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第85話 忌数刻印
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「召喚主、やはり城内を総出で探したけれど、レーナの姿はどこにも見えないよ」
渋い表情をした『地獄射手』からの報告を王座の間で受け、俺は自分の悪い予感が当たってしまったことを知った。
「あいつらの狙いは端から襲撃じゃなく、才能を持った文字召喚術師の卵を奪うことだったってことか……」
いつもはおバカで文字召喚もまだまだのレーナだが、文字召喚に強い適性を持った人間を集めているアルギア召喚宮殿が強制的に連れてきた人材だ。
ということは、将来的にはレーナも優秀な文字召喚術師になるのだろう。
そして、その才能の卵こそが襲撃者たちの狙いだった。
人混みで溢れかえる暗黒城の中で、隠密行動を取っていた少数の敵にレーナは連れ去られたのだ。
「くそっ……! 俺の失態だ」
俺は王座に座り、右手を顔に当てる。
村長たちは王座の間から出て、城内の散策をしているので、この事態を知っているのは俺と配下たちだけだ。
どう行動するべきか悩んでいると、話を聞きつけたアリカが広間のドアを押し開けて入ってきた。
「レーナがさらわれたというのは本当なんですか!?」
「ああ、残念ながらな……今、どうやって奪還するか考えていたところだ」
「敵は…敵はどこの者ですか!? 私の可愛いレーナをさらうなんて、生かしてはおけません……!」
「なら、そこの奴に聞いてくれ。聞く方法は任せる」
俺は顎で、王座の下に転がされた捕虜を示す。先程から情報を話していた文字召喚術師だ。
こいつ一人いれば事足りるため、他の仲間と切り離して王座の間まで連れてきていた。
王座の検索機能を使っても、レーナを見つけることはできなかった。
ということは、本格的に暗黒城の外へと連れ出されてしまったのだろう。
「そこの捕虜は帝国の地下組織の人間だと言った。アリカ、なにか心当たりはないか?」
「地下組織に属する文字召喚術師ですか……まさか……!」
アリカはずんずんと捕虜のもとまで歩いてくると、その右手首を強引に掴み上げた。
「いてぇ!」
「黙りなさい、底辺召喚術師。……これはーー」
捕虜の右手首を見て、アリカは激しい嫌悪感をあらわにした。
「ーー忌数刻印」
「なんだ? その、忌数なんとかってのは?」
アリカは捕虜の手首をこちらに向けてくる。すると、そこにはタトゥーのように黒く滲んだ数字が複雑な紋様に囲まれて刻まれていた。
彼の手首に刻まれていたのは、122の文字。
「忌数刻印……それは禁忌とされている文字召喚術の術式の一つ、『連結呪縛召喚』を行う際に、術者たちを一つに縛り上げる、いわば呪いのようなものです」
気持ちの悪いものを見たような表情でアリカは吐き捨てるように言った。
「そんなに良くないものなのか?」
「ええ。忌数刻印を刻まれた者に、もう己の人生を自由に歩む権利はありません。この文字召喚術師は『連結呪縛召喚』を遂行するための117番目の部品と化したのです」
アリカの言葉だけでは、彼女が忌数刻印をそこまで嫌悪する理由はわからなかった。
だが、アルギア召喚宮殿第三位のアリカがそんな態度を見せるからには、俺の想定を越えた呪いなのだろうと思う。
「まぁ、そのうち嫌でも自分の目で見ることになるか……」
俺は一つ大きなため息をついて王座から立ち上がり、アリカを見下ろす形で声をかける。
「その忌数刻印とやらを使用する帝国の地下組織に心当たりはあるか?」
俺はアリカの返事を待たずに段差を降りてアリカの横を通りすぎる。
「シ、シュウトさん!? いったいどこへーー」
「ーーアリカ。俺は心当たりがあるか、と聞いた。その返事は?」
「え、えっと……かつて帝国には『連結呪縛召喚』を試みた邪教団が存在したはずです。壊滅した、と聞いていましたが……。たしか名前はーー『デビルズ・カーズ』」
「上出来だ。ほら、早くお前も準備しろ」
まだ混乱している様子のアリカに俺は言う。
「さっさと可愛い弟子を助けにいくぞ」
「シュウトさん……!」
俺はそのまま、振り返らずに歩き出す。
楽しい文化祭の時間はここまでだ。
さぁ、レーナを助けにいこう。
渋い表情をした『地獄射手』からの報告を王座の間で受け、俺は自分の悪い予感が当たってしまったことを知った。
「あいつらの狙いは端から襲撃じゃなく、才能を持った文字召喚術師の卵を奪うことだったってことか……」
いつもはおバカで文字召喚もまだまだのレーナだが、文字召喚に強い適性を持った人間を集めているアルギア召喚宮殿が強制的に連れてきた人材だ。
ということは、将来的にはレーナも優秀な文字召喚術師になるのだろう。
そして、その才能の卵こそが襲撃者たちの狙いだった。
人混みで溢れかえる暗黒城の中で、隠密行動を取っていた少数の敵にレーナは連れ去られたのだ。
「くそっ……! 俺の失態だ」
俺は王座に座り、右手を顔に当てる。
村長たちは王座の間から出て、城内の散策をしているので、この事態を知っているのは俺と配下たちだけだ。
どう行動するべきか悩んでいると、話を聞きつけたアリカが広間のドアを押し開けて入ってきた。
「レーナがさらわれたというのは本当なんですか!?」
「ああ、残念ながらな……今、どうやって奪還するか考えていたところだ」
「敵は…敵はどこの者ですか!? 私の可愛いレーナをさらうなんて、生かしてはおけません……!」
「なら、そこの奴に聞いてくれ。聞く方法は任せる」
俺は顎で、王座の下に転がされた捕虜を示す。先程から情報を話していた文字召喚術師だ。
こいつ一人いれば事足りるため、他の仲間と切り離して王座の間まで連れてきていた。
王座の検索機能を使っても、レーナを見つけることはできなかった。
ということは、本格的に暗黒城の外へと連れ出されてしまったのだろう。
「そこの捕虜は帝国の地下組織の人間だと言った。アリカ、なにか心当たりはないか?」
「地下組織に属する文字召喚術師ですか……まさか……!」
アリカはずんずんと捕虜のもとまで歩いてくると、その右手首を強引に掴み上げた。
「いてぇ!」
「黙りなさい、底辺召喚術師。……これはーー」
捕虜の右手首を見て、アリカは激しい嫌悪感をあらわにした。
「ーー忌数刻印」
「なんだ? その、忌数なんとかってのは?」
アリカは捕虜の手首をこちらに向けてくる。すると、そこにはタトゥーのように黒く滲んだ数字が複雑な紋様に囲まれて刻まれていた。
彼の手首に刻まれていたのは、122の文字。
「忌数刻印……それは禁忌とされている文字召喚術の術式の一つ、『連結呪縛召喚』を行う際に、術者たちを一つに縛り上げる、いわば呪いのようなものです」
気持ちの悪いものを見たような表情でアリカは吐き捨てるように言った。
「そんなに良くないものなのか?」
「ええ。忌数刻印を刻まれた者に、もう己の人生を自由に歩む権利はありません。この文字召喚術師は『連結呪縛召喚』を遂行するための117番目の部品と化したのです」
アリカの言葉だけでは、彼女が忌数刻印をそこまで嫌悪する理由はわからなかった。
だが、アルギア召喚宮殿第三位のアリカがそんな態度を見せるからには、俺の想定を越えた呪いなのだろうと思う。
「まぁ、そのうち嫌でも自分の目で見ることになるか……」
俺は一つ大きなため息をついて王座から立ち上がり、アリカを見下ろす形で声をかける。
「その忌数刻印とやらを使用する帝国の地下組織に心当たりはあるか?」
俺はアリカの返事を待たずに段差を降りてアリカの横を通りすぎる。
「シ、シュウトさん!? いったいどこへーー」
「ーーアリカ。俺は心当たりがあるか、と聞いた。その返事は?」
「え、えっと……かつて帝国には『連結呪縛召喚』を試みた邪教団が存在したはずです。壊滅した、と聞いていましたが……。たしか名前はーー『デビルズ・カーズ』」
「上出来だ。ほら、早くお前も準備しろ」
まだ混乱している様子のアリカに俺は言う。
「さっさと可愛い弟子を助けにいくぞ」
「シュウトさん……!」
俺はそのまま、振り返らずに歩き出す。
楽しい文化祭の時間はここまでだ。
さぁ、レーナを助けにいこう。
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