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激情編
27-2
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「陽波は別に、俺のこと好きにならなくてもいいよ」
「えっ……」
陽波の感情がぐらっと揺れた。マイナスとプラスを行ったり来たりしている。アストの声は布団越しでもしっかり聞こえた。
「嫌われてなければいいんだ。陽波が他の人を好きでもいいよ。……本当はちょっと嫌だけど」
ちょっとというか、大分、と言い直してから間を空けた。陽波は緊張している。アストは何を続ける気なのか、これ以上聞き続けていいのか迷いもあった。
「俺は陽波のそばにいられるだけでいい。一番好きになって、とか贅沢は言わないから。ずっと、ずっと、近くにいたい」
真剣な言葉だ。焦った陽波は、布団から腕を出して彼の肩を掴んだ。
「やめなよ、そういうの。アストは幸せにならない」
「俺、今が一番幸せなんだよ。二百年生きてきて、一番」
「でも私は百年も生きられない。アストにとって、私が生きてる時間はほんの一瞬だよ。私のことなんてきっとすぐに」
忘れるよ。とは言えなかった。忘れられると思った瞬間に怖くなった。本当は、陽波も臆病なのだ。自分の人生をどれだけ注いでも、アストにとってはほんの短い時間でしかない。
アストのように、他の誰かを好きになってもいいとも思えない。自分に向けられていたものが、同じように誰かに向けられるのを許せるほど陽波は心が広くない。
「……だから、さあ。まあ、要は、お互い適度な感じで? いこうよ、ねえ?」
臆病者だ。本当は踏み込むのが怖いだけなのだ。裏切られたくないから、適当に流してしまう。嫌われたくないから、悪いことは全部自分の所為にしてしまう。
「陽波に、一個言ってなかったことがある」
アストは秘密を打ち明けるように言った。陽波は布団の中に腕を引っ込める。嫌だなあ、怖いことも辛いことも聞きたくない。自分を守るように身を丸くした。
「俺がティグロたちを連れて帰ったら、褒美として願いを叶えてもらえるんだ。何でも。それで地球人にしてもらうつもりでいる」
出来るわけない、と陽波は言いかけてやめた。不思議な魔法を使える世界だ、何が出来てもおかしくない。
「まあ地球人になろうと思えば今すぐにでもなれるんだけどね。アニムスの人間になるのは大変だけど、地球の人間は作りが単純だから」
「地球人としてツッコミ入れた方がいい?」
「無理しなくていいよ……で、単に地球に移住するなら手続きとか諸々が必要になるから具体的に言うとその辺を何とかしてもらおうってだけなんだけどね。俺も一応向こうでは立場があるから」
急にしょっぱい話になってきた。陽波はファンタジーと現実の狭間のような話を聞きながら頷いた。
「だから、その気になれば俺も陽波と同じように生きられる。そこは心配しなくていい」
「そっかーよかったー、ってなるか! 折角長い人生を棒に振るなよ私なんかの為に」
「陽波って、全然分かってないよね。俺は陽波がいない人生はいらないんだよ」
アストの言葉を聞いていると、陽波は自分が意固地になっていたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。絆されているのかもしれない。
陽波が布団から出るとアストと目が合った。陽波は気まずく目をそらして、無防備なアストの手を掴む。
「あのさあ……私、今寒いんだよね」
全然可愛くない台詞、と陽波は自分で呆れた。アストは困惑しきった声で言う。
「え? それってつまり」
「なに」
「抱いて良いという……?」
「違うわ馬鹿! 馬鹿か! 馬鹿なのか!」
陽波はすぐ口を噤んだ。近所迷惑すぎる。アストも負けじと声を張った。
「え!? 流れ的にそういう流れじゃないの!?」
「私には分からない流れだよ!」
疲れた。陽波は拗ねたようにベッドに横になってアストに背を向けた。もう知らん。
「陽波~、奥に詰めてよ」
「もう知らん」
「一緒に寝るんでしょ」
「そんなこと言ってない」
陽波はそう言いつつも移動した。アストが「わ~い」と緩く喜びながらベッドに乗って横になる。
「陽波、俺に抱き着いてみてよ。体温高いんだよ」
「はあ~?」
「俺からは絶対触らないから」
陽波はすっかり凍えていたのもあって、体勢を変えるとアストの腕を掴んだ。じんわりと熱が伝わってくる。まるで湯たんぽである。
「え、何でこんなあったかいの?」
「兎だから?」
「なるほど?」
なるほどか? しかし相手が兎だと思えば抱き着くのにも抵抗がない。そう、兎、兎だからと陽波は自分を納得させながらアストの背に腕を回した。
「あ、あったけぇ!!」
「良かった良かった」
「冬はいいけど、夏は……」
夏は近付かないようにしよう。陽波は密かに酷いことを考えながら、いつの間にやら眠りに落ちた。
**
本当は魔法で体表面の温度を上げているのである。アストは寝息を立てる陽波を大事に抱きしめて呟いた。
「あ~可愛い。幸せ。今すぐ死にたい……」
ここで死ねたら最高の人生だ。しかし現実はそう上手くいかない。今すぐ地球人になってしまえば、魔法が使えなくなってしまう。ティグロたちと怪物をどうにかするまでは、人生を謳歌する暇もないのだ。
早く全部終わらせて地球人になりたい。アストはその後の生活を想像しながら自分も眠りについた。
「えっ……」
陽波の感情がぐらっと揺れた。マイナスとプラスを行ったり来たりしている。アストの声は布団越しでもしっかり聞こえた。
「嫌われてなければいいんだ。陽波が他の人を好きでもいいよ。……本当はちょっと嫌だけど」
ちょっとというか、大分、と言い直してから間を空けた。陽波は緊張している。アストは何を続ける気なのか、これ以上聞き続けていいのか迷いもあった。
「俺は陽波のそばにいられるだけでいい。一番好きになって、とか贅沢は言わないから。ずっと、ずっと、近くにいたい」
真剣な言葉だ。焦った陽波は、布団から腕を出して彼の肩を掴んだ。
「やめなよ、そういうの。アストは幸せにならない」
「俺、今が一番幸せなんだよ。二百年生きてきて、一番」
「でも私は百年も生きられない。アストにとって、私が生きてる時間はほんの一瞬だよ。私のことなんてきっとすぐに」
忘れるよ。とは言えなかった。忘れられると思った瞬間に怖くなった。本当は、陽波も臆病なのだ。自分の人生をどれだけ注いでも、アストにとってはほんの短い時間でしかない。
アストのように、他の誰かを好きになってもいいとも思えない。自分に向けられていたものが、同じように誰かに向けられるのを許せるほど陽波は心が広くない。
「……だから、さあ。まあ、要は、お互い適度な感じで? いこうよ、ねえ?」
臆病者だ。本当は踏み込むのが怖いだけなのだ。裏切られたくないから、適当に流してしまう。嫌われたくないから、悪いことは全部自分の所為にしてしまう。
「陽波に、一個言ってなかったことがある」
アストは秘密を打ち明けるように言った。陽波は布団の中に腕を引っ込める。嫌だなあ、怖いことも辛いことも聞きたくない。自分を守るように身を丸くした。
「俺がティグロたちを連れて帰ったら、褒美として願いを叶えてもらえるんだ。何でも。それで地球人にしてもらうつもりでいる」
出来るわけない、と陽波は言いかけてやめた。不思議な魔法を使える世界だ、何が出来てもおかしくない。
「まあ地球人になろうと思えば今すぐにでもなれるんだけどね。アニムスの人間になるのは大変だけど、地球の人間は作りが単純だから」
「地球人としてツッコミ入れた方がいい?」
「無理しなくていいよ……で、単に地球に移住するなら手続きとか諸々が必要になるから具体的に言うとその辺を何とかしてもらおうってだけなんだけどね。俺も一応向こうでは立場があるから」
急にしょっぱい話になってきた。陽波はファンタジーと現実の狭間のような話を聞きながら頷いた。
「だから、その気になれば俺も陽波と同じように生きられる。そこは心配しなくていい」
「そっかーよかったー、ってなるか! 折角長い人生を棒に振るなよ私なんかの為に」
「陽波って、全然分かってないよね。俺は陽波がいない人生はいらないんだよ」
アストの言葉を聞いていると、陽波は自分が意固地になっていたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。絆されているのかもしれない。
陽波が布団から出るとアストと目が合った。陽波は気まずく目をそらして、無防備なアストの手を掴む。
「あのさあ……私、今寒いんだよね」
全然可愛くない台詞、と陽波は自分で呆れた。アストは困惑しきった声で言う。
「え? それってつまり」
「なに」
「抱いて良いという……?」
「違うわ馬鹿! 馬鹿か! 馬鹿なのか!」
陽波はすぐ口を噤んだ。近所迷惑すぎる。アストも負けじと声を張った。
「え!? 流れ的にそういう流れじゃないの!?」
「私には分からない流れだよ!」
疲れた。陽波は拗ねたようにベッドに横になってアストに背を向けた。もう知らん。
「陽波~、奥に詰めてよ」
「もう知らん」
「一緒に寝るんでしょ」
「そんなこと言ってない」
陽波はそう言いつつも移動した。アストが「わ~い」と緩く喜びながらベッドに乗って横になる。
「陽波、俺に抱き着いてみてよ。体温高いんだよ」
「はあ~?」
「俺からは絶対触らないから」
陽波はすっかり凍えていたのもあって、体勢を変えるとアストの腕を掴んだ。じんわりと熱が伝わってくる。まるで湯たんぽである。
「え、何でこんなあったかいの?」
「兎だから?」
「なるほど?」
なるほどか? しかし相手が兎だと思えば抱き着くのにも抵抗がない。そう、兎、兎だからと陽波は自分を納得させながらアストの背に腕を回した。
「あ、あったけぇ!!」
「良かった良かった」
「冬はいいけど、夏は……」
夏は近付かないようにしよう。陽波は密かに酷いことを考えながら、いつの間にやら眠りに落ちた。
**
本当は魔法で体表面の温度を上げているのである。アストは寝息を立てる陽波を大事に抱きしめて呟いた。
「あ~可愛い。幸せ。今すぐ死にたい……」
ここで死ねたら最高の人生だ。しかし現実はそう上手くいかない。今すぐ地球人になってしまえば、魔法が使えなくなってしまう。ティグロたちと怪物をどうにかするまでは、人生を謳歌する暇もないのだ。
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