学院の魔女の日常的非日常

只野誠

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姫ととりまきと幻の珍獣騒動

姫ととりまきと幻の珍獣騒動 その5

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 ミア達は頂上でディアナ一行と合流した後すぐ学院に戻り、そのまま学院内の北側の森に来ていた。
 それでももう夕方になっていたが、明日を待つつもりはミア達にはなかった。
 恐らくここのにある古い神殿にカリナはいるはずだ。
 古い、とても古い法の神の、誰が作ったのかもわからないような質素な神殿に普段カリナはいる。
 そこへと一行は向かう。
 ついでにクリーネはまだ白竜丸の上に乗ったままだ。
 クリーネの身体的に限界だったこともあるが、白竜丸を気に入ったようだ。
 しばらく一行が森の中を行くと、その神殿が見えてくる。
 予想通りカリナはその場にいた。
 神殿に祈りを捧げるようにかがんでいる。
 それでも小さな山のようだと感じるほどその体は大きい。
「あの、カリナさん」
 と、ミアが声をかける。
 カリナは体制をかえずに、
「何か用か」
 と振り替えもせずに聞き返してくる。
 かなりの大人数で訪れてしまったので少し不機嫌のようだ。
 だが、ミア達とてそんなことを気にしている場合ではない。
「多分なんですけど、始祖虫関連の何かを見つけたんですが」
 と、ミアが言うとやっとカリナは振り返る。
 筋肉でおおわれた、人とは思えないほどの巨体に美しい女性の顔がついている。
 初めて見るクリーネとその護衛達はカリナの存在感に圧倒され身動き一つできないでいる。
「見せてみろ」
 そう言われたので、ミアはツチノコ、いや、ツチノコモドキの入った檻をカリナに見せる。
 カリナはそれを一目見て見て頷く。
「また珍しいものを見つけたな。確かに始祖虫関連の物だ。知っているか、これがこの地方に伝わるツチノコという珍獣の正体だ」
 と、カリナにしては珍しく笑顔でそう言った。
「じゃあ、これがやっぱりツチノコなんですか? 使徒様はいないと言ってたんですが」
 ミアは不思議そうにそう言った。
「まあ、そうだな。それもまた正しい。モグラを飲み込んだただの蛇の死体だからな。そんな生物はいないと言えばいない」
 確かにこれはツチノコと呼ばれてはいるが、その実態はモグラだ。
 そう考えればツチノコと言うもの自体は存在しない。
「それがどうして始祖虫と?」
 それを聞いたのはスティフィだ。
 スティフィとしてはカリナのことを頼りたくはないが、ミアの安全は確保しておきたい。
 その為にこれがどういった存在かは知らないといけない。
 危険があるのかないのか、それだけでも把握しておきたい。
「これは…… 言ってもかまわぬことか。始祖虫という脅威がいることを周囲に知らしめるための仕組みのようなもののうちの一つだ」
 カリナは少し迷いはしたが、それを伝えて来た。
「仕組み?」
「ああ、始祖虫は基本、神々でも所在を確認できない上に、普段は地中に潜んでいる。その上でその地にいるすべてを滅ぼしかねない」
 その言葉に実際に始祖虫の脅威を目の当たりにしたミア達はすぐに納得できる。
 少なくとも人間では、どうにもならない相手だ。
 人間が何百人いようと、どうこうできる存在に思えない。
「たしかに。朽木様も探し出せないって言ってました」
 ミアがそう言って納得する。
 ミアの危機に古老樹の朽木様が駆け付けてくれたのは、朽木様の子である荷物持ち君が始祖虫と実際に出会い確認できたからだ。
「うむ。なので、自然の摂理として精霊憑きのモグラが生まれる。このモグラは始祖虫の臭いを頼りに地中を深く掘り進むようになる。そして、始祖虫の何かを発見するとそれを食べて今度は地上を目指す」
「それが精霊憑きの役割なんですか?」
 と、ミアが不思議そうに聞き返した。
「ほう、良く知っているな。御使いの奴か…… そのことはあまり広めないでくれ。これは世界の理の一つだ。まだ人が知って良いことではない」
 と、カリナは険しい顔をしてそう言った。
 カリナは精霊憑きの獣がなにかしらの役割を持っているということ広めるな、と言っている。
 恐らく白竜丸をミアの護衛にと勧めたのも、それを知っていたからなのだろう。
 この世界は運命によって定められている。
 そのことを人はまだ知らなくてよい事なのだ。それらのことは世界が完成し人の時代が始まってから知られていけばいい事であり、今はまだ時期尚早なのだ。
 その真意はわからないがこの場にいる者はカリナの迫力に押され全員が自然と頷いた。
「でだ。地上付近に戻ってきたモグラはおもに蛇に食われて、こういった形になる。ついでにだ。昔はそのことをまだ知っている者がいて、ツチノコは始祖虫のいる兆しとされていたのだが、今は理由だけが失われて珍獣としての形だけが残っているようだな」
 そう言って、カリナは軽くため息をついた。
「これは危険なものじゃないの?」
 スティフィが率直に聞くと、
「ああ、これはこの間、倒した奴らの片方の脱皮の抜け殻で間違いはない。これ自体に危険はない」
 と、カリナはそう言った。
「抜け殻…… あいつら脱皮するのね」
 スティフィが見た始祖虫はどちらも幼虫のような姿だった。
 それが脱皮した後とすると、脱皮しても幼虫のような姿のままなのかもしれない。
 スティフィの考えていることを見越してカリナは少し説明をしてやる。
「脱皮するごとに頭の角が増える。七本角ともなると始祖虫が始祖虫自身の卵を産むようになるから、本当に厄介な連中だ。それ以前に見つけられたのが幸運だった」
「でも、まだいるんですよね?」
 と、ミアが真剣な表情になり確認する。
「今年中に現れるという話だな」
 カリナも少し顔をしかめてそのことを認める。
「ジュダ神から…… ですよね」
 そう言ってミアは何か思い詰めたような表情を見せた。
 ミアはそれももしかしたら自分のせいなのでは、と考えているようだが、虫種は別の世界からやって来た種族で神が造った種族ではない。
 それ故に神々の運命の環の中にいない。
 ミアだから、と言う理由はそこにはない。
「ミアよ。お前はなるべく始祖虫だけには関わるな。どんな神の加護も虫種、特に始祖虫相手では意味がないからな」
 そのミアの顔を見て、カリナがそう言った。
 その後で、スティフィと荷物持ち君に視線を送る。
 それはまるでミアには始祖虫とは関わらせるなとそう言っているようだ。
 それにスティフィも荷物持ち君も、姿は見えないがミアの精霊も頷いた。
「は、はい」
 ついで、ではないが、ミアも頷く。
 ミアも始祖虫の力を目の辺りにしている。自分から関わろうとは思わない。
「このことは私からポラリスに伝えておく」
「このツチノコは……」
「好きにしろ。場合によっては金になるんだろ? それはお前たちのほうが詳しそうだがな」
 そう言ってカリナは表情を柔らかくした。
「ありがとうございます」
 ミアが畏まって、カリナに礼を言った。
「いや、良く知らせてくれた。それと、一応確認しておくか。これはどこで見つけた?」
 このツチノコが腹に貯えているものは間違いなくカリナが倒した始祖虫の物だ。
 それでも一応確認をしておこうと、カリナが聞くと、
「裏山の谷の向こう側の山間のほうです」
 と、予想外の答えが返って来た。
 それにカリナが驚く。
「む? 思った以上に近いな…… えっと…… 朽木の子よ。正確な場所を……」
 流石に近づぎる。
 精霊憑きのモグラとはいえ、地中深くに潜る事以外、それほど生活範囲を長距離移動することはないはずだ。
 始祖虫が現れた場所とかなり離れているし、流石にこれほど近くまで始祖虫が来ていればカリナなら気づける。
 カリナは荷物持ち君を見つめる。
 荷物持ち君も琥珀でできた眼をカリナに向ける。
 それで言葉は交わさないが、カリナと荷物持ち君の間では何らかのやり取りが行われたようだ。
「なるほど。私が大暴れしたせいで大分飛ばされていたらしいな」
 カリナはそう言って顔をしかめた。
 カリナからしても、久しぶりに多少なりとも歯ごたえのある相手だったので少々はしゃぎすぎたようだ。
 荷物持ち君がカリナに寄こした情報では、あの戦いで始祖虫の抜け殻などの痕跡もかなり広範囲にわたり吹き飛んでしまったとのことだ。
 今回見つかったこれもそれの一つだそうだ。
「何かわかったんですか?」
 と、ミアが不思議そうに聞いた。
 スティフィはカリナの呟きを聞いて大体のことは理解したようで、ニヤニヤとした表情をカリナに向けている。
「まあ、これに関してはなにも問題ない」
 説明するのが面倒だったカリナはそう言って言葉を濁した。

 その後、もう少しカリナと話をした一行はいつもの食堂に、夕食をとりに戻って来て一息ついていた。
「恐らくあの大女との戦いで始祖虫の脱皮の抜け殻もこの辺りまで飛ばされてきてたって話だったんでしょう。暴れすぎなのよあの大女」
 スティフィがそう言って悪態をついた。
「え? 始祖虫が出てきたの学院から四日くらいはかかる場所ですよね? ツチノコを見つけたの割と近くですよ」
 ミアが驚いたようにそう言ったが、カリナと始祖虫の戦いを見れていないミアだからだ。
 実際にあの戦いを見たら、それぐらい吹き飛ばされていても何ら不思議な話ではないと理解できる。
 そもそも始祖虫だけの力でも大地が広範囲にわたり吹き飛んでいるのだ。
 それを遥かに上回る地竜鞭と言う伝説の武器を、カリナは振るっている。
 この辺りまでその痕跡が吹き飛んでいてもおかしい話ではない。
「まあ、それだけの戦いだったということよ」
 とスティフィが物知り顔でそう言うと、
「私だけ見れてないんですよ!」
 と、ミアがそう言って頬を膨らませた。
「あの大女が言っていたでしょう、ミアは始祖虫関連だけは関わるなって」
 スティフィもそれは確かにそうだ。と、そう思う。
 恐らくほとんどの上位種はミア、というか門の巫女に友好的なのだろう。
 恐らく唯一の例外である竜種もミアが竜王の卵を持つことでそう易々と危害を加えなくなっているどころか従いすらする。
 カリナも地竜鞭の竜王も、それがわかっていてミアに竜王の卵を与え、まだ卵ではあるが護衛者にしたのだろう。
 そうなると、ミアの敵になりそうなものは外道種と虫種くらいなものだ。
 外道種から守るために荷物持ち君とミアの精霊がいる。
 外道種から襲われる。これは仕方がないことだ。外道種とはそもそも神々の敵なのだから。
 だが、虫種は違う。
 虫種にとって神々も世界の理も関係ない。
 虫種にあるのは喰えるか喰えないか、自分より強いか強くないか、それくらいのものだ。
 虫種に、特に始祖虫にとっては人間など餌の一つに過ぎない。
 竜王の卵が孵りそれが成長し、始祖虫を丸呑みに出来るようになるまでミアが関わるべき相手ではない。
「うぅ」
 ミアも始祖虫の理不尽さを実感しているだけに何も言えない。
 ミアにはまだ確定ではないが、ロロカカ神の巫女として、門の巫女として、何か使命があるはずなのだから、危険な始祖虫などに関わるべきでないと言う話も分かる。
「結局のところ、これが、この蛇の死体をかぶっているのがツチノコという事でいいのですか?」
 と、運び込まれた檻にあまり近寄らずにだが、ルイーズもそれを観察している。
「らしいです」
 と、ミアが答えると、今度はアビゲイルが口を開く。
「なんで蛇の被り物なんかしてるんですかぁ」
 そう言っているアビゲイルは、既に檻に手を突っ込んで、ツチノコを突いたり撫でたりしている。
 ツチノコはアビゲイルの手から逃げるように行動しているが、蛇の被り物をしている状態ではまともに動けていない。
 何とも不格好で哀れに思える動作で逃げようとしている。
 アビゲイル的には、それがかわいらしいと感じているようだ。
「なんでも爬虫類という生物は竜種の影響を少なからず受けていて、始祖虫がご馳走に感じるそうなんですよ。それで地上に戻ってきたモグラはだいたい蛇に食べられるそうです」
「確かにこの辺りでモグラを捕食できる爬虫類と言ったら蛇くらいですねぇ」
 アビゲイルはそう言って納得した。
 例外的に鰐の白竜丸がいるが、この辺りでモグラを捕食できるような爬虫類と言えば蛇くらいのものだ。
 この辺りに生息する蜥蜴なんかは、そこまで大きな種はいない。
 ついでにその瞬間、アビゲイルの頭の中でひらめきが来る、蛇型の使い魔も面白そうだ、と。
 体に巻き付けとけば邪魔にもならない。
「けど、そのモグラは精霊憑きで不死とまではいかないまでも、かなり死に難く変質しているそうなので、蛇に食べられても死なず消化されずで、結果こうなるらしいです」
 と、ミアはカリナから聞いたことを得気にアビゲイルやルイーズに教えてやる。
「確かに。それなら珍獣ですね。カリナ様の言葉もありますし、リチャード叔父様には私のほうから一筆書かさせていただきます」
 ルイーズがわざわざそう言ったのは、じっと黙ってはいるが、瞬きもせずに見つめて来るクリーネがいたからだ。
 ただカリナがこれをツチノコと言ったからには、これは伝承の、少なくともその元となった存在で間違いはないのだろう。
「ルイーズ様! あ、ありがとうございます!!」
 とう言ってクリーネは目を輝かせた。
 クリーネは本当に嬉しそうにそう言って、なんなら涙すら流している。
 ルイーズからするとリチャードの下で働く事になんの魅力も感じないのだが。
 クリーネからすれば、それは大変名誉なことなのだろう。
 例え身分が平民となっても貴族に仕えれるならば、元貴族と言う誇りを保てるのかもしれない。
 クリーネも貴族として誇りを持って生きているということだ。
「き、金貨、貰えるんですよね!」
 更にジュリーも目を輝かせる。
「まあ、恐らくは…… ですが。そもそも金貨百枚の出本がリチャード叔父様らしいので」
 ルイーズは暇だったので金貨百枚の噂の出どころを調べたところ、すぐにリチャードに行き当たった。
 というか、調べるまでもなかった。
 リチャードはティンチルでの見世物の一つにと考えているらしい。
「ん? じゃあ、なんかすべて丸く収まる感じか?」
 と、エリックが笑顔でそう言った。
 クリーネの願いも金貨も手に入る、これで全員の願いが叶うはずだ。
 しかも、今までの話からすると、もう少し遠征すれば更に別のツチノコを発見できる可能性もある。
 それを今は口には出さないが、また金に困ったらミアに頼み込む腹積もりでエリックはいる。
 ツチノコなど荷物持ち君がいなければそう簡単に見つかるものでもないし、カリナの話では始祖虫の脱皮した皮は腐らないとのことだ。
 エリックにとっては引き出すのにちょっと手間がかかる貯金のような感覚でいる。
「ですね」
 と、一応ミアもそれで納得する。
 クリーネの願いも叶い、金貨も得られるだけでなく、何よりもツチノコの真相にも辿り着けた。
 ミア的には大満足の結果だ。
「しかし、なるほどですねぇ。ツチノコが始祖虫を発見するための仕組みの一つだったんですねぇ…… んー」
 アビゲイルはそう言いつつ、ツチノコをじっと見つめる。
「どうしたんですか?」
「いや、そのモグラの胃の中に伝説の虫種、始祖虫の抜け殻の一部があると思うと気になりましてぇ」
 間違いなく研究のしがいがある素材ではあるとアビゲイルは考えている。
 が、どう考えてもアビゲイルがこれを手に入れることはできない。
 無理に手に入れようとすれば、荷物持ち君やディアナも敵に回すことになる。
 流石のアビゲイルもそれは避けたい。
「ダメですよ。これは私達、ツチノコ探索隊が頑張った結果なので!」
 と、ミアが怒ったような顔をしてそう言った。
「あーん、始祖虫は唯一魔力を完全遮断できるって言われているんですよぉ。ちょっと調べてみたいですねぇ」
 もし、その素材で使い魔でも作れば魔術を無効化できる使い魔を造れるかもしれない。
 アビゲイルの眼にも確かに、ツチノコの中身は何も映っていない。
 だからこそ研究のしがいがあると言うものなのだ。
「あー、だから神々でも始祖虫を発見できないってことなんですね!」
 と、ミアが始祖虫を見つけれないと言う話を思い出す。
 それをアビゲイルは鼻で笑う。
「逆ですよ。神々でも発見できないので、始祖虫は魔力を完全遮断できる能力を持っているのではないかって言われるようになっただけですよぉ」
「なるほど…… じゃあ、確証はないんですね」
 ミアはその説明に納得する。
 そして、確かにそれは研究したくなる、とミアも思ってしまう。
「だから研究したいんじゃないんですかぁ」
「確かに気になるところですね」
 アビゲイルにそう言われて、ミアも知的好奇心がうずき出す。
「ミ、ミアさん、ダメですよ! こ、これは金貨! 金貨になるんですから!」
 ミアの顔を見たジュリーが慌ててそう言いだした。
「ジュリー、諦めなさい。ミアが言い出したら聞かないことはもうわかっているでしょう」
 それをスティフィが面白そうにからかってそう言った。
「うぅ……」
 と、ジュリーは苦しそうな表情を浮かべだす。
 ただ、ミアも流石に始祖虫に関わるなと言われて、それを研究しようとは思わない。
 ミアとしても、まだロロカカ神に直接言われたわけではないが門の巫女としての使命を果たすまで死ぬわけにもいかないのだから。
「なんだかんだで今日は疲れましたね。でも一日で方が付いてしまったのは残念でした」
 ミアはそんなことを言ってとりあえず話をまとめた。
 天幕での外泊は楽しくはあるし、想像していたより簡単に方が付いてしまった。
 それでも色々あったので、今日は寮の自室でゆっくりと寝たい気持ちもある。
「ミア、サリー教授をはじめ、いろんな教授達からもツチノコを見たいと言う話が来ているそうですよ」
 ミアが話をまとめにかかったので、マーカスが白竜丸を下水道の檻に戻すついでに聞かされたことをミアに伝える。
 伝説の珍獣を捕まえたとなれば、魔術学院の教授としても一目見たいと思う人間は多いようだ。
「では一旦、学院に預けますか? その後で、そのリチャードさんって方は…… 今は都にいるんですか? それもティンチルですか?」
 と、そう言って、ルイーズの方を向いた。
「そのどちらかですね。行ったり来たりしているけど。でも、この時期はリグレスの方かしらね。いえ、お父様がリグレスに滞在しているからティンチルの方にいる可能性もありますわね」
 と、ルイーズは少し迷っているようにそう言った。
「仲悪いんですか?」
 と、ミアは心配そうな顔で聞き返した。
「いえ、そんなことないですが、リチャード叔父様は…… 何て言うか自由人ですので。仲は悪くはないのですが、あまりお父様とはそりは合わないでしょうね」
「へー、私、会ったことないんですよね、どんな方なんですか?」
 ルイーズが答えずらそうに半笑いでそう言ったので、ミアが逆に興味を持ってしまう。
 一瞬ルイーズも困った顔をするが、
「あー、一言で言うと…… この中ではエリック様が一番近いかと」
 少しだけ考えた後、ルイーズはにんまりと笑いそう答えた。
「あっ…… 納得しました」
 と、ミアもそれで納得し、興味も消え失せた。
「ん? なんだ、俺は貴族じゃないぞ」
 と、エリックだけが照れたようにそう言った。
「なんだかんだで疲れてはいますし、ツチノコ探索隊も役目を終え解散しますか。目的は果たせましたしね」
 そう言ってミアは再び話しをまとめる。
「そうですね、ミア様のおかげです! これで私の未来も安泰です!」
 クリーネはそう言ってミアの手を取って目を輝かせた。
 色々と問題のある人間ではあるが、クリーネも悪人と言うわけでもない。
「とりあえず、ツチノコを事務の人に預けてきますか。後はまた明日以降にみんなで考えましょう」
 そのミアの言葉通り、ツチノコは学院の事務に預けられることとなる。

 そして、事件が起こったのは次の日の早朝だ。

「え? クリーネさんがツチノコと共に消えたんですか?」
 スティフィに起こされ、その報告を聞いてミアは驚いたように声を上げた、
「そうよ。今朝の早い時間に事務にクリーネの護衛達が現れて、ツチノコを回収していったらしいわよ。預けるときにもいたからね、怪しまずに返してしまったらしいのよ」
 と、スティフィは呆れたようにそう言った。
「えぇ…… で、クリーネさんは?」
「探してとっちめる?」
 ミアの問いにスティフィは笑顔で答えた。
 既に居場所は把握できているかのような表情だ。
「う、うーん…… でもどうして? お金には困ってなかったはずですよね? 護衛を雇っているくらいでしたし。それにクリーネさんの願いも、このままでも叶うはずですし」
 と、ミアは首をひねった。
「そうなのよね。私も腑に落ちないわね。そもそもクリーネの家は土地を貰えない代わりにかなりの額の現金を貰っているのよ。それこそ貴族じゃなくなっても数代は遊んで暮らせるほどのね」
 スティフィはそう言ってミアを見る。
 スティフィはミアの判断に従うとそう言っているようだ。
「調べたんですか?」
「まあ、一応ね。ミアに近づく連中は調べてるわよ。それにクリーネが嘘を付いているようには私にも見えなかったのよね」
 クリーネが嘘を付いているようにはスティフィには思えなかったし、そもそも裏表がある様な人間にも見えない。
 スティフィからすれば裏も表もない、いや、裏が透けるほど薄っぺらい人間なだけに、その言葉に嘘はないとスティフィも思っていた。
「確かに嘘はついているようには見えなかったですよね」
「それは、まあ、どうでもいいのよ。けど、クリーネがこんなことする理由がないのよね」
 少なくともこんなことをすれば、ルイーズの心象は悪くなる。
 リチャードの元で働くと言う願いも破断になる話だ。
「とりあえず、ルイーズ様に会いに行きましょうか。なんか知っているはずですよね」

 ミアとスティフィが食堂へ行くと既に難しい顔をしたルイーズが食堂で待っていた。
「ミア様。ツチノコの件、申し訳ございません」
 ミアの顔を見たルイーズはまず謝罪をして来た。
「い、いえ、ルイーズ様が謝ることじゃないですよ。でも、どうなっているんですか?」
 ミアとしては事情を知りたいだけだ。
 金貨は確かに惜しいが、今となってはあればいい位の感覚だ。
 ジュリーは泣き叫ぶかもしれないが。
「まだ何とも。現状では、クリーネの護衛がツチノコを回収し、クリーネと共にそのまま学院から去ったとしか」
 そう言ってルイーズも目を伏せた。
「でも、それ変ですよね? クリーネさんの願いってお金じゃないはずですし」
「そうなんですよね。私もその点は腑に落ちてません」
 それにはルイーズも同感のようだ。
 ミアだけでなく、ルイーズやスティフィの目も欺いていたとなると、かなりの演技と言うことになる。
「おいおい! ミアちゃん、ツチノコ盗まれたって本当かよ!」
 そこにエリックが食堂へと駆け込んでくる。
「ああ、エリックさん。今のところそんな感じです」
 そこで、自然とエリックの視線がアビゲイルに向かったので、朝食を食べているアビゲイルは、
「あっ、今回は私は何にもしてないですよぉ? そもそも関係してませんからねぇ?」
 と、口を開いた。
「あんた珍しく早起きね」
 と、スティフィが逆に怪しむ。
「そりゃ寝てませんからね。使い魔の外見が決まりそうなので夜通し設計図を書いていましたし。これ食べ終わったら寮に戻って寝るところですよぉ」
 そう朝食を食べながら喋るアビゲイルは確かに眠そうにしている。
「き、金貨! わ、私の金貨はどうなるんですか!」
 と、今度は泣きながらジュリーが食堂に駆け込んでくる。
「あんたのじゃないでしょう…… まあ、捕まえること自体はそう難しくないわよね」
 とう言ってスティフィはルイーズの目を見る。
 ルイーズもそれに対して頷いた。
「ですね。足取りは既に終えています。リグレスに向かっているようですね」
「よ、良かった」
 と、一旦ジュリーが落ち着きを取り戻した。
「今日は日曜日ですし追いますか!」
 と、ミアが提案する。
 その顔には、なんだか面白そうだから、と書かれているようだ。
「そうこうなくちゃな! マーカスにも声を掛けて来る!」
 と、エリックが食堂を出ていく。
 ジュリーも珍しくやる気のようだ。
「まあ、あの程度の護衛相手なら危険はないか」
 スティフィは護衛連中のことを思い出してそう言った。
 腕は悪くないが自分の敵になるほどの腕は持っていない、と。
「こちらからもマルタを同行させます」
 ルイーズがそう言うと、マルタがミアに向かい無言で頭を下げた。
「では、ツチノコ捜索隊、再始動ですね!」
 ミアが、ミアだけが少し楽しそうにそう言った。




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