私のお猫さま 25歳を迎えて猫又さまになりました

月見こだま

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番外編

02:神崎とルナ7(終)

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 ルナはぷるぷると震えていた。それでも、小さな体を必死に奮い立たせて、決して横たわろうとはしなかった。横たわったら動けなくなる。それを理解しているかのように、顔を上げてか細く鳴き続ける。

「るな、るなっ」

 美奈子は泣きながら、よたよたと歩き続けるルナを呼び続ける。触れて動きを止めようとしないのは、止めてしまったらそこで終わるのだと理解しているかのように。
 口をあけて、苦しそうに声を絞り出し続ける。舌を出して、吐息の間に、短い悲鳴のような声。

「ルナ、――っ」

 ごめんね、と反射的に口走りそうになり、唇を噛み締めた。食事をさせないことが、延命する唯一の方法だった。しかし、ルナの姿を見て、その処置をしないと決めたのは神崎だ。『生きる』ために『食べる』ルナを、止めることをしたくないと思ったからだ。そして、苦しませないという一点において、もう一つあった選択肢は

(――それは絶対にルナが望まなかった)

 神崎は頭を振り、その選択肢を改めて振り払った。獣医師として、飼主として、その選択肢だけはあってほしくないという、神崎豊という人間の願いもあった。

「――ルナは強い。本当に、」

 ルナが、その声に応じるように神崎を見た。小さな顔を必死にもたげ、空色の瞳が神崎を映す。

「ルナ。君の本当の願いは何だったんだろう。クロのようにお喋り出来たならなぁ……」

 ぼろ、と神崎の頬を涙が伝う。会話が出来れば、だなんて。

「ぱぱ」

 美奈子が神崎の腕にぎゅうっと抱き着く。
 言葉もなく、腕に抱き着いたまま、ルナを見守る。

 ルナの小さなしっぽが小さく揺れた。誰かを呼ぶように、ゆっくりと、そして。

『――みぃ』

 気力を振り絞るように、一声鳴いた。



 それは雪玉のような子猫の願いが溶ける直前。

 インターフォンが鳴る。そこには、神谷とクロの姿。クロは『呼ばれた』と端的に返事をした。願いが歪んだ形で実現する。
 それはあってはならない奇跡だった。








 吸い込まれそうな空色の瞳から視線を外すと、クロは『一言で表すなら』と言った。

「ルナはわしが知る中で最も意思が強い」
「何それ?」
「言葉通りだ」
「えぇ……何それ」

 桜は脱力したように肩を落とす。詳しい話を求めた訳ではないが想像していたより端的でがっかりしたとでも言うように。しかし、クロから全てを話すべきでないというのは事実だ。桜は今後、知る由もない。知ることもない。


 ルナが願ったのは、





 ――普通の猫として生涯を終えたい。



 雪玉のようだった猫は大きくあくびをし、ふわりと尾を動かす。ゴロゴロと喉を鳴らして、くるんと腹を見せた。




END



あとがき

神崎とルナを最後までお読みいただきありがとうございます。
本来クロと神崎の会話をもう少し入れる予定でしたがそちらはまた別の番外編として書こうかな、と思います。
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