アラサー魔法少女ミラクル☆ルチカ!!~マスコットキャラの愛が重くて面倒臭いと思っているけど本人には内緒だよ~

空木切

文字の大きさ
23 / 48
日常編

12-2

しおりを挟む
「ただいま~」

 帰宅するなり一応挨拶をする。アストは恐らく外に出ているだろう、と思いきや。

「え、おかえり。どうしたの?」
「アストいるじゃん」
「いるけど……」
「魔法少女を探しに行ってるかと思った」
「きょ、今日はまだ行ってない。それより、随分帰って来るの早いね」

 アストは掃除をしていたらしい。雑巾を窓に押しつけている。陽波はスーツのジャケットを脱いだ。

「早退した。私、おかしいんだって」
「え? どういうこと?」
「どこも痛くないんだけど、ぼーっとしてて、何も無いところにペンを立てたりとか、変なの」
「そうなんだ……? 熱測ってみる?」
「んー」

 陽波は返事をしながらジャケットをハンガーにかけた。つもりがバサッと床に落ちる。

「おやあ?」
「あー、本当におかしいね」
「本当に何ともないんだけど。これも、ほら、今、ここの、ねえ?」
「うん。陽波、言ってることもちょっとよく分かんないし、着替えて横になりなよ」

 少し手間取りながらも着替えて、陽波はベッドに横になった。ついでに熱を測る。微熱だった。

「ほらね。熱も無い」
「何だろ、知恵熱とか?」
「分かんない。でも知恵熱って赤ちゃんだけじゃないの?」
「陽波、急に頭働かせたりしたんじゃない? とにかく、ゆっくり休みなよ。俺はー……どうしたらいいんだ? 一人の方が休める? それともいた方がいい?」
「アストの好きにしてくれていいよ。私は寝る」

 陽波は眠くもないのに目を閉じた。アストが動き回る気配を感じる。何かしたくとも、陽波が寝ているので何も出来ない、ということだろうか。

「……アスト。私は一人でいいから、魔法少女探しに行ってくれていいよ。どっちにしても寝てるだけだし、アストも気を遣うでしょ」
「うん。そうだね、うん。じゃあ出てくる。早めに帰るよ」
「行ってらっしゃーい。気を付けてね」

 陽波は横になったままで手を振った。

 アストが出て行ったので、陽波は改めて目を閉じた。眠れない。何度も寝返りを打って、羊を数えてみたりした。眠れない。

「んーと、あった」

 陽波は身を起こすと、鞄から財布を出して、名刺を取り出した。黒須に貰った名刺である。寝転がったまま表と裏とを交互に眺めた。

「……何がそんなに嬉しいんだ私は」

 嬉しいには嬉しい。安心感もある。いざとなったらここに連絡しようという気持ちがあるだけで全然違う。しかし。

「これの所為で私はおかしくなったのでは」

 そうなると逆効果である。ただ一枚の小さな紙きれで、こうまで心動かされるとは思ってもみなかった。

 社名やら名前やらを意味もなく眺めているうちに、陽波は眠りに落ちていた。


**


 日が暮れる前にアストは帰宅した。相変わらず収穫は無しだ。

「ただいま」

 物音を立てないように静かに家に入った。陽波はベッドの上で眠っている。

「寝相悪っ」

 蹴り飛ばしている布団を直した。枕もずれているが、頭を持ち上げたりしたらさすがに起きてしまうだろう。

「何だこれ。名刺? 仕事で使うやつじゃないの? 陽波こういうところが雑……」

 陽波はミラクルスティックも床に放置しているのである。寝顔の横に名刺が落ちていても不思議ではない。アストは名刺が汚れる前にと取り上げた。

 知らない名前が書いてある。アストは今朝のことを思い出していた。上司から貰ったと言ってずっと眺めていた名刺、それかもしれない。何が面白いのかと裏返して、並んだ数字に心臓が跳ねた。

「電話番号? ナンパ的な? え? 陽波これ、って寝てるんだった……」

 今朝眺めていたのは、電話をかけるべきか悩んでいたからだろうか。陽波が例え何をしようと、アストには関係がない。魔法少女以外のことで、アストが首を突っ込むわけにはいかない。

 しかし。もし陽波がこれの所為で困っているのなら、どうするべきだろう。アストは考えた。
 失くしたことにすれば、陽波は安堵するかもしれない。『電話かけなくて済んだー良かったー』と言うかもしれない。

 アストは散々悩んだ挙句、名刺を自分のポケットに入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

【完結】ヤンデレ乙女ゲームの転生ヒロインは、囮を差し出して攻略対象を回避する。はずが、隣国の王子様にばれてしまいました(詰み)

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
 ヤンデレだらけの乙女ゲームに転生してしまったヒロイン、アシュリー。周りには、攻略対象のヤンデレ達が勢ぞろい。  しかし、彼女は、実現したい夢のために、何としても攻略対象を回避したいのだ。  そこで彼女は、ヤンデレ攻略対象を回避する妙案を思いつく。  それは、「ヒロイン養成講座」で攻略対象好みの囮(私のコピー)を養成して、ヤンデレたちに差し出すこと。(もちろん希望者)  しかし、そこへ隣国からきた第五王子様にこの活動がばれてしまった!!  王子は、黙っている代償に、アシュリーに恋人契約を要求してきて!?  全14話です+番外編4話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...