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第16話 一握の慈悲も残すな
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村の中は緊張に包まれていた。
村の中央の通りに村人たちが密集している。その村人たちの壁の間を村の入り口の方へと抜けると、そこにはずいぶんと物騒な集団が陣取っていた。
「なあ? だから言っただろ? オマエらはこのオレ様の前には無力。帝国内での地位も高い文字召喚騎士であるオレ様、フェガジア・アーガルトの足元に這いつくばるのが似合っているのさ」
一番目立つのは、銀色の鎧で全身を身に纏い、大きな剣を持った男。
茶色の長い髪は肩よりも下まで伸びていて鬱陶しい。それでいて、美形の顔立ち。女性にはモテそうだ。
彼の右足の下には、踏みつけられた警備兵の姿があった。顔から血を流し、微かな呻き声を出すことしかできないようだ。
フェガジア・アーガルトと名乗った騎士の背後には、大量の兵士が控えている。五十人はいるだろう。
それぞれが甲冑と剣を装備しており、その姿は完全に戦に赴くためのものだ。
「おい、あんた。帝国の人間か?」
怯える村人たちの前に一人踊り出た俺は、アーガルトに向けて問う。
「そうだ。帝国軍の王国侵略先遣隊、オレ様がその隊長さ。オレ様はお前たちのようなただの村人とはわけが違う選ばれた人間。聞いて驚け、俺には文字召喚の才能があるのだ!」
アーガルトは自信満々にそう言い放った。
……は? いやいや、そんなこと自信持って言われても……。
「ん? その反応、もしかしてお前、文字召喚を知らないのか? 仕方ないな、素人。教えてやる。文字召喚というのは、この大陸で使えるものがごく少数しかいない、神に選ばれた者のみが行使できる高度魔術の一つなんだよ! つまり、お前とオレさまでは、人間としての価値がまるで違うということだ!」
色々と新事実が判明した気がするが、それどころではない。
まずは目の前の敵と話し合いをしなくてはならないのだ。
「その、アーガルトさん、でしたっけ? まずは対話をしませんか? お互い話せばわかるはずですよ」
こういう人間相手には、とことん下手に出ておくべきだ。
自分は偉いと信じ込んでいる人間は、相手に下手に出られることで、自分の立場が上であるということが承認されたと錯覚し、気分が良くなって、交渉のテーブルにつくことがよくある。
だが、アーガルトはそう簡単にはいかなかった。
彼は俺の言葉を聞くと、皮肉気に眉を歪めて。
「対話ぁ? なにを言ってるんだ? お前とオレ様では価値が違うと言ったろ。雑魚は雑魚らしく――」
彼はふっと立ち上がると、足元の警備兵を一瞥し。
「こうして、オレ様に蹂躙されていればいいんだよッ!」
無抵抗の警備兵の顔面を思い切り、尖ったブーツで蹴り飛ばした。
「ぐはぁああああああッ!!!!!!」
警備兵の絶叫だけが村の入り口に響く。
ぎりっ、と俺は奥歯を噛み締めた。
どんなに腹立たしくても、ここで苛立ちを見せたらダメだ。
平和な日々を送るにはまず、対話。
その方針を崩すわけにはいかない。
アーガルトは警備兵の顔面を靴底で踏みつける。
何度も、何度も、顔が潰れるまで足を振り下ろす。
俺の両の瞳が熱くなる。
目を見開き、怒りの感情が波打ち出す。
しかし、ダメだ。両者の相互理解のためには対話が――。
だが、俺や村人全員が状況を静観している中、一人の少女がアーガルトの前に飛び出した。
「ダ、ダメですっ! それ以上、その人に意地悪しないでくださいっ!」
涙目でそう訴えたのは、よく見知った少女。
バカな奴だ。こんな時も、あいつはバカなことをする。
アーガルトの正面に立ち、彼を睨みつけているのは俺の弟子、レーナだった。
「なんだよ、小娘! オレ様に命令するなッ!」
一度、拍子抜けしたように真顔になったアーガルトだが、その一秒後、顔を紅潮させて極度に激昂する。
そして、鍔に入ったままの剣でレーナのことを思い切り殴りつけた。
「うぐ……っ」
その一撃は彼女の腹部に直撃し、彼女は悲鳴を上げることもなく、その場に崩れ落ちる。
アーガルトは倒れ込んだレーナの髪を掴み、彼女を無理やり起こすと、そのままゴミを捨てるように地面に叩きつけた。
俺は両手を握り込んでいた。強く、皮膚が破れるほどに強く。
俺は一度、静かに目を閉じた。
レーナ、お前はバカな奴だよ。
――だけど、そのバカな行動はきっと、この場で一番正しかった。
仕方がない。
対話だけでは解決しないこともある。
俺は目を強く見開いた。据わった両眼でアーガルトを睨み、彼に向けて全力で駆け出す。
だが、それに気づいたアーガルトは右手の指をパチンと鳴らした。
それと同時に、上空から何かが猛スピードで接近してくるのがわかる。
見上げる。すると、そこには鳥の頭部と翼を持ち、蛇の鱗に身を固めた人型モンスターの姿があった。
しかも一体ではない。その数、十体。
アーガルトの背後に控える他の兵たちは人間だった。
となると、アリカが捉えたモンスターの気配はこいつらのものだろう。
なるほど、これが隠し玉だったってわけだ。
アーガルトは完全に狙いの的となった俺を見て、奇声に近い嘲笑を放つ。
「残念だったなぁ、雑魚! オレ様に挑んで勝てるとでも思ったかぁ~~~???」
そう言ってのけたアーガルトは己の勝ちを確信していた。
しかし、俺は駆ける足を止めない。
十匹の鳥人たち、その鋭い爪が俺を切り裂こうとし。
その全ての攻撃は一つの影によって、全て弾き返された。
その姿、八つの腕を持ち、頭部は髑髏、腹部に二つの瞳を持つアンデッドの高位存在。
名は、『地獄の骸と腕』。
この異世界で俺を支え続けてくれている、腹心の部下。
「なっ――!?」
アーガルトは鳥人全てを地面に弾き飛ばした『地獄骸』を見て、信じられないという顔をする。
人混みに紛れた『地獄骸』の気配も感知できないとは、人間の価値の高さが聞いて呆れる。
それに今、眼前から意識を逸らしたのも得策とは言えない。
なぜなら、俺はもうアーガルトの目の前まで迫っていたのだから。
俺は渾身の力を込めて、アーガルトの顎先を拳で突き上げた。
衝撃で後方まで吹っ飛んだ彼は、涙目でよろよろと立ち上がると、部下の兵たちに命令を下す。
「……オ、オレ様に傷をつけやがってッ! もう絶対に対話になんか応じてやらんぞ! お前たち、あいつを殺せ!」
命令と同時、一斉に兵が俺に向けて武器を構える。だが、俺は一切動じない。
そして俺はやっと、怒りのせいで閉ざしていたゆっくりと口を開いた。
「……対話に応じない? それはこっちの台詞だよ、底辺騎士」
俺は右手を高く掲げる。それは合図。
今までずっと抑えていた、彼らの鎖を解き放つ合図だ。
俺は両手をバッと広げて、腹の底から全力で叫ぶ。
村に潜んだ闇の者、全員に聞こえるように。
「お待ちかねだぞ、お前たちッ!! 今まで貯め込んだ暴力への欲求、その全てを満たして構わないッ!! 勝利条件は敵の無力化。今回は相手を傷つけてもいい、むしろ、全員傷つけろッ!! 最高の戦績は、敵の壊滅にあることを知れッ!!」
俺の号令に、彼らは一人残らず呼応した。
ギルダム中央村。
その家々の屋根に、地中に、屋内に、人混みに、窓に、扉に、村中の至る所に、そして俺の隣に。
計120体のアンデッドが出現し、身の程をわきまえない籠の中の獲物を破壊の欲求に従って狙いすます。
「ひっ」
アーガルトはその地獄の光景に、口を何事かぱくぱくと動かす。
よく聞こえなかったが、それは対話を求める言葉だったのかもしれない。
おかしいな。今更、交わす言葉などないはずなのに。
新たな文字召喚などこいつ程度の人間相手に必要ない。
120体のアンデッドが一斉に殺意を漲らせる。
そして、俺は戦闘――いや、蹂躙開始の合図を告げた。
「――対話の時間は終了だ。一握の慈悲も残すなッ!!」
村の中央の通りに村人たちが密集している。その村人たちの壁の間を村の入り口の方へと抜けると、そこにはずいぶんと物騒な集団が陣取っていた。
「なあ? だから言っただろ? オマエらはこのオレ様の前には無力。帝国内での地位も高い文字召喚騎士であるオレ様、フェガジア・アーガルトの足元に這いつくばるのが似合っているのさ」
一番目立つのは、銀色の鎧で全身を身に纏い、大きな剣を持った男。
茶色の長い髪は肩よりも下まで伸びていて鬱陶しい。それでいて、美形の顔立ち。女性にはモテそうだ。
彼の右足の下には、踏みつけられた警備兵の姿があった。顔から血を流し、微かな呻き声を出すことしかできないようだ。
フェガジア・アーガルトと名乗った騎士の背後には、大量の兵士が控えている。五十人はいるだろう。
それぞれが甲冑と剣を装備しており、その姿は完全に戦に赴くためのものだ。
「おい、あんた。帝国の人間か?」
怯える村人たちの前に一人踊り出た俺は、アーガルトに向けて問う。
「そうだ。帝国軍の王国侵略先遣隊、オレ様がその隊長さ。オレ様はお前たちのようなただの村人とはわけが違う選ばれた人間。聞いて驚け、俺には文字召喚の才能があるのだ!」
アーガルトは自信満々にそう言い放った。
……は? いやいや、そんなこと自信持って言われても……。
「ん? その反応、もしかしてお前、文字召喚を知らないのか? 仕方ないな、素人。教えてやる。文字召喚というのは、この大陸で使えるものがごく少数しかいない、神に選ばれた者のみが行使できる高度魔術の一つなんだよ! つまり、お前とオレさまでは、人間としての価値がまるで違うということだ!」
色々と新事実が判明した気がするが、それどころではない。
まずは目の前の敵と話し合いをしなくてはならないのだ。
「その、アーガルトさん、でしたっけ? まずは対話をしませんか? お互い話せばわかるはずですよ」
こういう人間相手には、とことん下手に出ておくべきだ。
自分は偉いと信じ込んでいる人間は、相手に下手に出られることで、自分の立場が上であるということが承認されたと錯覚し、気分が良くなって、交渉のテーブルにつくことがよくある。
だが、アーガルトはそう簡単にはいかなかった。
彼は俺の言葉を聞くと、皮肉気に眉を歪めて。
「対話ぁ? なにを言ってるんだ? お前とオレ様では価値が違うと言ったろ。雑魚は雑魚らしく――」
彼はふっと立ち上がると、足元の警備兵を一瞥し。
「こうして、オレ様に蹂躙されていればいいんだよッ!」
無抵抗の警備兵の顔面を思い切り、尖ったブーツで蹴り飛ばした。
「ぐはぁああああああッ!!!!!!」
警備兵の絶叫だけが村の入り口に響く。
ぎりっ、と俺は奥歯を噛み締めた。
どんなに腹立たしくても、ここで苛立ちを見せたらダメだ。
平和な日々を送るにはまず、対話。
その方針を崩すわけにはいかない。
アーガルトは警備兵の顔面を靴底で踏みつける。
何度も、何度も、顔が潰れるまで足を振り下ろす。
俺の両の瞳が熱くなる。
目を見開き、怒りの感情が波打ち出す。
しかし、ダメだ。両者の相互理解のためには対話が――。
だが、俺や村人全員が状況を静観している中、一人の少女がアーガルトの前に飛び出した。
「ダ、ダメですっ! それ以上、その人に意地悪しないでくださいっ!」
涙目でそう訴えたのは、よく見知った少女。
バカな奴だ。こんな時も、あいつはバカなことをする。
アーガルトの正面に立ち、彼を睨みつけているのは俺の弟子、レーナだった。
「なんだよ、小娘! オレ様に命令するなッ!」
一度、拍子抜けしたように真顔になったアーガルトだが、その一秒後、顔を紅潮させて極度に激昂する。
そして、鍔に入ったままの剣でレーナのことを思い切り殴りつけた。
「うぐ……っ」
その一撃は彼女の腹部に直撃し、彼女は悲鳴を上げることもなく、その場に崩れ落ちる。
アーガルトは倒れ込んだレーナの髪を掴み、彼女を無理やり起こすと、そのままゴミを捨てるように地面に叩きつけた。
俺は両手を握り込んでいた。強く、皮膚が破れるほどに強く。
俺は一度、静かに目を閉じた。
レーナ、お前はバカな奴だよ。
――だけど、そのバカな行動はきっと、この場で一番正しかった。
仕方がない。
対話だけでは解決しないこともある。
俺は目を強く見開いた。据わった両眼でアーガルトを睨み、彼に向けて全力で駆け出す。
だが、それに気づいたアーガルトは右手の指をパチンと鳴らした。
それと同時に、上空から何かが猛スピードで接近してくるのがわかる。
見上げる。すると、そこには鳥の頭部と翼を持ち、蛇の鱗に身を固めた人型モンスターの姿があった。
しかも一体ではない。その数、十体。
アーガルトの背後に控える他の兵たちは人間だった。
となると、アリカが捉えたモンスターの気配はこいつらのものだろう。
なるほど、これが隠し玉だったってわけだ。
アーガルトは完全に狙いの的となった俺を見て、奇声に近い嘲笑を放つ。
「残念だったなぁ、雑魚! オレ様に挑んで勝てるとでも思ったかぁ~~~???」
そう言ってのけたアーガルトは己の勝ちを確信していた。
しかし、俺は駆ける足を止めない。
十匹の鳥人たち、その鋭い爪が俺を切り裂こうとし。
その全ての攻撃は一つの影によって、全て弾き返された。
その姿、八つの腕を持ち、頭部は髑髏、腹部に二つの瞳を持つアンデッドの高位存在。
名は、『地獄の骸と腕』。
この異世界で俺を支え続けてくれている、腹心の部下。
「なっ――!?」
アーガルトは鳥人全てを地面に弾き飛ばした『地獄骸』を見て、信じられないという顔をする。
人混みに紛れた『地獄骸』の気配も感知できないとは、人間の価値の高さが聞いて呆れる。
それに今、眼前から意識を逸らしたのも得策とは言えない。
なぜなら、俺はもうアーガルトの目の前まで迫っていたのだから。
俺は渾身の力を込めて、アーガルトの顎先を拳で突き上げた。
衝撃で後方まで吹っ飛んだ彼は、涙目でよろよろと立ち上がると、部下の兵たちに命令を下す。
「……オ、オレ様に傷をつけやがってッ! もう絶対に対話になんか応じてやらんぞ! お前たち、あいつを殺せ!」
命令と同時、一斉に兵が俺に向けて武器を構える。だが、俺は一切動じない。
そして俺はやっと、怒りのせいで閉ざしていたゆっくりと口を開いた。
「……対話に応じない? それはこっちの台詞だよ、底辺騎士」
俺は右手を高く掲げる。それは合図。
今までずっと抑えていた、彼らの鎖を解き放つ合図だ。
俺は両手をバッと広げて、腹の底から全力で叫ぶ。
村に潜んだ闇の者、全員に聞こえるように。
「お待ちかねだぞ、お前たちッ!! 今まで貯め込んだ暴力への欲求、その全てを満たして構わないッ!! 勝利条件は敵の無力化。今回は相手を傷つけてもいい、むしろ、全員傷つけろッ!! 最高の戦績は、敵の壊滅にあることを知れッ!!」
俺の号令に、彼らは一人残らず呼応した。
ギルダム中央村。
その家々の屋根に、地中に、屋内に、人混みに、窓に、扉に、村中の至る所に、そして俺の隣に。
計120体のアンデッドが出現し、身の程をわきまえない籠の中の獲物を破壊の欲求に従って狙いすます。
「ひっ」
アーガルトはその地獄の光景に、口を何事かぱくぱくと動かす。
よく聞こえなかったが、それは対話を求める言葉だったのかもしれない。
おかしいな。今更、交わす言葉などないはずなのに。
新たな文字召喚などこいつ程度の人間相手に必要ない。
120体のアンデッドが一斉に殺意を漲らせる。
そして、俺は戦闘――いや、蹂躙開始の合図を告げた。
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