アラサー魔法少女ミラクル☆ルチカ!!~マスコットキャラの愛が重くて面倒臭いと思っているけど本人には内緒だよ~

空木切

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激情編

18 手、繋いで

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 朝の日差しに包まれる中、陽波は眠気眼で朝食を食べていた。

「ねむ」
「陽波、手が止まってる! 今日起きるの遅かったんだから時間無いんだってば!」
「だってー……眠いし寒いしもう嫌だぁ~」

 陽波は食事中だというのに箸を置いて丸くなってしまった。アストは陽波の体を揺さぶる。

「ちょっと! 嫌だじゃないし! 遅刻しちゃうよ!」
「う~。辛い。眠い。寒い」
「ほら、味噌汁飲んで。あったまるよ~」
「飲む」

 陽波は味噌汁に口を付けるとほっと息を吐いた。

「うま~い。アスト、良いお嫁さんになるね」
「そ、そう? て違う! 寝ないで! 本当に遅刻するって!」

 アストは躍起になりつつ何とか陽波に食事をさせた。そして五分後。完全覚醒した陽波はパニックになって鏡と向き合っていた。喚きながら慌ただしく手を動かしている。

「やばいやばいやばい、化粧する時間がああ!」
「だから言ったよ俺!」
「うっさい! 今言われても知らん!」
「酷い!」
「くっそぉ! 出来る、私なら出来る!」

 陽波は自己暗示をかけて素早く身支度を済ませると嵐のように外へ出て行った。
 残されたアストは陽波が散らかした物を片付けていく。ベッドからずり落ちた布団、蓋が開けっ放しの化粧水、床に脱ぎ捨ててある寝巻など。

「冬の陽波は寝起きが悪すぎる……」

 さすがにアストも憂鬱になっていた。しかし。

「まあ、でも可愛いんだけどね」

 アストの顔がにやける。陽波の世話を焼けるのは朝のこの時間だけだ。そう思うと遅刻しかけて怒鳴られても全く苦にもならなかった。惚れた弱みというやつだろうか。
 夕飯のメニューを考えながら、陽波の帰りを楽しみに待った。



**



 副業の時間である。陽波は煌々と光る鞄を見つめて顔をしかめた。

「うえ~ん。この寒いのに……」

 泣き言を言っても始まらない。陽波は鞄を抱きかかえ人目を避けながら走った。

「ミラクル☆チェンジ!」

 スティックを手にお馴染みの台詞を叫ぶ。かれこれ一年以上繰り返して来た変身バンクを終え、気温が一桁のこの時期にミニスカートの衣装で登場した。

「ふっ。寒くない。変身してしまえばそんなに寒くない」

 ミラクルなパワーに包まれているのか、足が出ている割には寒くない。心は寒いが。

「何が悲しくて年末に一人コスプレ大会してんだろうね私は……」

 思わず我に返ってしまう。冬は、寂しさを感じがちだ。そして何かと冷静になって将来を不安視しがち。年も終わるので余計に。

「よぉルチカ。相変わらず寒そうな恰好してんなァ」
「あああ出たわね毛皮!」
「ゲェ。最悪の呼び方だなソレ」

 ティグロは嫌そうな顔をしている。銀の耳と尻尾のふさふさっぷりを見ていると、高く売れそうだなあとルチカは思った。毛並みも悪くはない。

 ルチカの妙な視線を感じたのかティグロは両手でさっと獣耳を隠した。

「……変な目で見るな」
「み、見てない見てない。高く売れそうとか思ってない!」
「地球の奴らは野蛮だからキライなんだ。おら、さっさとやれ~」
「あんたが野蛮とか言う!? うわっ!」

 怪物の拳をさっと避けた。避けるくらいなら慣れたものである。

「アストが来る前にさっさと終わらせて、そしてさっさと終わらせて帰る!」
「あァー。あのクソ兎、元気してるか? ハハハ」
「何笑ってんのよ気色悪い」
「別にィ?」

 ルチカは拳を振り上げ足を踏ん張り、コスプレ大会も真っ青な活躍ぶりを見せた。だが今日の怪物はやたらにしぶとい。苦戦していると、小さな黒兎が飛んできた。

「ルチカ、お待たせ! ええと? 今はどういう感じ?」
「おお、今、ちょうど疲れてたところ」

 ルチカはぜえぜえと肩で息をしながらアストを出迎えた。

「色々やったんだけど、びくともしなくて、何か案ある? はあ~、しんど」
「背中とかどう?」
「あ、なるほど。逆転の発想ね!」
「逆転かなあ……? 俺も手伝うよ。そしたら早く帰ろう!」
「お、やる気あるね~! 頑張ろ!」

 軽く打ち合わせをしてから、ルチカは再び怪物の前に立った。高く飛び上がり、怪物の頭部に向けてスティックを構えた。怪物は防御の姿勢を取る。

「かかったわね!」

 アストがルチカの足元にバリアを展開する。ルチカはそのバリアを足場にしてもう一度飛び上がると怪物の背中側に回った。

「ミラクル~キック!!」

 某マスクなライダーのごとくの飛び蹴りをお見舞いした。怪物は体勢を崩す。

「ルチカ!」

 アストがすぐにルチカの頭に乗る。ルチカはスティックを構え、地面に着地したのと同時に必殺技を発動させた。

「スパークルクラッシュ!!」

 眩い光のシャワーを食らい、怪物は呻き声を上げながら消滅した。

 ルチカとアストはハイタッチをしてお互いの健闘を称え合う。

「今日は良いコンビだったねアスト!」
「役に立てたなら良かったよ」

 微笑ましい空気が流れる中、訝しんでいるのはティグロだ。

「ン~? ンン~? 何だァあの兎。急にやる気出してやがる」
「俺だってやる時はやる!」
「おお~! アストえら~い!」

 小さな兎は胸を張って、ルチカがパチパチと拍手をした。ティグロは半目で二人を見ている。

「茶番だな。ハァ。帰る」
「も、もう来るなよ!」
「あ?」
「……い、その、何でもないです」

 珍しく強気になったアストも、ティグロに睨まれた途端に萎んでしまった。やはり怖いらしい。そうして怯えている間にティグロは姿を消していた。

「終わった終わったー。帰ろっか」

 ルチカは変身を解いて肩を回した。残業を終えた後のような清々しくも虚しい気持ちである。
 アストは元気よく頷いた。

「うん! 帰ろう!」
「じゃあ、アストは鞄の中ね」
「え。ええと、今日は歩いて帰るんじゃ駄目?」
「どうした急に」

 陽波はアストをまじまじと見た。いつもであれば『分かった』と素直に鞄に収まるというのに。アストは兎姿のままで身をそわつかせた。

「たまにはいいかなーと思ったんだけど……」
「でも電車賃かかるし。あ、もしかして鞄が臭かったりした?」
「ち、違うよ。そうじゃなくて、寒いしさ、身を寄せ合って帰るのも悪くないんじゃない?」
「何故に身を寄せ合って帰る……?」

 陽波にはさっぱり意味が分からなかった。首を傾げに傾げて、

「まあいいや。私がアスト抱えて帰れば一緒でしょ? ほらおいで~」
「違うんだよ~。そうじゃなくて」
「何」
「手、繋いで帰ろ?」
「え? 何で? 気持ち悪っ。本当にどうした? 風邪引いた?」
「酷い!」

 結局アストは兎のまま、陽波に撫でられながら帰宅した。陽波はアストの言動を変に思ったものの、恐らくはテレビ番組か映画の影響だろうなあと大して深く考えずに終わったのだった。
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