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結婚生活③
勘弁してださいーバロン
しおりを挟む私の名前はバロン。平民出身なので名字はない。
私が今イルタナー伯爵家の執事長をしているのは一重に、亡きイルタナー前伯爵、旦那様の恩情のおかげである。
あの方には感謝してもしきれない。
だから私は、あの方の遺言に背くことはしない。
「どうか、ゼイルドを見届けてやってくれ。あの子は可哀想な子だ。私のせいで、道を誤ってしまった」
過労。ゼイルド様がしたことへの、代償。
単に目の前で女が自殺を図っただけなら、よかった。こんな言い方をすれば悪いかもしれないが、ゼイルド様が殺したとしても、それは重要ではない。重要なのは、大切なのは、その平民の女に伯爵家次期当主が想いを寄せていたということだ。
私は旦那様の遺言には背かない。
だがこれは言わせてほしい。
勘弁してください。
「何故お前がシャルロットと茶を飲む必要があるのだ」
帰った来るなり尋問が始まった。わざわざゼイルド様にチクったメイドを小賢しく思う。とりあえずは解雇だ。
「ただ相談に」
「相談に乗るのは夫である俺の役目だ!それで?何を話していたというのだ!」
「いえですから、ただ少し話を…」
仕事で疲れていたくせに、こういう時だけ力を振り絞るなんて。面倒だな。
「だから何の話だと聞いているのに」
私もこれは仕事ですからね、守秘義務というものがあるんですよ。雇い主こそはゼイルド様ですが、シャルロット様ーー奥様は私にとっての主人。売るわけには参りません。
「それは奥様にお聞きになってください」
やれやれ、と思う。
こんなことではこの人を旦那様と呼ぶ日はしばらく来ないだろう。そう考えて私は今日で何度めになるか分からないため息をついた。
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