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日常編
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「ただいま~」
帰宅するなり一応挨拶をする。アストは恐らく外に出ているだろう、と思いきや。
「え、おかえり。どうしたの?」
「アストいるじゃん」
「いるけど……」
「魔法少女を探しに行ってるかと思った」
「きょ、今日はまだ行ってない。それより、随分帰って来るの早いね」
アストは掃除をしていたらしい。雑巾を窓に押しつけている。陽波はスーツのジャケットを脱いだ。
「早退した。私、おかしいんだって」
「え? どういうこと?」
「どこも痛くないんだけど、ぼーっとしてて、何も無いところにペンを立てたりとか、変なの」
「そうなんだ……? 熱測ってみる?」
「んー」
陽波は返事をしながらジャケットをハンガーにかけた。つもりがバサッと床に落ちる。
「おやあ?」
「あー、本当におかしいね」
「本当に何ともないんだけど。これも、ほら、今、ここの、ねえ?」
「うん。陽波、言ってることもちょっとよく分かんないし、着替えて横になりなよ」
少し手間取りながらも着替えて、陽波はベッドに横になった。ついでに熱を測る。微熱だった。
「ほらね。熱も無い」
「何だろ、知恵熱とか?」
「分かんない。でも知恵熱って赤ちゃんだけじゃないの?」
「陽波、急に頭働かせたりしたんじゃない? とにかく、ゆっくり休みなよ。俺はー……どうしたらいいんだ? 一人の方が休める? それともいた方がいい?」
「アストの好きにしてくれていいよ。私は寝る」
陽波は眠くもないのに目を閉じた。アストが動き回る気配を感じる。何かしたくとも、陽波が寝ているので何も出来ない、ということだろうか。
「……アスト。私は一人でいいから、魔法少女探しに行ってくれていいよ。どっちにしても寝てるだけだし、アストも気を遣うでしょ」
「うん。そうだね、うん。じゃあ出てくる。早めに帰るよ」
「行ってらっしゃーい。気を付けてね」
陽波は横になったままで手を振った。
アストが出て行ったので、陽波は改めて目を閉じた。眠れない。何度も寝返りを打って、羊を数えてみたりした。眠れない。
「んーと、あった」
陽波は身を起こすと、鞄から財布を出して、名刺を取り出した。黒須に貰った名刺である。寝転がったまま表と裏とを交互に眺めた。
「……何がそんなに嬉しいんだ私は」
嬉しいには嬉しい。安心感もある。いざとなったらここに連絡しようという気持ちがあるだけで全然違う。しかし。
「これの所為で私はおかしくなったのでは」
そうなると逆効果である。ただ一枚の小さな紙きれで、こうまで心動かされるとは思ってもみなかった。
社名やら名前やらを意味もなく眺めているうちに、陽波は眠りに落ちていた。
**
日が暮れる前にアストは帰宅した。相変わらず収穫は無しだ。
「ただいま」
物音を立てないように静かに家に入った。陽波はベッドの上で眠っている。
「寝相悪っ」
蹴り飛ばしている布団を直した。枕もずれているが、頭を持ち上げたりしたらさすがに起きてしまうだろう。
「何だこれ。名刺? 仕事で使うやつじゃないの? 陽波こういうところが雑……」
陽波はミラクルスティックも床に放置しているのである。寝顔の横に名刺が落ちていても不思議ではない。アストは名刺が汚れる前にと取り上げた。
知らない名前が書いてある。アストは今朝のことを思い出していた。上司から貰ったと言ってずっと眺めていた名刺、それかもしれない。何が面白いのかと裏返して、並んだ数字に心臓が跳ねた。
「電話番号? ナンパ的な? え? 陽波これ、って寝てるんだった……」
今朝眺めていたのは、電話をかけるべきか悩んでいたからだろうか。陽波が例え何をしようと、アストには関係がない。魔法少女以外のことで、アストが首を突っ込むわけにはいかない。
しかし。もし陽波がこれの所為で困っているのなら、どうするべきだろう。アストは考えた。
失くしたことにすれば、陽波は安堵するかもしれない。『電話かけなくて済んだー良かったー』と言うかもしれない。
アストは散々悩んだ挙句、名刺を自分のポケットに入れた。
帰宅するなり一応挨拶をする。アストは恐らく外に出ているだろう、と思いきや。
「え、おかえり。どうしたの?」
「アストいるじゃん」
「いるけど……」
「魔法少女を探しに行ってるかと思った」
「きょ、今日はまだ行ってない。それより、随分帰って来るの早いね」
アストは掃除をしていたらしい。雑巾を窓に押しつけている。陽波はスーツのジャケットを脱いだ。
「早退した。私、おかしいんだって」
「え? どういうこと?」
「どこも痛くないんだけど、ぼーっとしてて、何も無いところにペンを立てたりとか、変なの」
「そうなんだ……? 熱測ってみる?」
「んー」
陽波は返事をしながらジャケットをハンガーにかけた。つもりがバサッと床に落ちる。
「おやあ?」
「あー、本当におかしいね」
「本当に何ともないんだけど。これも、ほら、今、ここの、ねえ?」
「うん。陽波、言ってることもちょっとよく分かんないし、着替えて横になりなよ」
少し手間取りながらも着替えて、陽波はベッドに横になった。ついでに熱を測る。微熱だった。
「ほらね。熱も無い」
「何だろ、知恵熱とか?」
「分かんない。でも知恵熱って赤ちゃんだけじゃないの?」
「陽波、急に頭働かせたりしたんじゃない? とにかく、ゆっくり休みなよ。俺はー……どうしたらいいんだ? 一人の方が休める? それともいた方がいい?」
「アストの好きにしてくれていいよ。私は寝る」
陽波は眠くもないのに目を閉じた。アストが動き回る気配を感じる。何かしたくとも、陽波が寝ているので何も出来ない、ということだろうか。
「……アスト。私は一人でいいから、魔法少女探しに行ってくれていいよ。どっちにしても寝てるだけだし、アストも気を遣うでしょ」
「うん。そうだね、うん。じゃあ出てくる。早めに帰るよ」
「行ってらっしゃーい。気を付けてね」
陽波は横になったままで手を振った。
アストが出て行ったので、陽波は改めて目を閉じた。眠れない。何度も寝返りを打って、羊を数えてみたりした。眠れない。
「んーと、あった」
陽波は身を起こすと、鞄から財布を出して、名刺を取り出した。黒須に貰った名刺である。寝転がったまま表と裏とを交互に眺めた。
「……何がそんなに嬉しいんだ私は」
嬉しいには嬉しい。安心感もある。いざとなったらここに連絡しようという気持ちがあるだけで全然違う。しかし。
「これの所為で私はおかしくなったのでは」
そうなると逆効果である。ただ一枚の小さな紙きれで、こうまで心動かされるとは思ってもみなかった。
社名やら名前やらを意味もなく眺めているうちに、陽波は眠りに落ちていた。
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日が暮れる前にアストは帰宅した。相変わらず収穫は無しだ。
「ただいま」
物音を立てないように静かに家に入った。陽波はベッドの上で眠っている。
「寝相悪っ」
蹴り飛ばしている布団を直した。枕もずれているが、頭を持ち上げたりしたらさすがに起きてしまうだろう。
「何だこれ。名刺? 仕事で使うやつじゃないの? 陽波こういうところが雑……」
陽波はミラクルスティックも床に放置しているのである。寝顔の横に名刺が落ちていても不思議ではない。アストは名刺が汚れる前にと取り上げた。
知らない名前が書いてある。アストは今朝のことを思い出していた。上司から貰ったと言ってずっと眺めていた名刺、それかもしれない。何が面白いのかと裏返して、並んだ数字に心臓が跳ねた。
「電話番号? ナンパ的な? え? 陽波これ、って寝てるんだった……」
今朝眺めていたのは、電話をかけるべきか悩んでいたからだろうか。陽波が例え何をしようと、アストには関係がない。魔法少女以外のことで、アストが首を突っ込むわけにはいかない。
しかし。もし陽波がこれの所為で困っているのなら、どうするべきだろう。アストは考えた。
失くしたことにすれば、陽波は安堵するかもしれない。『電話かけなくて済んだー良かったー』と言うかもしれない。
アストは散々悩んだ挙句、名刺を自分のポケットに入れた。
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