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結婚生活③
離縁届
しおりを挟むシャルロット、と呼ぶ声が聞こえた。
虚ろな瞳をしたシャルロットを心配げに見つめたのは、夫であるゼイルドだ。
「ーー子供は?」
つい先程まで、腹が裂けるような痛い思いをしていた。新たに誕生した命の産声を聞きながら、私は眠りについたはずだった。
「私の、赤ちゃんは…?」
「…元気だよ」
「ど、どちらです?」
性別を聞く前に、気を失ってしまった。
出来れば女の子であって欲しいと、そう静かに願っている自分がいる。
「男だ」
「ーーえ……」
男の子?つまり、イルタナー伯爵家の、立派な跡取りになるということだ。喜ぶべきことなのだと思う。
「…あまり嬉しそうじゃないな」
「そんなこと……嬉しい、ですわ」
そうか、とゼス様が寂しそうに微笑む。
仕事があるから、と謝りながら部屋を出ようとしたゼス様が思い出したように言った。
「お前に、俺からの祝いだ。よくやってくれた、元気になったら開けてくれ」
テーブルの上に置かれた封筒を横目で見て、とりあえず頷く。それが何なのか分からなかった。けれど出産祝いならきっと、素敵な物に違いない。
「ナカバ」
近くで赤ちゃんを抱きながらにこにこしているナカバに笑いかける。
「はい、シャルロット様」
「机の上の封筒を取って頂戴」
「旦那様からの祝いものですね!」
ナカバが差し出してくれた封筒の中を見る。手紙かしら?
それが何であっても、嬉しいはずだった。
彼から貰った物なら、なんだって嬉しいはずだったのに。
「シャルロット様?手紙ですか?」
ニヤニヤとしているナカバが、段々と心配そうな顔になる。
「シャルロット様?お顔が真っ青にーーシャルロット様!?」
そこに入っていたのは、手紙でも何でもない。
ただ一枚、ゼス様の記入がされた、離縁届だった。
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