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激情編
20 甘えて
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休日だ。特に予定もない。陽波はスマホを手にアストに問いかけた。
「アスト、今日は魔法少女探し行く?」
「陽波がいるから行かない」
「じゃあ一緒に何か見ようよ」
「何見るの?」
陽波は配信サイトで映画の一覧を眺めた。タイトルと宣材の画像だけではどれが面白いかもさっぱり分からない。ふと、可愛らしい犬の笑顔(?)の写真に惹かれた。タイトルは“タローの物語”である。
「犬が可愛いからこれにしよう」
「犬の映画?」
「兎の映画はちょっと見つからないから犬でもいい?」
「そこは別にどっちでもいいよ……」
陽波は再生ボタンを押すと、アストにくっついて座った。スマホの画面は小さいので身を寄せ合わないと見にくいのだが、アストが急にびくついて離れた。陽波は目を丸くする。
「え? 何?」
「ち、近くない?」
アストは引き気味だ。陽波は訝しんだ。
「今更?」
「いつもこんなに近かったっけ?」
「そうしないと見えないじゃん。嫌ならやめるけど」
「大丈夫大丈夫、大丈夫、大丈夫だから見よう」
「そんなに何度も言わなくても」
大丈夫なら大丈夫だろう。陽波は映画を再生し直した。アストは近付いて来たものの、やはり微妙に離れている。陽波ははっとした。アストのこの感じ、もしや、
「思春期……?」
「何か言った?」
「何でもない」
陽波は気を取り直して映画に集中した。画面の中では、タローという名の犬が飼い主と一緒に元気よく走り回っている。
「可愛い~。私、犬飼いたかったんだよね昔」
「ふーん」
「大人になったら絶対に飼うって決めてたのにすっかり忘れてたな」
タローが飼い主一家にとても可愛がられている様子が描写されている。陽波は頬が緩んだ。
そして一時間後。スマホを持つ陽波の手が震えている。アストは隣を見てぎょっとした。
「陽波、大丈夫!?」
「もう何も見えない……」
「い、一回止めよう? ね?」
アストは陽波からスマホを取り上げた。途端に陽波は顔を覆って泣き出してしまった。
「うぅ~」
「ほら、ティッシュ」
「ごめん」
陽波はティッシュで鼻を噛んで、流れる涙を拭いた。それでもまだ止め処なく流れてくる。泣きながら叫んだ。
「タロ~! なんで~!」
「病気なんだから仕方ないよ……」
タローは病気で動けなくなってしまったのだった。その後も家族に支えられながら生活を続けていたものの、いよいよご飯も食べられなくなった。
飼い主の女の子がタローに必死になって声をかけているところで、陽波は耐えられなくなってしまったのである。
「ねえタロー死なないよね?」
「それは、分かんないけど」
「何でタローが死ななきゃなんないの!」
「陽波、落ち着いて」
アストは陽波の背を擦った。ひたすら泣きじゃくっている。
「つらいよぉ」
陽波がこんなに悲しんでいるのはアストも初めて見た。慌ててしまう。
「陽波、楽しいこと考えよう! ね!」
「むり……」
「ええと、じゃあ、俺が面白いことを、何か無いかな、何か」
おろおろしていると、陽波が小さく呟いた。
「アスト」
「はい」
「兎」
「ええ~……。分かった」
アストは渋々兎の姿になった。陽波はそのぬいぐるみのような兎をぎゅっと抱きしめ、顔を埋める。
「ちょ、ちょっと苦しいです陽波さん」
「う~」
「聞いていない」
アストは震える陽波の体を感じながら、何故か幼い頃の彼女の姿を思い描いていた。辛いことがあって、ぬいぐるみを抱きしめながら泣く姿だ。誰か慰めてはくれなかったのだろうか。
「陽波、一回、離してくれる?」
「なんで」
「いいから」
腕の力が緩んだのでアストは脱出して、また人の体に戻った。俯いて拳を握りしめる陽波をそっと抱きしめる。
「こっちの方が正解だと思った」
陽波はアストの背に手を回してぎゅうぎゅう締めながら「う~!」と唸った。ただ抱きしめる対象が大きくなっただけでさっきとあまり変わっていない気がする。アストは苦笑するしかない。
「うん、何でもいいんだね陽波はね」
「あー!」
「ごめんごめん、よしよし」
そうして泣きわめく陽波を落ち着くまで慰めた。
「アスト、今日は魔法少女探し行く?」
「陽波がいるから行かない」
「じゃあ一緒に何か見ようよ」
「何見るの?」
陽波は配信サイトで映画の一覧を眺めた。タイトルと宣材の画像だけではどれが面白いかもさっぱり分からない。ふと、可愛らしい犬の笑顔(?)の写真に惹かれた。タイトルは“タローの物語”である。
「犬が可愛いからこれにしよう」
「犬の映画?」
「兎の映画はちょっと見つからないから犬でもいい?」
「そこは別にどっちでもいいよ……」
陽波は再生ボタンを押すと、アストにくっついて座った。スマホの画面は小さいので身を寄せ合わないと見にくいのだが、アストが急にびくついて離れた。陽波は目を丸くする。
「え? 何?」
「ち、近くない?」
アストは引き気味だ。陽波は訝しんだ。
「今更?」
「いつもこんなに近かったっけ?」
「そうしないと見えないじゃん。嫌ならやめるけど」
「大丈夫大丈夫、大丈夫、大丈夫だから見よう」
「そんなに何度も言わなくても」
大丈夫なら大丈夫だろう。陽波は映画を再生し直した。アストは近付いて来たものの、やはり微妙に離れている。陽波ははっとした。アストのこの感じ、もしや、
「思春期……?」
「何か言った?」
「何でもない」
陽波は気を取り直して映画に集中した。画面の中では、タローという名の犬が飼い主と一緒に元気よく走り回っている。
「可愛い~。私、犬飼いたかったんだよね昔」
「ふーん」
「大人になったら絶対に飼うって決めてたのにすっかり忘れてたな」
タローが飼い主一家にとても可愛がられている様子が描写されている。陽波は頬が緩んだ。
そして一時間後。スマホを持つ陽波の手が震えている。アストは隣を見てぎょっとした。
「陽波、大丈夫!?」
「もう何も見えない……」
「い、一回止めよう? ね?」
アストは陽波からスマホを取り上げた。途端に陽波は顔を覆って泣き出してしまった。
「うぅ~」
「ほら、ティッシュ」
「ごめん」
陽波はティッシュで鼻を噛んで、流れる涙を拭いた。それでもまだ止め処なく流れてくる。泣きながら叫んだ。
「タロ~! なんで~!」
「病気なんだから仕方ないよ……」
タローは病気で動けなくなってしまったのだった。その後も家族に支えられながら生活を続けていたものの、いよいよご飯も食べられなくなった。
飼い主の女の子がタローに必死になって声をかけているところで、陽波は耐えられなくなってしまったのである。
「ねえタロー死なないよね?」
「それは、分かんないけど」
「何でタローが死ななきゃなんないの!」
「陽波、落ち着いて」
アストは陽波の背を擦った。ひたすら泣きじゃくっている。
「つらいよぉ」
陽波がこんなに悲しんでいるのはアストも初めて見た。慌ててしまう。
「陽波、楽しいこと考えよう! ね!」
「むり……」
「ええと、じゃあ、俺が面白いことを、何か無いかな、何か」
おろおろしていると、陽波が小さく呟いた。
「アスト」
「はい」
「兎」
「ええ~……。分かった」
アストは渋々兎の姿になった。陽波はそのぬいぐるみのような兎をぎゅっと抱きしめ、顔を埋める。
「ちょ、ちょっと苦しいです陽波さん」
「う~」
「聞いていない」
アストは震える陽波の体を感じながら、何故か幼い頃の彼女の姿を思い描いていた。辛いことがあって、ぬいぐるみを抱きしめながら泣く姿だ。誰か慰めてはくれなかったのだろうか。
「陽波、一回、離してくれる?」
「なんで」
「いいから」
腕の力が緩んだのでアストは脱出して、また人の体に戻った。俯いて拳を握りしめる陽波をそっと抱きしめる。
「こっちの方が正解だと思った」
陽波はアストの背に手を回してぎゅうぎゅう締めながら「う~!」と唸った。ただ抱きしめる対象が大きくなっただけでさっきとあまり変わっていない気がする。アストは苦笑するしかない。
「うん、何でもいいんだね陽波はね」
「あー!」
「ごめんごめん、よしよし」
そうして泣きわめく陽波を落ち着くまで慰めた。
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