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女王様の言うことは
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明くる日。私たちはカナンさんと護衛の兵士に連れられ森の奥へ向かい歩いていた。大所帯なので怖くはないはずだけど、魔物の声が聞こえると勝手に体が怯えてしまう。
無言のまま歩を進めていく。土を踏む足音がたくさん続いた。
やがてカナンさんが立ち止まり振り返った。
「兵の皆はここまで。悪いけど少し待機していて頂戴」
剣を携えた兵士たちはピシッと気を付けの格好をした。カナンさんはさっさと踵を返して先へ。私たちも続いた。
少し歩くと、行き止まりだった。山の岩肌がむき出しになっている。ここからどう進むんだろう。まさか登るのか。呆然と上を見ていると、カナンさんが岩肌に手を乗せた。何か念じている。すると触れていた部分がガラガラと崩れ、人が通れるくらいの穴が開いた。
どうやらトンネルになっているようだ。ずっと先まで道が続いている。
「この先に石碑があるの。そこに埋め込まれてる宝石が精霊との通り道になってる。私も行った方が良い?」
「必要ない。我々だけで十分だ」
ユリスが暗いトンネルを見つめながら言った。カナンさんはつまらなそうに頷く。
「そう。分かった」
「念の為、護衛を置いていきましょうか」
ラウロがユリスを窺う。ここにカナンさんを一人置いていくのは危険だ。ユリスも異論はないようで、結局ミケとハインツを置いていくことになった。
三人に見送られ、私とユリス、ラウロ、シルフィはトンネルの中へ入った。暗く狭いトンネルを一列になって進む。途中で崩れたら、とか怖いことは考えないように、他の取り留めのないことを考えて、ふと昨日のミケとの会話を思い出した。愛人云々の話だ。
「あの、ユリスさん」
「何だ」
前を行くユリスに声をかける。機嫌は悪くないようだ。でも、今する話でもないか。私は思い直した。
「ちょっと相談したいことがあるんです。これが終わってからでいいので、少し時間をください」
「今言えばいいだろう」
「あ、いや、思ったんですけど、今言うことじゃないので後で良いです」
「……そうか」
こういう言い方すると気になるかな。でも私の話なんか大して気にもならないか。
やがて眩しい光の中に出た。しかし一息吐けたのも一瞬で、私はすぐに身を固くした。トンネルの先で私たちを待っていたのは、立派な石碑と、深い谷底の景色。石碑が建っているのは、なんと崖っぷちだったのである。
「ふ、深い、怖い!」
私は好奇心で崖の下を覗き込んでぞっとした。底が全く見えない。落ちた時のことは想像したくない。足が竦んだ。
「エコ様。お気を付けください。風に煽られれば落ちますよ」
「怖いこと言わないで!!」
「すっごーい! すごいねエコ! 下が見えない!」
「ぎゃー! やめてやめて! 落ちちゃうから、危ないから!」
シルフィが崖っぷちではしゃいでいる。心臓が持たない!
「は、はは早く終わらせましょう!?」
「早く来い」
ユリスは既に石碑に手を置いている。私が悪いですねこれは。私は「すみません……」と謝りつつ腕輪を外してユリスの傍に立った。でも精霊と繋がれるのはシルフィだけだしシルフィがやればいいのでは? ああでも最初に起こすのはユリスの役目なんだっけ。
「うわぁ!?」
「叫ぶな」
いきなり抱きしめられたら普通はびっくりしますが!? てそうだった。久々すぎてこの感覚を忘れていた。抱きしめる格好が一番魔力を使いやすいんだよね、分かってます。分かります。さすがに二回目なので私の気持ちも穏やか……ではなかった。ユリスすごい良い匂いする。それにしても人の体温てどうしてこう、緊張するんだ。
私は体の感覚から気を逸らす為にユリスの手を見つめた。石碑に埋められた宝石は、綺麗な緑色をしている。エメラルドかな。ユリスの手の平より少し小さいくらいだけど、宝石にしては十分大きい。
無言のまま歩を進めていく。土を踏む足音がたくさん続いた。
やがてカナンさんが立ち止まり振り返った。
「兵の皆はここまで。悪いけど少し待機していて頂戴」
剣を携えた兵士たちはピシッと気を付けの格好をした。カナンさんはさっさと踵を返して先へ。私たちも続いた。
少し歩くと、行き止まりだった。山の岩肌がむき出しになっている。ここからどう進むんだろう。まさか登るのか。呆然と上を見ていると、カナンさんが岩肌に手を乗せた。何か念じている。すると触れていた部分がガラガラと崩れ、人が通れるくらいの穴が開いた。
どうやらトンネルになっているようだ。ずっと先まで道が続いている。
「この先に石碑があるの。そこに埋め込まれてる宝石が精霊との通り道になってる。私も行った方が良い?」
「必要ない。我々だけで十分だ」
ユリスが暗いトンネルを見つめながら言った。カナンさんはつまらなそうに頷く。
「そう。分かった」
「念の為、護衛を置いていきましょうか」
ラウロがユリスを窺う。ここにカナンさんを一人置いていくのは危険だ。ユリスも異論はないようで、結局ミケとハインツを置いていくことになった。
三人に見送られ、私とユリス、ラウロ、シルフィはトンネルの中へ入った。暗く狭いトンネルを一列になって進む。途中で崩れたら、とか怖いことは考えないように、他の取り留めのないことを考えて、ふと昨日のミケとの会話を思い出した。愛人云々の話だ。
「あの、ユリスさん」
「何だ」
前を行くユリスに声をかける。機嫌は悪くないようだ。でも、今する話でもないか。私は思い直した。
「ちょっと相談したいことがあるんです。これが終わってからでいいので、少し時間をください」
「今言えばいいだろう」
「あ、いや、思ったんですけど、今言うことじゃないので後で良いです」
「……そうか」
こういう言い方すると気になるかな。でも私の話なんか大して気にもならないか。
やがて眩しい光の中に出た。しかし一息吐けたのも一瞬で、私はすぐに身を固くした。トンネルの先で私たちを待っていたのは、立派な石碑と、深い谷底の景色。石碑が建っているのは、なんと崖っぷちだったのである。
「ふ、深い、怖い!」
私は好奇心で崖の下を覗き込んでぞっとした。底が全く見えない。落ちた時のことは想像したくない。足が竦んだ。
「エコ様。お気を付けください。風に煽られれば落ちますよ」
「怖いこと言わないで!!」
「すっごーい! すごいねエコ! 下が見えない!」
「ぎゃー! やめてやめて! 落ちちゃうから、危ないから!」
シルフィが崖っぷちではしゃいでいる。心臓が持たない!
「は、はは早く終わらせましょう!?」
「早く来い」
ユリスは既に石碑に手を置いている。私が悪いですねこれは。私は「すみません……」と謝りつつ腕輪を外してユリスの傍に立った。でも精霊と繋がれるのはシルフィだけだしシルフィがやればいいのでは? ああでも最初に起こすのはユリスの役目なんだっけ。
「うわぁ!?」
「叫ぶな」
いきなり抱きしめられたら普通はびっくりしますが!? てそうだった。久々すぎてこの感覚を忘れていた。抱きしめる格好が一番魔力を使いやすいんだよね、分かってます。分かります。さすがに二回目なので私の気持ちも穏やか……ではなかった。ユリスすごい良い匂いする。それにしても人の体温てどうしてこう、緊張するんだ。
私は体の感覚から気を逸らす為にユリスの手を見つめた。石碑に埋められた宝石は、綺麗な緑色をしている。エメラルドかな。ユリスの手の平より少し小さいくらいだけど、宝石にしては十分大きい。
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