それなりに怖い話。

只野誠

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かおのあな

かおのあな

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 少女は悩まされていた。
 幻覚を、恐らくだが少女は幻覚をよく見るのだ。

 なんの?

 それは人型をした何かだ。
 顔があるべき場所に、目や口、鼻といった物はなく、ただ黒い穴が開いている。
 その穴から黒い液体が滴っている。そんな人型の幻覚を、少女は度々見るのだ。

 その幻覚が少女に何かしてくることはない。

 ただ街を歩いているとき反対側の歩道から、学校で授業を受け取るときに廊下から、家にいるとき窓の外から、微動だせずに少女を見て来るのだ。
 無論、顔には穴しかないので、見ているかどうかは不明だが、少女にはその訳の分からない幻覚が自分を見ているのだと、そう思わせるなにかがあったそうだ。

 その幻覚は、朝だろうが夜だろうが、ふとした時に現れる。
 そして、すぐに消える。
 少女も精神的に参ってしまい、寝込むことが多くなった。

 少女が弱りベッドでふさぎ込んでいると、あの幻覚がとうとう少女の部屋の中にまで現れた。
 今まではある程度遠くに現れていたのだが、すぐそばに現れたのは初めてのことだった。

 少女はその時恐怖よりも怒りが上回っていた。
 たまりにたまったストレスが爆発したのだ。
 少女は奇声を上げ、その幻覚に手につくものを投げつける。

 物を投げつけられた幻覚は微動だにしない。
 いや、ぶつかった物が跳ね返ったのだ。

 その事に少女は気づかない。
 奇声を上げ、物を投げ続けた。
 すぐに少女の親が駆けつけて来る。
 少女の両親が少女の部屋に入った、その瞬間には幻覚は消えていた。

 少女の親は少女に何があったのかと問う。
 少女は幻覚がとうとう部屋の中に入って来たと叫ぶ。
 父親は困った顔をする。

 だが、投げられた物を片すために拾った母親は顔を青ざめる。
 少女が投げたであろう枕に、黒いぬっとりとした液体が大量についていたのだ。

 母親は枕を父親に見せる。
 父親もその黒い液体に顔を青ざめる。
 その液体はとても生臭く、磯の匂いを凝縮したような臭さがあった。

 それからも少女は幻覚に悩まされ続ける。
 だが、幻覚を見始めて半年たった辺りで、幻覚は少女の前に現れなくなった。

 少女には何も心当たりがない。
 少女にはない。




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