さぁ、離縁して下さいませ。

伊月 慧

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結婚生活③

女は度胸

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「ゼス様、今よろしいでしょうか?」

 完治したシャルロットは、ゼイルドがいるはずの執務室の前に立つ。右手には、茶封筒に入った離縁届け。

「シャルロット!?」

 声を聞いて驚いたのか、慌てたように部屋から出てきたゼイルドが目を丸くさせる。

「どうした?もう体調はいいのか?」

 そうか。会うのはあれ以来だった。

「えぇ。今、お仕事を?」
「あ、いや。もう終わるが」
「そうですか。では部屋でお待ちしてもよろしいですか?」
「いや、話があるならすぐに…」
「いいえ、先にお仕事を終わらせて下さいませ。邪魔をしたいわけではありませんので」
「邪魔など…」

 なんだかんだ言いながら机に向かう彼の姿を確認してから、部屋の端に置かれた椅子に座る。
 時計のカチ、カチ、と鳴る音が何とも穏やかで、この時間が永遠に続けばいいーーそんなことを考えながら、脳内で言うべきことを纏める。
 やっぱりやめようか。そんなことを考えるけど、どうせいつかは言わなければいけないこと。先延ばしにした所で意味などない。
 ちゃんと言えばきっと、受け止めてくれる。
 女は度胸ね。そんなことを考えながら、ゆっくりと瞼を閉じた。





「シャルロット」
「……?」

 ぼんやりとした視界に映るのは、ゼス様。
 お仕事終わったのかしら。

「今終わった。遅くなって悪かったーー眠いのなら、明日に聞こうか」
「あら、寝てしまっておりましたわ」

 寝顔を見られたのかしら、なんて考えると頬がほんの少し熱くなる。

「…あの、いえ。今、聞いて頂きたいのです」

 明日になれば余計に言い難くなる。そう思ってのことだが、ゼイルドは自嘲気味に笑った。

「あぁ。それのことか」

 茶封筒を見て、何とも言い難い顔をする。

「書いてきたのか」
「……何か、勘違いをなさっているようですが」
「…勘違い?」
「その勘違いを訂正させて頂く前に、一つお聞きすることがあります」
「な、なんだ?」

 女は度胸。度胸、度胸。大丈夫、多分。
 すうっと息を吸って、吐き出しながら言葉を紡ぐ。

「どうしてフィリア様にお会いになったのですか」
「……フィリア?」

 何のことだ、と言わんばかりのゼス様にほんの少しの苛立ち。

「私が熱を出して部屋に篭っている間、お会いになったそうですわね」
「はぁ!?会っていない!」
「…え?」
「何だ?その話は!会うわけがないだろう!どうしてお前が熱を出している時に、わざわざ他の女の所へ行くんだ!」
「……ですが、メイドが旦那様はまた病院に、と…」
「病院?ーーあぁ、あれか。お前の熱を下げるのに一番良い薬を出すように、知り合いの病院まで足を運んだが」

 ……恥ずかしい。勝手に嫉妬してましたわ。

「…そうですか。……それから、コレのことですが」

 茶封筒から離縁届けの書類を出し、目の前に突き付ける。

「私の好きにしていいということですわね?」
「…あぁ。それが、出産祝いだ」

 なるほど。…こんなものが、出産祝いになると思ってるのですか、貴方は。とんだ鬼畜ですわね。

「では、こうすることに致します」

 ビリリと目の前で真っ二つにしてやる。ゼス様、そんな間抜けな顔をなさらないで下さいませ。

「これが私の答えです」
「…え」
「それから出産祝いは他のものがいいですわ」
「ほ、他のもの…とは…」
「そうですわね。…指輪が欲しいですわ。ゼス様とお揃いの」
「……傍に、いてくれるのか」
「少し違いますわね」

 人生で初めての告白。
 ユーリお兄様のあれは、多分憧れ止まりだったのだろう。恋が、こんなにも苦しいものだなんて知らなかった。こんなにも素敵なものだとも、こんなにも辛いものだとも。
 けれどそれは初めから私の選んだ、道だから。

「貴方が好きです。私が、…貴方の傍にいさせて下さいませ」
「っ…シャルロット…!」

 久しぶりのゼス様の体温は温かくて、心地よくて。これが夢ならば、覚めないで欲しい。そう願いながら、また、瞼を閉じた。
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