それなりに怖い話。

只野誠

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ふえのね

ふえのね

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 少女は困っていた。
 夜一時過ぎくらいだろうか。
 ある時から外から笛の音が聞こえてくるようになった。
 小学生の時習っていたリコーダーのような笛の音が。
 それも音楽ではない。
 なにかを演奏しているわけではない。
 習いたてのリコーダーを適当に穴を抑えて鳴らしているだけのような、そんな音が夜中の一時過ぎに外から聞こえてくるのだ。
 しかも、少女の部屋は道路側の部屋ではない。
 隣も住宅地でだ。
 少なくとも今は子供が住んでいない、そんな隣人宅だ。
 少女は気になりはしたが、その笛の音の正体を確かめようとは思わなかった。
 少女はその笛の音が不気味に感じていたからだ。
 ただ寝不足に苦しんではいた。
 毎晩深夜の一時過ぎに笛の音で起こされるのだから。

 ある日、少女が手伝いで庭の掃除をしていると、隣の家のおばさんも洗濯物を干していた。
 軽く挨拶をしたと、少女はふと笛の音のことを思い出し、聞いてみた。

 隣人のおばさんは少し驚いた顔をした後、見ないほうがいい、と言っていた。
 隣人のおばさんはそう言いながらも、詳細を教えてくれる。
 なんでも夜中に塀の上を歩いている子供がいるらしい。
 その子供が笛を吹いているのだとか。
 問題はそれだけでなく、住宅と住宅の間の塀だ。
 明かりなどない。
 なのに、はっきりとその子供の姿だけは見えるらしい。
 男か女かもわからないが、関わらないほうがいい、とおばさんは最後にそう言った。

 少女はならそんなに詳しく教えてくれなくても、と考えつつも今度は逆に気になってしまう。
 少女の部屋からなら窓を少し開ければ、塀の上をちょうど見下ろすことができる。
 
 少女は怖くはあったが、今度は気になりだしてしまう。
 それに幽霊なんてものが本当にいるのであれば、一度くらいは見てみたいと。
 なにより少女の部屋は二階だ。
 塀の上に居ようと、少女の部屋までは届くことはない。

 少女は色々と悩んだ結果、雨戸の鍵をかけず、少しだけ隙間をつくりそこから覗くことにした。
 こっそり幽霊を見てやろうと、そんな思いからだ。
 
 少女は部屋を暗くして、ほんの少しだけ雨戸を開けて待った。
 笛の音は毎日聞こえてくる。
 今日も聞こえてくるはずだと。
 深夜一時を越えて少しした頃だろうか、遠くからでたらめな笛の音が聞こえてくる。
 
 少女は緊張してその幽霊が少女の部屋の前の塀の上に来るのを待つ。

 しばらくするとおばさんの言っていた通り、暗闇の中なのに青白く見える、そんな人影を見ることができきた。
 たしかに子供だ。
 ただ全体的にぼやけていて、どんな顔をしているのか、男なのか、女なのか、それもわからない。
 青白い子供の人影が縦笛を持って塀の上を歩いている、ということだけは何となく理解できた。
 それもおばさんの話を聞いていただけの先入観からかもしれないが。
 それほどあいまいなものが塀の上を歩きながらでたらめに笛を吹いていた。

 少女は息を殺してじっとそれを見つめる。

 それがなんなのか少女には全く理解できない。
 そして、ちょうどそれが少女の部屋の真下辺りをに来たときた。
 足もぼやけて見えないのではあるが、それが足を止めた。
 塀の上で止まった。
 笛の音も止まる。

 それが何かに気づいたように上を向く。
 その瞬間、少女は目が合ったと確信した。
 目など確認できないほどぼやけた青白い靄でしかないのに、目が合ったと、少女は確信した。

 少女はすぐに雨戸を閉め、雨戸の鍵をかけ、ガラス窓を閉めてその鍵もかけた。
 カーテンも閉じる。
 そして部屋の電気をつける。

 息が荒い。
 少女が息を整えていると「ア"ア"ア"ア"ァァァァァ」と言う声と共に雨戸を激しく叩く音がした。
 三度雨戸が叩かれた後、辺りは静かになる。

 少女は見るんじゃなかったと後悔しながら、電気をつけたまま朝になるのを待った。

 次の日、塀の上にはリコーダーが一本のっかっていたという。
 そのリコーダーはすぐに捨てられ、それ以来、夜に笛の音が聞こえてくることはなくなった。
 ただ少女はそれ以来、部屋の窓の雨戸をそれ以は降開けなくなった。



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