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しおりを挟む「お嬢ちゃん」
にっこりと胡散臭そうに笑って近付いて来たのは、明らかに賎民の形をした男達だった。
「なにかご用?」
レミーアが無視して歩こうとしていたことにも気付かず、アスラーナは振り返ってしまった。
「君らどこから来たんだ?ここら辺は俺らの縄張りなんだ、そう簡単に入って来られちゃ困るんだよなァ」
気付けば二人して迷子になり(アスラーナが近道と突っ走った結果だが)、こんな薄暗い路地に出てしまったのだ。
異様な空気は感じていたが、まさか座り込んでいる人々が俗に聞く『賎民』だとは知らなかったのだ。
平民よりも社会的地位が低い彼らと会う機会など、そう滅多には無い。
まずあり得ないはずだ。だからこそ彼らは見かけぬあからさまに育ちが良さそうな少女に近づいたのだが。
「ナワバリ?」
「そう。通行料、置いて行きな。そうしたら悪いようにはしねぇからよ」
正直、言葉が聞き取りづらかった。彼らの口調は所謂庶民の言葉なのだろうけれど、上流階級の言葉しか学ばず耳にしない少女達は懸命に言葉を拾っていた。
「通行料なんて、お金なんて無いわよ。必要なのなら私の屋敷まで取りに来て頂戴」
「アスラーナ、貴女なに言ってるの!?通行料なんてそんなもの必要なわけないでしょう!」
レミーアが信じられないといった風に声を荒げる。けれどそれをまるで世間知らずと馬鹿にされたような気持ちになったアスラーナはふんっと鼻を鳴らした。
「ナワバリとやらに通行料が必要なんでしょう?ならそれを取りに私を屋敷まで送りなさい」
「…いやぁ、取りに行く必要はねぇよ?お嬢ちゃんのその髪についてる飾りだけでも十分な値段だろぉ?」
「こ、これ?」
アスラーナは咄嗟に庇うようにそれを隠した。だがやはり幼子、馬鹿なことを口走るものである。
「だ、駄目よ。これはお父様が私の誕生日に皇帝国からの献上品を頂いて来たのだから、失くしたなんて知られたら陛下に顔向け出来ないわ」
「皇帝国の献上品だって?陛下と言ったか?」
「おいおい、思ったよりいい所の娘じゃねぇのか」
男がざわめき出したのを見て、レミーアは咄嗟に危ないと感じた。けれど四方八方に塞がれている今、逃げることなど不可能に近い。
もう空も暗くなってきた。普段なら屋敷にいるレミーアが居ないのだ。使用人達は探しているだろう。念のために部屋に書き置きを残して良かったと心底思った。
大まかにはアスラーナと二人だということ、街に出るけれど一定の時間になっても帰って来なかったら多分迷子になっているということ。
ーーけれど誰がこんな路地に迷い込むと思うか。
「なぁお嬢ちゃん、どこの屋敷のご令嬢ってんだ?」
「私?私はミドルトン公爵家の者よ」
どうして名乗るの、と焦るレミーアを傍目に、この時私は思い上がっていたのだ。
ミドルトン公爵家の名を出して無礼な行為をするはずはない、と。
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