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第33話 左右を守る者
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「援護に感謝します、オルビーク殿」
『地獄骸』は自身を守ってくれたオルビークに対して礼を告げると、『剣豪―三刀―』に向き直る。
S級の『地獄骸』を以ってしても、全く引けを取らない『剣豪―三刀―』の様子を見て、俺は魔法記述具を顕現させた。
「時間を稼げ、『地獄骸』」
「承りました、召喚主」
『地獄骸』は俺の命令に頷くと、再び『剣豪―三刀―』との間合いを詰める。
その間に俺は万年筆を握って、新たな召喚モンスターの詳細を考え始めた。
瞬時にモンスターの詳細を考案することは、意外に難しい。
仕事としてモンスター設定を作ってはいたが、それは落ち着いた状況でパソコンに向かって行う作業だった。
こんな血生臭く、薄暗い空間で、死の危険と隣合わせで行うものではない。
万年筆を握り込んだ右手が震える。
『地獄骸』たちは俺のことを担ぎ上げるが、俺は冷酷な魔王ではないし、最強の存在でもない。ただ、恐怖に震える一般人なのだ。
それでも、俺が万年筆を手に取るのは、誰かを一人でも救いたいから。
それは、中央村でもこの場所でも変わらない。
だから、俺は魔法記述具を呼び出すのだ。
瞬間的にモンスター設定を組み立てなければならない場合は、ロジカルに攻めるべきだ。
ただ闇雲に特徴を書き込むのではなく、必要な情報を必要なだけ書き込むことにする。
まずは、名前。
次にモンスターの形状。
得意な攻撃は近接攻撃なのか、遠隔攻撃なのか。物理攻撃か、魔法攻撃か。
この場所の地形を考えると、あまり大きすぎるモンスターの召喚は適さない。
となると、小~中型のモンスターを近接攻撃、遠隔攻撃系の二つに分けて召喚するべきだ。
よし、頭は回っている。
あとは手を動かすのみ。
『地獄骸』と『剣豪―三刀―』は熾烈な剣撃を交わしていた。
時折、激しい火花が飛び散り、その太刀筋は目で追い切れない。
所々にオルビークの火炎球のサポートが入ることで、ようやく形勢は互角のようだ。
「よし、準備は整った! 文字召喚を開始する!」
俺はそう叫ぶと、高速で羊皮紙に文字を刻み込んでいく。
書き込むのは二体の新モンスター。
相手が三人分の自立思考を有しているのなら、『地獄骸』にも新たな自立思考を授けてやればいい。
今回のコンセプトは、『地獄骸』が従える二体の側近である。
書き込んだ文字列が光り出す。
俺はその光の文字列を親指で一息になぞった。
顕現待ちはない。
羊皮紙全体がすぐに光り出し、それは空間に生じた暗黒の闇に消えていった。
左腕のクリエイトゲージに目をやると、かなりの量が減少していく。だがそれは、強力なモンスターが生み出される証拠でもあった。
そして、次の瞬間。
暗黒色をした光の爆発と共に、二体のモンスターが顕現した。
〈地獄の暴食〉S級
地獄の食物を片っ端から腹に入れた結果、人間の成人男性三人分の大きさの肉体を得た贅肉モンスター。
得物はないが、その身体から生み出される拳の破壊力は地獄一。『地獄骸』の右を守る者。
〈地獄の射手〉S級
かつて、悪さをしていた『地獄の暴食』を仕留めようと立ち上がった地獄の英雄。 周囲の闇を矢に変換し、無数の矢による雨を敵に注ぐ。
『地獄の暴食』とは一戦交えた後に意気投合し、その後揃って『地獄骸』の軍門に下る。
地獄の中で、彼に勝る遠隔攻撃の使い手はいない。『地獄骸』の左を守る者。
「おかしら~~! ただいま、参上しましたよ~~~」
そうやって呑気な声を出したのは、贅肉に塗れた巨体を持つ『地獄の暴食』だ。
低音で汚い声色、しかしなぜか親しみやすさはある。
その腹には一体何が入っているのか、彼が一歩足を踏み出すと、地面が激しく揺れる。
しかし、本人はそれを一切気にせずに戦闘中の『地獄骸』へと近づいていった。
「『地獄暴食』か。ちょうどいい。敵の動きを封じ込めろ」
『地獄骸』は一旦、『剣豪―三刀―』から距離を取り、『地獄暴食』にその場を任せた。
俺がモンスター設定を作るまで、『地獄骸』の側近である『地獄暴食』というモンスターは存在しなかったはずだ。
しかし『地獄骸』は『地獄暴食』に対して、厚い信頼を持っているようだった。
新たな設定が召喚と同時に、過去に召喚したモンスターにも適応されたということだろう。
「お~~~し! 力を見せちゃおうかな~~~!」
飛び上がった『地獄暴食』は、その巨体の全ての重量を乗せて『剣豪―三刀―』に拳を叩き落とす。
『剣豪―三刀―』はそれを三本全ての太刀で受け止めるが、踏ん張った地面下に大きく陥没した。
『剣豪―三刀―』が飛び退いた後には、小規模なクレーターのようなものが出来ている。
「お~~~ら! やったれ~~~射手~~~!」
距離を取った『剣豪―三刀―』を『地獄暴食』は追わなかった。
その代わりに口にしたのは、自身と同じく『地獄骸』を守るもう一人の側近の名前。
そしてそれに呼応するように、今度は『剣豪―三刀―』の周囲に残っていた薄闇の中で動きがあった。
『地獄骸』は自身を守ってくれたオルビークに対して礼を告げると、『剣豪―三刀―』に向き直る。
S級の『地獄骸』を以ってしても、全く引けを取らない『剣豪―三刀―』の様子を見て、俺は魔法記述具を顕現させた。
「時間を稼げ、『地獄骸』」
「承りました、召喚主」
『地獄骸』は俺の命令に頷くと、再び『剣豪―三刀―』との間合いを詰める。
その間に俺は万年筆を握って、新たな召喚モンスターの詳細を考え始めた。
瞬時にモンスターの詳細を考案することは、意外に難しい。
仕事としてモンスター設定を作ってはいたが、それは落ち着いた状況でパソコンに向かって行う作業だった。
こんな血生臭く、薄暗い空間で、死の危険と隣合わせで行うものではない。
万年筆を握り込んだ右手が震える。
『地獄骸』たちは俺のことを担ぎ上げるが、俺は冷酷な魔王ではないし、最強の存在でもない。ただ、恐怖に震える一般人なのだ。
それでも、俺が万年筆を手に取るのは、誰かを一人でも救いたいから。
それは、中央村でもこの場所でも変わらない。
だから、俺は魔法記述具を呼び出すのだ。
瞬間的にモンスター設定を組み立てなければならない場合は、ロジカルに攻めるべきだ。
ただ闇雲に特徴を書き込むのではなく、必要な情報を必要なだけ書き込むことにする。
まずは、名前。
次にモンスターの形状。
得意な攻撃は近接攻撃なのか、遠隔攻撃なのか。物理攻撃か、魔法攻撃か。
この場所の地形を考えると、あまり大きすぎるモンスターの召喚は適さない。
となると、小~中型のモンスターを近接攻撃、遠隔攻撃系の二つに分けて召喚するべきだ。
よし、頭は回っている。
あとは手を動かすのみ。
『地獄骸』と『剣豪―三刀―』は熾烈な剣撃を交わしていた。
時折、激しい火花が飛び散り、その太刀筋は目で追い切れない。
所々にオルビークの火炎球のサポートが入ることで、ようやく形勢は互角のようだ。
「よし、準備は整った! 文字召喚を開始する!」
俺はそう叫ぶと、高速で羊皮紙に文字を刻み込んでいく。
書き込むのは二体の新モンスター。
相手が三人分の自立思考を有しているのなら、『地獄骸』にも新たな自立思考を授けてやればいい。
今回のコンセプトは、『地獄骸』が従える二体の側近である。
書き込んだ文字列が光り出す。
俺はその光の文字列を親指で一息になぞった。
顕現待ちはない。
羊皮紙全体がすぐに光り出し、それは空間に生じた暗黒の闇に消えていった。
左腕のクリエイトゲージに目をやると、かなりの量が減少していく。だがそれは、強力なモンスターが生み出される証拠でもあった。
そして、次の瞬間。
暗黒色をした光の爆発と共に、二体のモンスターが顕現した。
〈地獄の暴食〉S級
地獄の食物を片っ端から腹に入れた結果、人間の成人男性三人分の大きさの肉体を得た贅肉モンスター。
得物はないが、その身体から生み出される拳の破壊力は地獄一。『地獄骸』の右を守る者。
〈地獄の射手〉S級
かつて、悪さをしていた『地獄の暴食』を仕留めようと立ち上がった地獄の英雄。 周囲の闇を矢に変換し、無数の矢による雨を敵に注ぐ。
『地獄の暴食』とは一戦交えた後に意気投合し、その後揃って『地獄骸』の軍門に下る。
地獄の中で、彼に勝る遠隔攻撃の使い手はいない。『地獄骸』の左を守る者。
「おかしら~~! ただいま、参上しましたよ~~~」
そうやって呑気な声を出したのは、贅肉に塗れた巨体を持つ『地獄の暴食』だ。
低音で汚い声色、しかしなぜか親しみやすさはある。
その腹には一体何が入っているのか、彼が一歩足を踏み出すと、地面が激しく揺れる。
しかし、本人はそれを一切気にせずに戦闘中の『地獄骸』へと近づいていった。
「『地獄暴食』か。ちょうどいい。敵の動きを封じ込めろ」
『地獄骸』は一旦、『剣豪―三刀―』から距離を取り、『地獄暴食』にその場を任せた。
俺がモンスター設定を作るまで、『地獄骸』の側近である『地獄暴食』というモンスターは存在しなかったはずだ。
しかし『地獄骸』は『地獄暴食』に対して、厚い信頼を持っているようだった。
新たな設定が召喚と同時に、過去に召喚したモンスターにも適応されたということだろう。
「お~~~し! 力を見せちゃおうかな~~~!」
飛び上がった『地獄暴食』は、その巨体の全ての重量を乗せて『剣豪―三刀―』に拳を叩き落とす。
『剣豪―三刀―』はそれを三本全ての太刀で受け止めるが、踏ん張った地面下に大きく陥没した。
『剣豪―三刀―』が飛び退いた後には、小規模なクレーターのようなものが出来ている。
「お~~~ら! やったれ~~~射手~~~!」
距離を取った『剣豪―三刀―』を『地獄暴食』は追わなかった。
その代わりに口にしたのは、自身と同じく『地獄骸』を守るもう一人の側近の名前。
そしてそれに呼応するように、今度は『剣豪―三刀―』の周囲に残っていた薄闇の中で動きがあった。
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