それなりに怖い話。

こむし

こむし

　休みの日、男は庭の手入れをしていた。
　久しく手入れをしていなかった庭だ。
　かなり荒れ放題となっている。

　大ばさみだよりに、まずは庭の藪になってしまった花壇を刈っていく。
　どれが育てていた花か、雑草なのか、もうわからなくなってしまったが仕方がない。
　一度全部刈り取って、そこから新しく種をまいて育て直すしかない。

　妻も自分も仕事で忙しく世話を長い間することができなかった。
　申し訳ない、とそう思いながら藪となってしまった花壇を手当たり次第に刈っていく。

　半日ほどの時間をかけてやっと藪になってしまっている花壇だけは綺麗にすることができた。
　これからは時間をかけてゆっくり庭の他の場所も手入れをしていかなければならない。

　男がそう思い、一息ついた時だ。
　急な腕の痒みに男は襲われる。
　虫刺されでもしたのかと思うが、そんな後もなくボリボリと掻いた後だけが腕に残った。
　しばらくすると両腕に何かは這いずり回るかのような痒みがやってくる。

　男もただ事ではないと、両腕を見ると、小さい赤く半透明で蜘蛛のような虫が男の両手に群がっていたのだ。

　男は悲鳴を上げて、右手で左腕を、左手で右腕を払う。
　ただいくら払ってもその小さな虫達を振り払うことができない。
　振り払ってもどこからかいつの間にかに、湧いて出てきているのだ。

　男は走って庭にある水道のある場所まで行き、その蛇口をひねる。
　そして両腕を水にさらす。
　それでやっとその小さな虫達はどこかへと逃げていく。

　男も落ち着き、何だあの虫は、ダニかなにかだったのかと、腕を何度も洗い流す。

　問題はその夜だ。
　男は全身がむずがゆくなる。
　全身を掻きむしるが、特に何もない。

　妻に見てもらうが特に虫刺されの跡もない。
　もちろん虫が男の肌の上を這いずり回っていることもない。

　庭の手入れで何かアレルギーでもある物をさわってしまったのかもしれない。
　明日、病院へでも行かなければならないかもしれない、と男がそうそもいつつ歯を磨くために鏡の前に立った時だ。

　男の全身をあの小さな半透明の赤い蜘蛛のような小虫が這いまわっているのだ。

　男は慌てて自分の腕を確認するが、そんな虫はどこにもいない。
　だが、鏡の中では小さな虫が自分の体を這いまわっているのだ。

　それらを手で払いのけ、男は洗面台にあったドライヤーを手に取り、熱風をその小虫に向ける。
　そうすると鏡の中の小虫も逃げ出していった。

　そうするとあれだけあった痒みがなくなる。

　男はそのことを妻に話し、多少お金はかかるが庭の手入れに庭師を呼ぶことを決めた。
　庭師にはその虫のことを伝えたが、庭師は信じていなかったし、そんな虫に出会うこともなかった。

　あの鏡の中にいた虫はなんだったかわからなかったが、それ以来そんな虫に出会うこともなかった。
　ただそれだけの話だ。