしれない。残されたルチカとアストは無言で立ち尽くしていた。

「あ、変身解かなきゃ」

 ルチカは陽波に戻ると、アストへ笑みを浮かべた。

「帰ろ?」
「だ、大丈夫? 陽波……」
「うん。すっきりした。今日ばっかりは魔法少女で良かったと思ったね」

 晴れ晴れした笑みだった。






 帰宅し、陽波が夕飯をあまり食べられなかったと言うので、アストが簡単に素うどんを作った。陽波は嬉しそうにうどんを啜る。

「あー、めちゃめちゃ美味しい! もう世界一美味しい!」
「ありがとう……。いつもと同じ味だけど」

 アストは合コンの詳細を聞いて良いのか悩んでいた。陽波があれだけ叫んでいれば何があったかは大体分かるものの、気になるものは気になる。すると、陽波自ら言い出した。

「あのさあ、合コン、本当最悪だったのね」
「そうなんだ」
「織部、あ、同僚ね、あいつ何考えてるんだか……はあ」
「そっか」

 アストはただ頷いた。陽波はうどんのつゆを見つめている。

「この生活が良すぎたのかなあ……」
「え? この生活って」
「んー、結局、何話しててもつまんなかったんだよね。アストとご飯食べてる方がよっぽど楽しくてさ。早く帰りたいなーってそればっかり考えてた」

 アストがどう答えようか迷っているうちに、陽波が続けた。

「私、このままで十分満足してたのかもなって。でもアストは早く故郷に帰りたいわけだし、私もいずれは普通の生活を取り戻すわけだし、永遠に続くわけないんだよね。そう考えたらちょっと寂しいかも」

 と陽波はまたうどんを啜り、食べ終えた。アストは何も言えない。

「ごちそうさま。美味しかったよ。あー、今言ったことはあんまり気にしないでね。ちょっとだけお酒飲んだから変なこと言ったかもしれない」
「ううん。ひ、陽波」
「なーに? 食器は片付けるよ」

 アストは少し口ごもりながら言った。

「俺も、今の生活、すごく楽しいよ。多分、生きてて一番ってくらいに」
「あはは、多分なんだ」
「ん。だからかも、だから、陽波に彼氏が出来たら嫌って思ったのかも、しれない。陽波に彼氏が出来たら、今の生活、全部変わっちゃうから」

 陽波は「そっかあ、うんうん」と大袈裟に首を振って頷いている。

「俺、昨日、何で反対したのか自分でもよく分かってなかったんだけど……きっとそういうことだと思う。俺も、ずっとこのまま暮らしたいなって思ってたんだ」
「無理だけどねぇ」
「……難しいね」

 陽波は器を持って流し台に置いた。洗っている間、アストはその背を見つめる。このまま、を続ける方法は無いだろうか。考えてみて、その考えを追い払う。陽波には陽波の、普通の地球人としての人生がある。そこに、アストが入ることは出来ない。

 陽波はどんな風に生きていくだろうか。アストと今こうして暮らしているように、誰かと一緒に暮らしていくのだろうか。

「何で駄目なんだろ……」

 ぼんやり呟いた言葉は、水の音にかき消された。
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