34 / 48
激情編
20-2
しおりを挟む
しばらくして、アストが淹れたお茶を飲みながら陽波は言った。
「私、思い出した。小さい時のこと」
「どんなこと?」
「親と映画館に行った時ね。犬の映画をやってたの。私はどうしても見たいって駄々こねて、親の反対を押し切って見ることにしたんだけど」
犬がはぐれた飼い主を探しまわって、最後は出会えないままに死んでしまうという悲しい話だった。
陽波は過去の自分を見つめるように目を細めた。
「あまりに可哀想な話で、小さい私は映画館で大泣きして暴れたの。親も大変だったんだろうね。それ以降一回も映画館連れてってくれなかったし」
アストは想像してみた。怪物のように暴れる陽波の姿。何となく理解出来る。陽波ならやりかねないとすら思ってしまった。正義も悪も紙一重である。
陽波はお茶を啜った。一息吐く。
「それで、私も何となく映画自体が苦手になってたわけ」
「苦手だったの? 全然そんな感じしなかったけど」
アストからすると意外な話だった。これまでも何度か映画を一緒に見たが、とても苦手なようには見えなかったのだ。
陽波は笑った。
「あはは。アストがいるうちに克服したかったのかも。何で苦手なのか分かんないの嫌だし。後は単に暇だったし」
「陽波そういうところが強いよね。でも余計に苦手になっちゃったかな」
「ううん、今はそこまででもない。鼻かみすぎて痛いのだけ最悪」
陽波はわざとらしく鼻をすんすん鳴らして、スマホを手に取った。
「どうせだし、最後まで見る。アストも付き合え」
「無理しない方がいいよ」
「してない。もう平気」
そう言って映画を再生するも、陽波は明らかに我慢をしていた。アストは代わりにスマホを持って、必死で堪える陽波と映画とを交互に見続けた。
犬のタローは、飼い主たち家族に囲まれて生涯を終えた。幸せそうだが悲しい光景だ。さすがにアストも少し泣きそうになる。しかし陽波が嗚咽も堪えず号泣していたので涙も引っ込んでしまった。
映画は終わり、陽波は新しいティッシュ箱を開封してまた鼻をかんでいた。
「うあ~、鼻が取れそう」
「取れないように気を付けてね」
「はあ。でも最後まで見れて良かった。ありがとう。アストのおかげ」
陽波は鼻声で言って笑みを浮かべた。アストはそんな彼女を見て、嬉しさと悔しさとが混じった気持ちになる。
陽波は強い。一人きりでも困難を乗り越えていけるのだとアストは理解してしまった。アストの存在は、陽波にとってあまり必要ではないかもしれない。
焦りの所為か、アストは言った。
「陽波、もっと俺に甘えてよ」
「え? 十分甘えてるでしょ。朝も起こしてもらってるし、今も最後まで付き合ってもらったし」
「さっきも思ったけど陽波は一人で頑張りすぎ。折角俺がいるのに。辛いなら、途中でやめてもいいのに」
陽波は泣きながらも人の手を借りようとしなかった。抱きしめる相手はぬいぐるみでも何でも良かったのだ。アストでなくとも。
アストの複雑そうな表情を見て何を思ったのか、陽波はティッシュを捨てて眉をひそめた。
「アストには、私がやりたいことに付き合ってもらっただけでしょうに。何も私の私生活全部支えようとかしなくていいからね? そこまで求めてないし、背負う必要ないし」
「だって俺は……俺は、陽波のそばにいるからには」
アストは魔法少女のサポート役でしかない。アストは他に理由を探そうとしたものの見つからず黙った。陽波は軽快に笑いながら手を振る。
「重い重い。そこまで考えなくていい。アストは自分がやるべきことをやってよ。そこが一番大事なんじゃないの? 私のことは二の次、三の次でいいんだって」
「俺、陽波のことが好きなんだよ。だから、支えたいんだ」
「うん。気持ちは嬉しいけどさ、私は大丈夫。そんなに色々背負ったらアストが潰れちゃうよ」
それじゃ夕飯の支度しよう! と陽波は元気よく言って立ち上がった。先ほど悲しんでいたのが嘘のような切り替えの早さである。冷蔵庫を開け、賞味期限間近の物を出していく。途中でアストの方を振り返った。
「アストー、手伝ってくれないの? 豆腐とハムの期限が危ないんだけど、何作ればいいかなあ」
「……豆腐は明日の朝使う。ハムと、他に何がある?」
アストも促されるままキッチンに立った。
――やっぱり俺じゃ、陽波のそばにはいられないんだろうな。
とっくに分かっていることだった。だから出て行く覚悟もしたというのに、いつの間にやら忘れてしまった。
日々を過ごせば過ごすほどに、陽波への想いは募るばかりだ。もっと近付きたくて、触れたくて、陽波の一番になりたくて仕方がない。
たった一言、『ずっとそばにいて欲しい』と言われれば、故郷だって捨ててしまえるのに。
「私、思い出した。小さい時のこと」
「どんなこと?」
「親と映画館に行った時ね。犬の映画をやってたの。私はどうしても見たいって駄々こねて、親の反対を押し切って見ることにしたんだけど」
犬がはぐれた飼い主を探しまわって、最後は出会えないままに死んでしまうという悲しい話だった。
陽波は過去の自分を見つめるように目を細めた。
「あまりに可哀想な話で、小さい私は映画館で大泣きして暴れたの。親も大変だったんだろうね。それ以降一回も映画館連れてってくれなかったし」
アストは想像してみた。怪物のように暴れる陽波の姿。何となく理解出来る。陽波ならやりかねないとすら思ってしまった。正義も悪も紙一重である。
陽波はお茶を啜った。一息吐く。
「それで、私も何となく映画自体が苦手になってたわけ」
「苦手だったの? 全然そんな感じしなかったけど」
アストからすると意外な話だった。これまでも何度か映画を一緒に見たが、とても苦手なようには見えなかったのだ。
陽波は笑った。
「あはは。アストがいるうちに克服したかったのかも。何で苦手なのか分かんないの嫌だし。後は単に暇だったし」
「陽波そういうところが強いよね。でも余計に苦手になっちゃったかな」
「ううん、今はそこまででもない。鼻かみすぎて痛いのだけ最悪」
陽波はわざとらしく鼻をすんすん鳴らして、スマホを手に取った。
「どうせだし、最後まで見る。アストも付き合え」
「無理しない方がいいよ」
「してない。もう平気」
そう言って映画を再生するも、陽波は明らかに我慢をしていた。アストは代わりにスマホを持って、必死で堪える陽波と映画とを交互に見続けた。
犬のタローは、飼い主たち家族に囲まれて生涯を終えた。幸せそうだが悲しい光景だ。さすがにアストも少し泣きそうになる。しかし陽波が嗚咽も堪えず号泣していたので涙も引っ込んでしまった。
映画は終わり、陽波は新しいティッシュ箱を開封してまた鼻をかんでいた。
「うあ~、鼻が取れそう」
「取れないように気を付けてね」
「はあ。でも最後まで見れて良かった。ありがとう。アストのおかげ」
陽波は鼻声で言って笑みを浮かべた。アストはそんな彼女を見て、嬉しさと悔しさとが混じった気持ちになる。
陽波は強い。一人きりでも困難を乗り越えていけるのだとアストは理解してしまった。アストの存在は、陽波にとってあまり必要ではないかもしれない。
焦りの所為か、アストは言った。
「陽波、もっと俺に甘えてよ」
「え? 十分甘えてるでしょ。朝も起こしてもらってるし、今も最後まで付き合ってもらったし」
「さっきも思ったけど陽波は一人で頑張りすぎ。折角俺がいるのに。辛いなら、途中でやめてもいいのに」
陽波は泣きながらも人の手を借りようとしなかった。抱きしめる相手はぬいぐるみでも何でも良かったのだ。アストでなくとも。
アストの複雑そうな表情を見て何を思ったのか、陽波はティッシュを捨てて眉をひそめた。
「アストには、私がやりたいことに付き合ってもらっただけでしょうに。何も私の私生活全部支えようとかしなくていいからね? そこまで求めてないし、背負う必要ないし」
「だって俺は……俺は、陽波のそばにいるからには」
アストは魔法少女のサポート役でしかない。アストは他に理由を探そうとしたものの見つからず黙った。陽波は軽快に笑いながら手を振る。
「重い重い。そこまで考えなくていい。アストは自分がやるべきことをやってよ。そこが一番大事なんじゃないの? 私のことは二の次、三の次でいいんだって」
「俺、陽波のことが好きなんだよ。だから、支えたいんだ」
「うん。気持ちは嬉しいけどさ、私は大丈夫。そんなに色々背負ったらアストが潰れちゃうよ」
それじゃ夕飯の支度しよう! と陽波は元気よく言って立ち上がった。先ほど悲しんでいたのが嘘のような切り替えの早さである。冷蔵庫を開け、賞味期限間近の物を出していく。途中でアストの方を振り返った。
「アストー、手伝ってくれないの? 豆腐とハムの期限が危ないんだけど、何作ればいいかなあ」
「……豆腐は明日の朝使う。ハムと、他に何がある?」
アストも促されるままキッチンに立った。
――やっぱり俺じゃ、陽波のそばにはいられないんだろうな。
とっくに分かっていることだった。だから出て行く覚悟もしたというのに、いつの間にやら忘れてしまった。
日々を過ごせば過ごすほどに、陽波への想いは募るばかりだ。もっと近付きたくて、触れたくて、陽波の一番になりたくて仕方がない。
たった一言、『ずっとそばにいて欲しい』と言われれば、故郷だって捨ててしまえるのに。
0
あなたにおすすめの小説
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
【完結】ヤンデレ乙女ゲームの転生ヒロインは、囮を差し出して攻略対象を回避する。はずが、隣国の王子様にばれてしまいました(詰み)
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
ヤンデレだらけの乙女ゲームに転生してしまったヒロイン、アシュリー。周りには、攻略対象のヤンデレ達が勢ぞろい。
しかし、彼女は、実現したい夢のために、何としても攻略対象を回避したいのだ。
そこで彼女は、ヤンデレ攻略対象を回避する妙案を思いつく。
それは、「ヒロイン養成講座」で攻略対象好みの囮(私のコピー)を養成して、ヤンデレたちに差し出すこと。(もちろん希望者)
しかし、そこへ隣国からきた第五王子様にこの活動がばれてしまった!!
王子は、黙っている代償に、アシュリーに恋人契約を要求してきて!?
全14話です+番外編4話
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる