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日常編
12 夢じゃなかった
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朝起こされて、陽波はぼーっとしていた。そんな脳内に巡ったのは昨夜の出来事だ。陽波は寝ぼけ半分のままに鞄を漁った。財布を出して、中から名刺を見つける。
「夢じゃなかった……」
裏には黒須部長の電話番号が書かれている。それをひたすら見つめた。
「陽波、朝ごはん出来たよ。ん、何それ?」
アストはてきぱきと皿を並べていく。陽波は味噌の匂いに気を取られながら答えた。
「貰った」
「貰った?」
「会社の上司に貰った」
「ふーん? ほら、今は朝ごはん食べて」
陽波は名刺をしっかり片付けると、箸を掴んだ。今日の朝食も美味しそうである。
「ウインナーだー」
「陽波、肉が食べたいって言ってたでしょ」
「そうだっけ?」
「忘れてるし……。朝も肉が食べたいなーって言ってた癖に」
忘れた。陽波はのろのろと箸と口とを動かす。脳内では昨夜の黒須とのやり取りが繰り返し再生されていた。
「あー……」
「どうしたの陽波。味噌汁、味薄かった?」
「いやー……何でもない」
昨日の頭痛は既に消えている。会社に行って、黒須の顔を見たら気まずくなりそうだと陽波は思った。
**
「陽波、大丈夫?」
「え、はい」
「何ボケっとしてんの。これ、出したの陽波でしょ? 紙のサイズ間違ってるよ」
「マジ?」
織部が印刷物を陽波の目の前に突き出す。見ると、A4のコピー用紙に収まりきらないくらいに大きな字が印刷されていた。
「うわ、何これ」
「あんたがやったんだろ~。今日やけにボケてるね。手伝おっか?」
「頼む……。何やっても全然身が入らん」
「珍しい。いつも仕事だけはバリバリやってるのにね。もしかして~、恋でもした?」
「んなわけない……」
言いつつ体は動揺していた。腕を動かした拍子にペン立てを倒してしまう。中身が全て床に散らばり、陽波は呆然とした。織部はすぐに膝を折って拾い始めるも、呆けている陽波を見て怪訝な顔をした。
「あーあー、何やってんだよ~……陽波、本当に大丈夫? 風邪引いたとかじゃないよね?」
「違うし。ただ、何というか、そう……そういう時期? みたいな?」
「どういう時期?」
陽波もボールペンやら定規やらを拾う。すると、
「はい。これも」
「あ、ありが……部長?!」
「部長です」
黒須は楽しそうに微笑んで、赤いペンを差し出している。陽波は思わず手を引いた。黒須は表情を硬くする。
「僕が触ったら良くなかったかな?」
「違います、手が勝手に動いただけです。時々言うこと聞かないんですよね~右手」
陽波は礼を言いながらぎこちなくペンを受け取ると、ペン立てに差した。意識しすぎだ。自分でも不自然なのが分かる。
「平牧さん」
「はいっ!」
「……元気な返事だけれど、どう見ても具合が悪そうだね。早退する?」
黒須は困った顔をしている。陽波は何故か分からず、首を横に振った。
「いえいえ、大丈夫ですよぉ」
「ああ部長、この子は私がどうにかしとくんで、仕事の方お願いします」
「じゃあ織部さん、後はお願いします」
「はい」
黒須は自分の机に戻っていった。早速織部は陽波の肩を叩く。
「よし。じゃあ帰ろうか陽波」
「え、何で? 早退しないよ」
「あんたねえ。机見なさいよ机」
陽波は言われた通り机の上を見た。いつもより少し散らかっている。しかし妙だ。赤いペンが転がっている。ペン立てはどこに行ったのか。と、織部を見ると、織部の手の中にあった。
「あれえ? ペン立てが移動している」
「何も無いところにペンを立ててるから頭おかしくなったのかと思ったわ。部長もドン引きしてたし」
「ええ?」
「さー、帰ろ帰ろ」
織部に背を押され、陽波は強制的に早退させられてしまったのだった。
「夢じゃなかった……」
裏には黒須部長の電話番号が書かれている。それをひたすら見つめた。
「陽波、朝ごはん出来たよ。ん、何それ?」
アストはてきぱきと皿を並べていく。陽波は味噌の匂いに気を取られながら答えた。
「貰った」
「貰った?」
「会社の上司に貰った」
「ふーん? ほら、今は朝ごはん食べて」
陽波は名刺をしっかり片付けると、箸を掴んだ。今日の朝食も美味しそうである。
「ウインナーだー」
「陽波、肉が食べたいって言ってたでしょ」
「そうだっけ?」
「忘れてるし……。朝も肉が食べたいなーって言ってた癖に」
忘れた。陽波はのろのろと箸と口とを動かす。脳内では昨夜の黒須とのやり取りが繰り返し再生されていた。
「あー……」
「どうしたの陽波。味噌汁、味薄かった?」
「いやー……何でもない」
昨日の頭痛は既に消えている。会社に行って、黒須の顔を見たら気まずくなりそうだと陽波は思った。
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「陽波、大丈夫?」
「え、はい」
「何ボケっとしてんの。これ、出したの陽波でしょ? 紙のサイズ間違ってるよ」
「マジ?」
織部が印刷物を陽波の目の前に突き出す。見ると、A4のコピー用紙に収まりきらないくらいに大きな字が印刷されていた。
「うわ、何これ」
「あんたがやったんだろ~。今日やけにボケてるね。手伝おっか?」
「頼む……。何やっても全然身が入らん」
「珍しい。いつも仕事だけはバリバリやってるのにね。もしかして~、恋でもした?」
「んなわけない……」
言いつつ体は動揺していた。腕を動かした拍子にペン立てを倒してしまう。中身が全て床に散らばり、陽波は呆然とした。織部はすぐに膝を折って拾い始めるも、呆けている陽波を見て怪訝な顔をした。
「あーあー、何やってんだよ~……陽波、本当に大丈夫? 風邪引いたとかじゃないよね?」
「違うし。ただ、何というか、そう……そういう時期? みたいな?」
「どういう時期?」
陽波もボールペンやら定規やらを拾う。すると、
「はい。これも」
「あ、ありが……部長?!」
「部長です」
黒須は楽しそうに微笑んで、赤いペンを差し出している。陽波は思わず手を引いた。黒須は表情を硬くする。
「僕が触ったら良くなかったかな?」
「違います、手が勝手に動いただけです。時々言うこと聞かないんですよね~右手」
陽波は礼を言いながらぎこちなくペンを受け取ると、ペン立てに差した。意識しすぎだ。自分でも不自然なのが分かる。
「平牧さん」
「はいっ!」
「……元気な返事だけれど、どう見ても具合が悪そうだね。早退する?」
黒須は困った顔をしている。陽波は何故か分からず、首を横に振った。
「いえいえ、大丈夫ですよぉ」
「ああ部長、この子は私がどうにかしとくんで、仕事の方お願いします」
「じゃあ織部さん、後はお願いします」
「はい」
黒須は自分の机に戻っていった。早速織部は陽波の肩を叩く。
「よし。じゃあ帰ろうか陽波」
「え、何で? 早退しないよ」
「あんたねえ。机見なさいよ机」
陽波は言われた通り机の上を見た。いつもより少し散らかっている。しかし妙だ。赤いペンが転がっている。ペン立てはどこに行ったのか。と、織部を見ると、織部の手の中にあった。
「あれえ? ペン立てが移動している」
「何も無いところにペンを立ててるから頭おかしくなったのかと思ったわ。部長もドン引きしてたし」
「ええ?」
「さー、帰ろ帰ろ」
織部に背を押され、陽波は強制的に早退させられてしまったのだった。
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