押しかけ女房は叶わない恋の身代わりらしい

雪成

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アドルフは心配性

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「あれ、もしかして自覚ないんですか?」
「自覚って?」


 ロランの言葉にコテンと首を傾げてから、ハッとした。
 人に見せられない自覚……それはつまり。


「あの、もしかして、ブスとかそういう話ですか……?」

 
 自分の顔は普通オブ普通だと思ってきたけど、アドルフが美形なので自ずとハードルは上がっている可能性がある。
 恐々訊ねると、ロランに「なんでそうなるんですか」と呆れた顔をされた。


「アドルフは貴女が特別で、とても心配だということです」
「私、別に悪さとかするつもりありませんけど」
「そうではなく、ご自身の格好をよく見てください」
「格好……」


 フードの下から見下ろす自分は、性別年齢不詳の陰気な魔法使いスタイル。
 街中の人たちはみんなシンプルなシャツやズボンの軽装で、目の前のロランもカッチリとした服装ながらとても爽やかでかっこいいと思う。

 おそらく異世界といえども自分の美的感覚は周囲と大差ないのだろう。そう考えるとやっぱりこの格好は誰から見てもだいぶ怪しいと思われるのではないか。
 


「あの、たしかにちょっとダサいというか、もっさりしていますけど、これは全てアドルフが選んで用意してくれたものですから仕方ないんです!」


 私だって不本意です、と言わんばかりにすかさずアドルフのセンスのせいにすれば、ロランは苦笑する。


「本当に自覚がなかったんですね。ウタさん、いいですか? 今のウタさんは、とにかくとても重装備なんですよ。まずそのローブ、魔獣が嫌う匂いを持つ嫌仁草という高価な薬草で染色をしているものです。それさえあればあの森の魔獣でさえ一切寄せ付けないでしょう」


 それを皮切りに彼は私の身につけているものをひとつひとつ説明し出した。

 防火効果や傷に強い分厚い皮を持つ魔獣を素材に使った手袋、守護魔法が込められた魔石を埋め込んだ短剣、腰に下げられた魔獣除けの匂い袋の中にはもしもの時のための解毒薬と回復薬も仕込まれていた。


「たしかにウタさん達が住んでいる森は魔獣の巣窟とも言われていてとても危険です。でも正直今のウタさんの装備はやりすぎと言うか、ローブひとつでも十分すぎるほど効果があるのに、そこまでいるかな? というほどの過剰ぶりだと思います」
「……お、おお…?」
「それらひとつひとつが希少なものなのに、本当によくここまで集めましたね。全部の値段を合わせれば、きっと王都に家が買えますよ」


 王都の不動産価値がいかほどかはわからないけれど、とにかくかなり価値のある物を集めてくれているらしい。

 うわあ……ダサいと思っていたけど、ものすごくお高いものだと知ってしまうと身が強張る。
 アドルフってば、どれだけ心配性なの?
 なるほど。これで道中まったく魔獣が現れなかった理由がわかった。


「そんなにすごいものだったなんて知らなかったので、ずっとアドルフの趣味悪いなと思ってました…」
「ふ…っ!」


 しゅんと眉を下げた私にロランが吹き出した。
 突然の笑い声にビクッと肩を揺らす。
  

「ふ、くく、あははは! 趣味悪いって! 今の話聞いてそんなこと言う人、きっとウタさんくらいですよ!」
「え、だってコレ、ほんとに陰気な魔法使いみたいじゃないですか?」
「い、陰気…っ、そう言われると、たしかに! ふふふ…っ」
「しかもそんなにお高いなんて。どうしよう、アドルフお金大丈夫かな。何処かから無理して借りたりしてないかな? それとも店主を脅して安く買い叩いたり……」


 あの顔だ、脅しには有効だろう。

 アドルフは以前私のことを養えるって言ってたけど、さすがに家一軒買うほどの高価な買い物は無理だと思う。魔獣を狩る仕事って、そんなに儲かるとは思えない。
 借金まみれになっていたり、ヤクザなことをやっているのではないかと私が心配しているとロランがまた吹き出した。
 

「あのアドルフが借金まみれ!? いや、く、ふふふ…っ」


 ロランが笑いを堪えようとしているが、噛み殺しきれていない。ジト目で見やればそれに気づいたロランが「失礼」と小さく咳払いする。


「ウタさんが思うような心配はいりませんよ。アドルフはああ見えて堅実な男ですから」


 そうなのかな。たしかに、信じられないくらい頭は硬いからな……。


「まあ、そういうわけなのでアドルフが少し強引で過干渉なのは許してあげてください。すべてあなたの為なのですから」
「はあ」


 少し離れたところでリーゴ飴を買っているアドルフの姿が見える。露店の店主にお金を払いながらもチラチラとこちらを警戒するように振り返るのをロランが笑いながら手を振ってみせている。
 よほど私を信用していないようだ。

 
 ……でも、そっか。私のこの装備ってそんなに有効なものだったんだ。


「ロランさん、教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ、わかっていただけたなら何よりです。アドルフも本望でしょう」


 ロランがニコッと笑顔を向けるから、私もフードの下でニッコリと笑う。
 

 なかなか良いことを聞いた。
 そんなにもすごい物なら、私、あとからひとりでも街に降りて来れるんじゃない?


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