クリエイタースキルを使って、異世界最強の文字召喚術師になります。

月海水

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第5話 これって最強能力かもしれない

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「三十分……?」

 目の前のレーナが口にした言葉を信じられず、俺は思わず聞き返した。

「三十秒の間違いじゃなくて?」

「はい、三十分です。やだなあ、三十秒なんてこの世界の最強クラスの文字召喚術師さまでも無理ですよー」

 背中に冷たいものが走る。

 それは自分が手にした能力の強大さをうっすらと認識したからだ。

 そうなると、もう一つ確認しておかないといけないことがある。

「ちなみに最強クラスの文字召喚術師だと、その召喚にどのくらいの時間がかかるんだ?」

 そう問うと、レーナは顎に人差し指を当ててうーんと考えてから、

「これは初級召喚ですから、恐らく十五分くらいかと」

 と答えた。

「十五分……」

 かなりの時間だ。それに彼女は初級召喚と言った。

 ということは、そこまで巨大なモンスターが召喚されるわけでもないだろう。

 それに引き換え、俺の召喚術は――。

 そこまで考えてから、俺はあることに気付いた。

 紙資料による文字召喚には成功したが、俺が自分で紙に書いて召喚したことはまだないのだ。

 もしかしたら、最初のは転移時のボーナスみたいなもので、自力で召喚する時には、同じく顕現待ちがあるのかもしれなかった。

 うん、きっとそうだ。

 そうじゃないと、手に入れた能力が強力過ぎて、持て余してしまう。

 それこそ、世界征服とか企むことさえ可能である。

「シュウトさまが高位の文字召喚術師さまだとしても、120体のアンデッドを召喚するなんて、きっとすごく時間がかかったんですよねっ。本当に尊敬します」

 そう言ってレーナは笑う。召喚に一秒もかからなかったことを告げたら、またたいそう驚愕した表情を浮かべることだろう。

「こりゃ、一回試しておかないとダメだな……」

 文字召喚。試してみよう。

 自力で召喚術を発動した時にどうなるのか、俺はそれを知っておくべきだ。

 何か書くものを探して、ポケットなど探すが、メモも筆記用具も見つからない。

「……何やっているんですか?」

 そんな俺の様子を、レーナは不思議そうに首を傾げて見ていた。

「俺も文字召喚をやってみようと思うんだが、書くものがなくてな」

「へ? 高位の文字召喚師さまなら頭で念じて、魔法記述具を出すのは簡単ですよね?」

 レーナの言う魔法記述具とは恐らく、さっき何もない場所にいきなり出現した羊皮紙と万年筆のことだろう。

 確かにいつでも筆記用具を呼び出せるということは、文字召喚師にとってかなり大事なことである。

 しかし、もちろん俺はそんな芸当を使える記憶がない。
 
 右手をかざして、念じる。簡単に出来たら苦労はしない――。

 一応かざしてみた俺の右手に、いつの間にか万年筆が握られていた。

「…………」

「あの、大丈夫ですか……?」

 もはや苦笑いを浮かべた俺を見て、心配そうにレーナが訊ねてくる。

「うん、大丈夫。俺もいよいよ普通の人間じゃなくなったんだなと思っただけだから」

 やはり、異世界転移時のボーナスは文字召喚師としてのスキルだったらしい。

 問題はその能力のレベルがどれほどのものかだが。

 魔法記述具と呼ばれた万年筆と羊皮紙だが、どちらも普通のものとは違う点がある。

 まず、万年筆はとても軽かった。ほとんど重さを感じない。これならほぼ時間のロスを生むことなく、文字列を記述できるだろう。

 そして、羊皮紙。こちらは俺が万年筆を近づけた時だけ、書きやすいように一枚の板のような硬さになる。

 なんだか違和感を覚えて羊皮紙を持っていた左手を放すと、魔法の羊皮紙は普通にその場に浮いた。どうやら右手だけでも記述可能になっているらしい。

「基本はわかった。よし、じゃあやってみよう」

「楽しみですっ。期待してますね!」

 レーナは目を輝かせて、むむむ~と俺を凝視している。

 ここまで注目されて、失敗したり、地味な結果だったりしたらどうしよう……と若干心配になる。

 初めての自力召喚なのだから、派手なモンスターを出したい。どうせなら、飛びきりの奴を。

 俺は今まで作ったモンスター設定を思い出そうとして――そして、やめた。過去に作ったモンスターをわざわざ呼び出す必要はないのだ。

 ただの仕事の一環として生み出したモンスターたち。

 彼らには愛着もあるが、辛い現実を思い出すことにもなる。
 
 暗黒の民たちとはすでに仲良くなったのでいいが、新しく過去のモンスターを思い出すのはやめよう。

 俺はこの世界で、自分のために新たな創作をするのだ。

 そして、俺は羊皮紙に文字記述を始めた。

 高速で筆は進んでいく。頭の中の妄想が想像に、そしてそれは現実へと変わっていく。

 拠点には暗黒の民ばかりいて雰囲気が重いので、光の存在を生み出そう。

 アイディアが生まれ、形になっていく。

「よし、できた!」

拠点きょてん守護しゅごする天使てんしよく』S級
 拠点全域に守護の光をもたらす絶対的存在。白い二本の翼が本体であり、拠点に近づく敵対者を察知、攻撃する。遠距離攻撃型。高探知能力。博識であり、情報収集に長ける。

 レーナのやり方を踏襲し、俺は書き終えた文字列を素早くなぞる。

 すると、文字列は白色の輝きを放った。レーナは羊皮紙を覗き込むと、感嘆の声を漏らす。

「わあ、すごいですね! 見たことのないモンスターですっ! これはかなり顕現待ちがありそう――」

 彼女がその言葉を終える前に、羊皮紙全体が白色に光り出した。

 それはあの紙資料で文字召喚を行った時と同じだ。

 その様子を見て、レーナの表情が驚愕に変わる。

「え、えっ!? これってまさか……」

 白色の光が一際大きく輝き、そして、高速で収束した。
 暗黒城の天井を突き抜けて、白色の太い光柱が天から降り注ぐ。

「ま、待ってください。そんな、そんなことって――」

 暗黒城の窓の外。陽が傾きかけた空が眩いばかりに発光する。

 そして、その光が止んだ時、拠点上空は神々しい光に包まれていた。

「やっぱり、顕現待ちなんて俺の能力にはないらしいな。レーナ、あれが『拠点を守護する天使翼』だ」

 上空に浮かぶ二つの巨大な大翼。片翼で五メートル以上ある絶対的存在。
 
 それが拠点を見守るように上空に浮かんでいた。まるで、神の如く。

「あ、あんな高レベルモンスター、高位召喚術師さまが十人がかりでも二週間はかかるんじゃ……」

 少し打ち解けてきたはずのレーナの顔が再び強張っていた。

 どうやら俺が記述した文字列を見ても、これほどのものが出てくるとは予想がつかなかったようだ。

「怖いか?」

 俺はレーナと目を合わせずに訊く。

 なぜなら、俺自身も震えていたからだ。

 こんな規格外のモンスターを一瞬で召喚出来てしまった自分に怯えている。

 強張ったレーナ、だが彼女から帰ってきた答えは予想外のものだった。

「怖い、です。でもっ、シュウトさまがお優しい人なのは話をしてよくわかりました。だから……わたしを弟子にしてくださいっ!」

「は?」

 意味が分からず、俺は間抜けな返事をしてしまった。

「だって、恐らくシュウトさまは世界最強の文字召喚術師さまですよ! なら、わたしはあなたのもとで学びたいです。召喚宮殿にも制度上、お師匠にあたる人はいるんですけど、雑用ばっかり押し付けてきて、何も教えてくれないんですっ。だから、この暗黒城にわたしを置かせてください!」

 俺は熱意のあるレーナの言葉に、「あー、わかったよ……」と返すほかなかった。

 そして、それは今後の俺の生活を大きく左右することになるのだった。
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