それなりに怖い話。

只野誠

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こうかした

こうかした

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 少女の帰り道に高架下を通る場所がある。
 薄暗い場所で人通りも少ない。
 少女もそこを通るときは少し緊張する。
 そんな場所だ。

 何かあるわけでもない。
 だけど、昼でも薄暗く陰鬱としたその場所には何かあるのではないか、そんな気がしてならない。
 ただ、上には線路が通っていて、薄暗くはあるが絶えず静かな場所というわけでもない。

 夕方、学校帰りに少女はその場所を通る。
 高架下の、少女がこれから向かう出口側に、人影が見える。
 逆光で完全に真っ黒な人影だ。
 その人影は高架下の出口、これから少女が向かう方向に立ったまま、まるで動かない。

 少女も何か変な人がいる。それくらいにしか思わず足を止めた。

 けど、その人影はまるで動かない。
 ただ、この高架下を通らなければ次の駅の近くまで歩かないと線路を超えられないのだ。
 少女は意を決して、再び足を動かそうとしたときだ。

 少女の足が動かない。

 足を踏み出そうとしても、まるで動かない。
 どんなに力を込めて、足を動かそうとしても震えるばかりで歩き出すことはない。
 まるで歩道に靴が縫い付けられたかのように足を動かすことができなかった。
 少女が慌てて、どうにかしようとしても足は動かない。
 足元を見ても何があるわけでもない。
 その場から、ただただ動けないのだ。

 少女は自分で色々した結果、動けなかったので助けを呼ぼうとして視線を前に向けた時だ。
 高架下、その出口にいたはずの真っ黒い人影がゆっくりと少女に向かい迫ってきている。

 それも歩くというよりは、そのまま空中を移動すると言ったような感じでだ。
 明らかに人間の移動方法ではない。

 しかも人影に見えていたそれは今や炎が燃えているかのように揺らめている。

 少女は悲鳴を上げそうになったが、今度は声も出ない。
 せいぜい喉から息をスーッ、スーッと吐き出すのが精一杯だ。

 そこで初めて少女は自分が金縛りにあっていると気づく。

 立ったまま、視線も外せずに、迫りくる黒い炎が燃えるかのような人影が自分に迫りくるのを待つことしか少女にはできなかった。

 動けない中、絶望と恐怖で感情をぐちゃぐちゃにしている少女の前まで、それが辿り着く。
 人影は少女のすぐ目の前に来ても黒い人影だった。
 闇が人の形になって蠢いている。
 少女にはそう思えた。

 その闇が少女に手を伸ばす瞬間。
 高架下、その上を電車が物凄い轟音と共に通り過ぎていく。
 その轟音と共に、闇は少女の目の前で、それこそ闇に溶けるように消えていった。

 その後、少女の足は動くようになったが、少女は腰を抜かし、しばらくその場所でへたり込んでいた。

 少女が立ち上がった後、高架下を通らず次の駅まで行って、線路を渡って帰った。
 それは、その日以来ずっとだ。
 ただ、それだけの話だ。




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