玉石混交の玉手箱

如月さらさら

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世界消滅

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「この星でいう「明日」、つまり24時間後ちょうどに、50%の確率でこの星を消滅させマス」
人々ははっきりと、その言葉を認識した。

とある町の大きな広場、ちょうど昼ごはんを食べ終わった時間の頃に、
突然、その広場のど真ん中に影が落ちた。
人々が上を見ると、そこには鈍色に輝く円形の飛行物体が浮遊していた。
やがて着地し、降りてきた飛行物体の側面が開く。
上から下へとそのドアのようなものはスライドし、濃い紫色の煙を排出しながら何者かが現れた。
人々は若干たじろぎながらも、その姿を確認しようと目を凝らした。
その正体は、‥‥普通の成人男性であった。
スーツを着こなし、茶色い鞄を持ち、黒ぶちのメガネを掛けた、まるでドラマに出てくるような「イメージ通りの」成人男性であった。
その男性はおもむろにポケットから取り出した機械を口元に持っていき、うめき声と歓声を分割したような音を口から出し始めた。
30秒ほどして、聞き馴染んだ「日本語」が発せられた。
「みなサン、おはようございマス。こんにちハ。こんばんハ。」
その男性の声はヘリウムを吸ったように高かった。
何人かが失笑した。その声がまさしく、「宇宙人の喋り方のテンプレート」であったからだ。
「今、ワタシの声のトーンがテンプレートであると考えましタカ?」
図星である。失笑した者たちはみな俯いてしまった。
「ワタシの姿、声、行動は全てミナサンが思い描きやすい形にしていマス」
「宇宙人と呼んでいただいても結構ですヨ」
突然現れた宇宙人に慣れ始めた人々は、次第に地球にやってきた目的が気になり出した。
しばらく(約10秒)の沈黙を経て、
「なんで地球にやってきたんすかー?」
勇敢にも1人の男子学生が尋ねた。
「今回、この星は厳正なる審査の結果、この星でいうところの遊戯大会の会場に選ばれましタ。」
人々は顔を見合わせる。顔を見合わせる人がいない人はただひたすらあたふたした。
そして、地球を震撼させる一言が放たれた。

「この星でいう「明日」、つまり24時間後ちょうどに、50%の確率でこの星を消滅させマス」

人々ははっきりとその言葉を認識した。

何回か言葉を噛み砕いて、飲み込んで、消化して、そして‥ 呆然とした。
(ん?消滅?)
(明日地球消すって言った?今)
(あばばばば)
見合わせていた顔は恐怖と困惑に歪み、見合わせる顔のない人のあたふたは更に過激さを増す。
「も、‥もう一度言ってもらっても良いですか?」
おずおずと先駆者である男子学生が聞く。なんとまぁ胆力のあるやつだ。

「この星でいう「明日」、つまり24時間後ちょうどに、50%の確率でこの星を消滅させマス」
一言一句違わず、また告げられる真実。
機械的な言動と叫び喚く人々のコントラストが広場を塗り尽くしていった。
混乱の中、男子学生はまたも発言する。
「そ‥そ、それ、は、ちゃんと、全世界に言っておいた方が良いんじゃないんですか?ほら、あの、えと、‥広報?」
冷静だな、君。
「分かりましタ。でハ、そうすることにしまショウ」
宇宙人は最初とは反対側のポケットから機械(スマートフォン)を取り出し、軽快に、メッセージを送るような仕草をした。

程なくして、メディアはまるで大爆発を起こしたかのように、宇宙人のことについて持ちきりになった。

「【異例】世界が消滅」
「デマか?本当か?真相に迫る」
「信じられない」
「リアル最後の晩餐ってこと?」
「大博打」

当然、各地で混乱が頻発し、数時間にして平穏な日常は反転してしまった。今日が占い1位の人、お気の毒に‥

明日という極端に短い猶予の中で統制など出来るはずもなく、ただ時間が過ぎ‥時間が過ぎ‥
遂に滅亡の時間がやってきた。
(でも、半分の確率だし‥)
そんな微かな希望的観測は、せいぜい面接前に行う、手のひらに「人」の文字を描く行為のように心許なく、心拍数は上がるばかりだ。
なにしろ50%のリスクが大き過ぎる。
憂鬱な気持ちの中、予定の時間の3分ほど前に宇宙人はまた広場に現れた。
宇宙人は特に喋ることはなく、予定の時間を迎えた。

宇宙人は口を開く動作をする。
「時間となりましタ。厳正な抽選の結果、地球ハ‥‥

「消滅をしない」 となりました。

‥‥消滅を、しない?
‥‥しない
‥消滅しない!

途端に湧き上がる会場!
俺たちは生き続けるんだ!人生最高!神様ありがとう!
人々は口々に歓喜の言葉を言い合う。
歓喜の言葉を言い合えない人はもういない。

そんなハッピーエンドのムードの中、宇宙人はまた口を開く動作をする。

「さて、明日のこの時間ハ、25%の確率デ…
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