アラサー魔法少女ミラクル☆ルチカ!!~マスコットキャラの愛が重くて面倒臭いと思っているけど本人には内緒だよ~

空木切

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激情編

20-2

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 しばらくして、アストが淹れたお茶を飲みながら陽波は言った。

「私、思い出した。小さい時のこと」
「どんなこと?」
「親と映画館に行った時ね。犬の映画をやってたの。私はどうしても見たいって駄々こねて、親の反対を押し切って見ることにしたんだけど」

 犬がはぐれた飼い主を探しまわって、最後は出会えないままに死んでしまうという悲しい話だった。
 陽波は過去の自分を見つめるように目を細めた。

「あまりに可哀想な話で、小さい私は映画館で大泣きして暴れたの。親も大変だったんだろうね。それ以降一回も映画館連れてってくれなかったし」

 アストは想像してみた。怪物のように暴れる陽波の姿。何となく理解出来る。陽波ならやりかねないとすら思ってしまった。正義も悪も紙一重である。

 陽波はお茶を啜った。一息吐く。

「それで、私も何となく映画自体が苦手になってたわけ」
「苦手だったの? 全然そんな感じしなかったけど」

 アストからすると意外な話だった。これまでも何度か映画を一緒に見たが、とても苦手なようには見えなかったのだ。

 陽波は笑った。

「あはは。アストがいるうちに克服したかったのかも。何で苦手なのか分かんないの嫌だし。後は単に暇だったし」
「陽波そういうところが強いよね。でも余計に苦手になっちゃったかな」
「ううん、今はそこまででもない。鼻かみすぎて痛いのだけ最悪」

 陽波はわざとらしく鼻をすんすん鳴らして、スマホを手に取った。

「どうせだし、最後まで見る。アストも付き合え」
「無理しない方がいいよ」
「してない。もう平気」

 そう言って映画を再生するも、陽波は明らかに我慢をしていた。アストは代わりにスマホを持って、必死で堪える陽波と映画とを交互に見続けた。

 犬のタローは、飼い主たち家族に囲まれて生涯を終えた。幸せそうだが悲しい光景だ。さすがにアストも少し泣きそうになる。しかし陽波が嗚咽も堪えず号泣していたので涙も引っ込んでしまった。

 映画は終わり、陽波は新しいティッシュ箱を開封してまた鼻をかんでいた。

「うあ~、鼻が取れそう」
「取れないように気を付けてね」
「はあ。でも最後まで見れて良かった。ありがとう。アストのおかげ」

 陽波は鼻声で言って笑みを浮かべた。アストはそんな彼女を見て、嬉しさと悔しさとが混じった気持ちになる。
 陽波は強い。一人きりでも困難を乗り越えていけるのだとアストは理解してしまった。アストの存在は、陽波にとってあまり必要ではないかもしれない。

 焦りの所為か、アストは言った。

「陽波、もっと俺に甘えてよ」
「え? 十分甘えてるでしょ。朝も起こしてもらってるし、今も最後まで付き合ってもらったし」
「さっきも思ったけど陽波は一人で頑張りすぎ。折角俺がいるのに。辛いなら、途中でやめてもいいのに」

 陽波は泣きながらも人の手を借りようとしなかった。抱きしめる相手はぬいぐるみでも何でも良かったのだ。アストでなくとも。

 アストの複雑そうな表情を見て何を思ったのか、陽波はティッシュを捨てて眉をひそめた。

「アストには、私がやりたいことに付き合ってもらっただけでしょうに。何も私の私生活全部支えようとかしなくていいからね? そこまで求めてないし、背負う必要ないし」
「だって俺は……俺は、陽波のそばにいるからには」

 アストは魔法少女のサポート役でしかない。アストは他に理由を探そうとしたものの見つからず黙った。陽波は軽快に笑いながら手を振る。

「重い重い。そこまで考えなくていい。アストは自分がやるべきことをやってよ。そこが一番大事なんじゃないの? 私のことは二の次、三の次でいいんだって」
「俺、陽波のことが好きなんだよ。だから、支えたいんだ」
「うん。気持ちは嬉しいけどさ、私は大丈夫。そんなに色々背負ったらアストが潰れちゃうよ」

 それじゃ夕飯の支度しよう! と陽波は元気よく言って立ち上がった。先ほど悲しんでいたのが嘘のような切り替えの早さである。冷蔵庫を開け、賞味期限間近の物を出していく。途中でアストの方を振り返った。

「アストー、手伝ってくれないの? 豆腐とハムの期限が危ないんだけど、何作ればいいかなあ」
「……豆腐は明日の朝使う。ハムと、他に何がある?」

 アストも促されるままキッチンに立った。



 ――やっぱり俺じゃ、陽波のそばにはいられないんだろうな。

 とっくに分かっていることだった。だから出て行く覚悟もしたというのに、いつの間にやら忘れてしまった。

 日々を過ごせば過ごすほどに、陽波への想いは募るばかりだ。もっと近付きたくて、触れたくて、陽波の一番になりたくて仕方がない。

 たった一言、『ずっとそばにいて欲しい』と言われれば、故郷だって捨ててしまえるのに。
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