それなりに怖い話。

只野誠

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ろてんのえ

ろてんのえ

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 女は露店で小さな、ポストサイズくらいの絵を買った。
 小さい割に油絵具で書かれた絵で、少し不気味さもあるが、目に留まるような、そんな印象的な絵だった。
 赤とも紫とも取れる、その一色の絵具だけで、後は色合いの強弱と、油絵ならではの微妙な凹凸のみで表現された抽象的な絵だ。
 一見して不気味ではあるのだが、とても魅力的な絵であることも事実だ。

 女は自宅へ帰りさっそくその絵を額に入れて飾る。
 やはり少し不気味と感じつつも女は、その絵を気に入った。
 女の部屋には他にも、いくつかの絵が飾られている。
 その露店で買った絵は、女のコレクションの一つになったのだ。

 それからしばらくして、女のコレクションの絵のうちの一つが、黒く変色していた。
 女はちゃんと額に入れていたのに、と不思議に思う。
 カビているのでなく、焦げるような、そんな風に変色していた。
 仕方なく女はその絵を捨てる。

 何が原因かはわからないが、焦げてしまっているのなら、火がついてしまうかもしれない。
 そう思ったからだ。

 それから、またしばらくして、別の絵が黒く焦げたように変色しているのを女は発見する。
 理由はわからない。

 女が絵を飾っている場所に原因があるのではないか、そう思って飾る場所を別の部屋に変える。
 それでも、数日後にはまた別の絵が、その次の日には他の絵が、黒く焦げたように変色していった。

 そして、最後に残ったのは露店で買った小さな濃い赤紫の油絵のみだ。
 この絵だけは、黒く変色していない。
 油絵だからだろうか?
 女はそんな風に考えていた。

 その絵だけになりはしたが、その絵だけは黒く変色することもなかった。

 そこで、女はまた別の、今度は油絵を買って飾る。
 だが、その絵も飾った翌日には黒く焼け焦げたように変色してしまったのだ。

 そこでやっと女は気づく。
 この露店で買った名も知らない絵が原因なのでは、と。

 この絵が他の絵に嫉妬して、燃やしているのではないか、そんなことを考えた。

 女は絵を集めることをやめた。
 この絵に他の絵を燃やされてはかなわない。
 だから、女はその赤紫の油絵のみを、愛でることにした。

 ただそれだけの話だ。




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