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次の「タスク」の達成には2人組作って挑むことが条件らしい。そう伝え聞いたサトは内心、辟易として宙を仰いだ。
2人組を作るのは別段初めてではない。誰かと組むこと自体は問題ではなかった。
誰と組むのか、いや誰がサトと「組んでくれるのか」と困ってしまった。
気が進まないなと思いながらも既に通学の時間だ。いつもの習慣通りに身だしなみを整えてしまえば足は勝手に玄関へと向く。
サトは寮から準2級訓練校へ向かう道すがら、ここ数日で増してきた寒気に見を縮ませた。服をそろそろ変えないといけないかなと周囲の人へ視線をやる。
道行く人もサトとそう変わらない季節感の服装で足早に行き交う様子が見て取れた。
まだこのままで大丈夫そうだなと息を吐き出すと、吸い込んだ空気が頭を冷やしてくれるような心地よさを覚えた。
訓練校に着いたらまずは正面玄関に程近い、掲示板の最新情報を確認をする。ここの設備では日程を個人へ電子配信せず、紙を用いて掲示していた。
「本当だった……」
近くに誰もいないかったこともあり、ついサトは独りごちた。
最新の掲示物は2週間後から始まるタスクの参加条件を「2名1組から」としていた。内容は──。
「あーー、新しいの出てる。だっるーー」
「お前そんなんで大丈夫かぁ~~? 昨日が期限だったタスク、サボってただろ?」
「いいの! 俺っち、今は遊びに全力だから。人生の栄養素ここに極まれりだから」
「あとから不足分を取り戻すってパターンだと報酬が下がるよな? おじさんになってからじゃキツそうじゃない?」
「そんなの『見たことない』から問題なっし。てか、おじさんになってから『若い時にもっと遊んでおけば良かった』ってよく聞くじゃん。センパイたちの言葉を信じます。良い子なので」
キリリとした声色で締めくくり、サトの背後を同世代の男子たちが通り過ぎていった。
サトが教室に入るとぼんやり暖かい日向の席を手に入れてくつろぐネイトがいた。頻繁に顔を合わせる仲なのでサトは気負わずに声をかけて隣の席に座った。
「ネイト、おはよう」
「んあーー、おはよう」
「見た? 掲示板の。新しいやつ」
「あ、なんだっけ……地元の、なんか、いいところまとめとけみたいな。現地取材しろ的なこと書いてたな」
ネイトはいつもこんな雑に聞こえるような物言いをするが、本当はちゃんと覚えてるタイプだとサトは知っている。
最近タスクの達成率がいいネイトの頭のネジが抜けているはずがないのだ。
サトは努めて、不安そうに聞こえないよう、ややおどけた調子で言った。
「2人組だよーー、どうしよう。ネイトはやる予定?」
「うん。まぁなんとかなるでしょ。内容は自由度高いし」
サトとしてはタスクの「テーマ」ではなく「2人組」についての「どうしよう」なのだが、すれ違ってしまった。
だか顔に出すわけにもいかない。サトは自分の勇気の無さを分かってはいたがそのうえ虚勢もあるな、と自虐しつつ「波に乗ってるねぇ」と返した。
「今に見ていたまえ。俺がサトの報酬記録をぶち抜くところを。ふはは」
不意打ちにサトはぎょっとした。
ネイトはおちゃらけて話題に出しただけだと、これまでの交友で解っている。解ってはいるが、これまで他者から嫌味混じりにイジられた時期があり、報酬の話には触れられたくなかったのだ。
そんなタイミングで、丁度良くネイトの元へ朝から元気なワトラが近づいてきてネイトの目の前の机を揺さぶった。
「ネイト様頼む! 2人組、俺と組んでくれぇぇ」
「え、なに、どしたの。あぁ! ペン落ちるって」
「俺、連続で単独のタスク落としまくっちゃって! ちょっとこのままじゃマズイんだよーー! 連休に出かけるのになんも買えねぇーー! ネイト、まだフリーだよな?」
「フリーだけど……ワトラ、役に立たなさそう」
「ぐはっ! 何も言えねぇ!! でもそこをなんとか! 取材に総力をそそぐからぁ」
ワトラの金欠騒ぎは今に始まったことではない。10日に1回は財布事情を嘆いている。
友たちはそれを知っているのでいつものことかと受け止めていた。ちなみに金を貸しても返ってこないので、最初からあげるつもりでないと支給は危険だ。
「この際サトでもいい! 俺の連休ドリームを助けてぇ!」
サトは苦笑いするしかない。「『でも』とは何だよ『でも』とは!」と突っ込んだ。
ワトラはいつでも、誰に対してもこの調子なのでサトも慣れていた。
「はぁ。ワトラ、対人で勢いあるのは確かだからな……。いいよ、途中でサボって離脱しないなら。組んでも」
「あーー! マジ助かる!!ありがとうございます!!」
ネイトとワトラが組むことが決まった。ぼんやりとネイトと組めないだろうかと考えたものの誘えなかったサトは、自身の鈍くささ、情けなさに落ち込んだ。
ネイトはこのごろ単独タスクを順調に達成しているように見受けられ、サトの過去の報酬の件で八つ当たりもしてこないだろうから、断然組みやすい相手だったというのに。
2人組を作るのは別段初めてではない。誰かと組むこと自体は問題ではなかった。
誰と組むのか、いや誰がサトと「組んでくれるのか」と困ってしまった。
気が進まないなと思いながらも既に通学の時間だ。いつもの習慣通りに身だしなみを整えてしまえば足は勝手に玄関へと向く。
サトは寮から準2級訓練校へ向かう道すがら、ここ数日で増してきた寒気に見を縮ませた。服をそろそろ変えないといけないかなと周囲の人へ視線をやる。
道行く人もサトとそう変わらない季節感の服装で足早に行き交う様子が見て取れた。
まだこのままで大丈夫そうだなと息を吐き出すと、吸い込んだ空気が頭を冷やしてくれるような心地よさを覚えた。
訓練校に着いたらまずは正面玄関に程近い、掲示板の最新情報を確認をする。ここの設備では日程を個人へ電子配信せず、紙を用いて掲示していた。
「本当だった……」
近くに誰もいないかったこともあり、ついサトは独りごちた。
最新の掲示物は2週間後から始まるタスクの参加条件を「2名1組から」としていた。内容は──。
「あーー、新しいの出てる。だっるーー」
「お前そんなんで大丈夫かぁ~~? 昨日が期限だったタスク、サボってただろ?」
「いいの! 俺っち、今は遊びに全力だから。人生の栄養素ここに極まれりだから」
「あとから不足分を取り戻すってパターンだと報酬が下がるよな? おじさんになってからじゃキツそうじゃない?」
「そんなの『見たことない』から問題なっし。てか、おじさんになってから『若い時にもっと遊んでおけば良かった』ってよく聞くじゃん。センパイたちの言葉を信じます。良い子なので」
キリリとした声色で締めくくり、サトの背後を同世代の男子たちが通り過ぎていった。
サトが教室に入るとぼんやり暖かい日向の席を手に入れてくつろぐネイトがいた。頻繁に顔を合わせる仲なのでサトは気負わずに声をかけて隣の席に座った。
「ネイト、おはよう」
「んあーー、おはよう」
「見た? 掲示板の。新しいやつ」
「あ、なんだっけ……地元の、なんか、いいところまとめとけみたいな。現地取材しろ的なこと書いてたな」
ネイトはいつもこんな雑に聞こえるような物言いをするが、本当はちゃんと覚えてるタイプだとサトは知っている。
最近タスクの達成率がいいネイトの頭のネジが抜けているはずがないのだ。
サトは努めて、不安そうに聞こえないよう、ややおどけた調子で言った。
「2人組だよーー、どうしよう。ネイトはやる予定?」
「うん。まぁなんとかなるでしょ。内容は自由度高いし」
サトとしてはタスクの「テーマ」ではなく「2人組」についての「どうしよう」なのだが、すれ違ってしまった。
だか顔に出すわけにもいかない。サトは自分の勇気の無さを分かってはいたがそのうえ虚勢もあるな、と自虐しつつ「波に乗ってるねぇ」と返した。
「今に見ていたまえ。俺がサトの報酬記録をぶち抜くところを。ふはは」
不意打ちにサトはぎょっとした。
ネイトはおちゃらけて話題に出しただけだと、これまでの交友で解っている。解ってはいるが、これまで他者から嫌味混じりにイジられた時期があり、報酬の話には触れられたくなかったのだ。
そんなタイミングで、丁度良くネイトの元へ朝から元気なワトラが近づいてきてネイトの目の前の机を揺さぶった。
「ネイト様頼む! 2人組、俺と組んでくれぇぇ」
「え、なに、どしたの。あぁ! ペン落ちるって」
「俺、連続で単独のタスク落としまくっちゃって! ちょっとこのままじゃマズイんだよーー! 連休に出かけるのになんも買えねぇーー! ネイト、まだフリーだよな?」
「フリーだけど……ワトラ、役に立たなさそう」
「ぐはっ! 何も言えねぇ!! でもそこをなんとか! 取材に総力をそそぐからぁ」
ワトラの金欠騒ぎは今に始まったことではない。10日に1回は財布事情を嘆いている。
友たちはそれを知っているのでいつものことかと受け止めていた。ちなみに金を貸しても返ってこないので、最初からあげるつもりでないと支給は危険だ。
「この際サトでもいい! 俺の連休ドリームを助けてぇ!」
サトは苦笑いするしかない。「『でも』とは何だよ『でも』とは!」と突っ込んだ。
ワトラはいつでも、誰に対してもこの調子なのでサトも慣れていた。
「はぁ。ワトラ、対人で勢いあるのは確かだからな……。いいよ、途中でサボって離脱しないなら。組んでも」
「あーー! マジ助かる!!ありがとうございます!!」
ネイトとワトラが組むことが決まった。ぼんやりとネイトと組めないだろうかと考えたものの誘えなかったサトは、自身の鈍くささ、情けなさに落ち込んだ。
ネイトはこのごろ単独タスクを順調に達成しているように見受けられ、サトの過去の報酬の件で八つ当たりもしてこないだろうから、断然組みやすい相手だったというのに。
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