それなりに怖い話。

只野誠

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くらいへや

くらいへや

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 その日は雨だった。
 そのせいか、少年が家に帰って自分の部屋に行き部屋の電気をつけても部屋が暗く、いや、家全体が暗く感じていた。

 どこが? と聞かれれば少年は答えられない。

 まだ昼過ぎだというのに、部屋はどこか薄暗かったのだ。
 気のせいかもしれないが、夜の家よりもどこか薄暗く少年には感じてしまっていた。

 少年は自分の家なのにどこか不気味さを感じずにはいられない。
 なにか、化物や幽霊といった超常的な存在が家に潜んでいるように思えて仕方がなかった。

 しかも、今、家には少年しかいない。

 共働きで少年の父も母も夕方か夜になるまで帰って来ない。
 少年は自分の部屋に引きこもり、親たちが帰ってくるのを独りで待っていた。
 そう、この家には、今、少年独りのはずなのだ。
 
 そのはずなのに、誰かが廊下を歩く音が聞こえてくる。
 ゆっくりと一歩一歩、廊下を歩く音が聞こえてくるのだ。

 少年も足音に気づく、親のどちらかが帰って来たのか、そう思いはしたがまだ夕方にもなっていない。
 おかしいと思いつつも少年は部屋の扉を開けて廊下を見る。

 そこには誰もいない。
 ただ薄暗い廊下があるだけだ。
 
 少年が廊下を見てキョロキョロしていると、遠くの方、正確には少年の部屋があるのは二階で、階段を降りた一階から、バンッとドアを激しく閉める音が聞こえてくる。
 やはり誰かが帰って来たのだと、少年は自室を飛び出し、一階へと駆け下りていく。

 雨の日で日が入らない一階はとても薄暗い。
 そして、誰もいない。

 けれど、ドアが閉まる音がしたことだけは事実だ。

 少年は一階のトイレのドアを開ける。
 誰もいない。

 和室の障子を開ける。
 誰もいない。

 台所の引き戸を開ける。
 誰もいない。

 ダイニングを見る。
 誰もいない。

 一階には誰もいない。
 そこで少年は二階に戻り、二階のトイレのドアを開ける。
 誰もいない。

 父と母の部屋へ行き部屋の中をのぞいてみる。
 誰もいない。

 父の書斎を確認する。
 誰もいない。

 お風呂場へ行って中を確認する。
 誰もいない。

 最後に自分の部屋へ戻り確認する。
 すると、そこには雨に濡れた白い服を着た背の高い女性が少年から見て後ろ向きに立っていた。

 少年が、誰? と声を掛けると、その女性はゆっくりと振り向く。
 そこで少年の意識が途切れる。

 少年は病院のベッドで目を覚ました。
 少年の母親が帰って来た時、少年は自分の部屋の前で泡を吹いて倒れていたそうだ。

 少年が何を見たのか。
 それは少年自身ももう思い出せずにいる。
 世の中には思い出さないことが良い事もある。






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