さぁ、離縁して下さいませ。

伊月 慧

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結婚生活③

相談

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「奥様、おはようございます」

 ペコリと頭を下げたバロンに、シャルロットはふと考えた。バロンはもう長年この家に仕えている。自分よりもゼス様について詳しいだろう。
 それに自分よりも長く生きているバロンになら、分かることがあるかもしれない。

「おはよう。…あの、バロンさん」
「奥様、私のことはどうか呼び捨てに。私は一人の使用人でございます」
「ご、ごめんなさい。バロン、お願いがあるのだけれど」
「何でしょうか?」
「…ゼス様は…」
「お出掛けになりました。帰りは遅くなるようですが」
「そう…」

 また、あの人のところ?病院へ行っているの?
 忘れたなどと口で言っておきながら、会いに行くの?

「それで、願いとは何でしょうか」
「えっと…よければ、なのだけれど」

 相談に乗って欲しいので、私は午後にバロンと茶をすることを約束した。




「それで相談とは、旦那様のことでしょうか」
「えぇ、…フィリアさんに会いに行ったとメイドが話しているのを聞いてしまって」

 その瞬間に、バロンの顔が固まる。伯爵家のメイドたるもの、勤務中に…勤務中でなくとも、そんなことを口にするべきではない。

「先に言うけれど、メイドを処罰する気はないのよ。悪気があったわけでないもの」
「…奥様はお優しすぎます」
「えぇ、そうかもしれないわね。…けれど、ゼス様には優しくなれない」
「と言いますと?」
「嬉しいのよ、私のために足を運んでくださって、私のためを思ってプレゼントをくださるのも嬉しいわ」
「……」

 バロンは何も言わず、黙って聞いている。それがシャルロットには話しやすかった。心の底に貯めていたものを、吐き出すことが出来たのだ。

「ゼス様がメイドと話しているのを見て、モヤモヤしてしまうの。胸の辺りが痛くて、締め付けられて、苦しいのよ。どうしてか分からないの」
「……あまり無理はなさらないで下さい、お腹の子に障りますから」
「分かっているわ、けれどどうすればいいのか分からないの。旦那様が本当に私の生んだ子供を愛して下さるかどうか」
「ゼイルド様は昨日、奥様に部屋を追い出された後、しばらく部屋の前で落ち込んでおられましたよ」
「えっ…」
「女心に疎いのは自覚していらっしゃいますので、気付かぬうちに何かしてしまったのではないか?と、必死に考えておられました」
「そ、そんなことは……」
「フィリア…そう、彼女のことが気になるのなら、ゼイルド様に直接聞けばよいのです」
「この胸が締め付けられるのは?」
「奥様はもう分かっていらっしゃるのでは?答えを、自分でとうに見付けられたのではないでしょうか」
「えっ?」
「…ゼイルド様は鈍感なので、言うまで気付きませんよ」

 そう言って笑うバロンに、ふと聞いてみる。

「そういえば、貴方はゼス様を名前で呼ぶのね」

 普通なら『旦那様』だろうに。

「…そうですね。旦那様と呼ぶのも、もうじきかもしれませんね」
「? そうなの?」
「えぇ。十分、成長なさいましたから」

 よく分からないけれど、バロンは「では仕事が残っておりますので」と言って帰っていった。
 気持ちの、モヤモヤの正体。
 嫉妬、なのだろうか。
 …そうだとしたら、ほんの少し、恥ずかしい。
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