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第三章
後半戦3
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レギンが手に持っている武器は両手剣だ。
三キロほどの重さがあり、両手を使わなければ扱えない大きさの剣だ。多数の敵を同時に相手取る場合や長柄武器に対抗するのに有効であり、歩兵用の武器である。
その大きさは見かけ倒しではなく、振り回せば鎧ごと両断し、戦場で馬すらも叩き折ることができる。当然、担い手は相応の腕力と技術が必要だが、使いこなせれば、亀のようにガチガチに鎧で固めた戦士すらも相手にできる。
そして、ヤマトと名乗った闘技者が手に持つ武器――それは刀と呼ばれるものである。
片方に刃がないものを指し、斬る際を和らげるためや切断力を増すために反りがある構造をしている武器だ。両手剣のように鎧の上から肉を断つことはできないが、切れ味では両手剣より勝っている。
両手剣が腕力と重量で肉を断つのならば、刀は当てて引くことで肉を断つ。といった感じだ。
重量と耐久性で勝る両手剣と刀がぶつかり合えば、勝つのは当然両手剣だ。だが――
ジャリジャリジャリジャリィ!!
何度目かの刃同士が擦れ合い火花が散る。再び受け流されたのだ。刀の反らしの構造すらも利用して、力を流され刃は地面へと突き刺さる。
「――チィッ」
「そぉらっ!!」
攻勢は逆転して、ヤマトに移る。
上段から下に振り下ろす――真向斬りでレギンの頭を叩き切ろうとする。受け流すことで体勢を崩された相手はこの一撃を防ぐことなどできない。その一撃を読んでいなければ……。
これまで何度も受け流され、相手の剣は打ち合うためのものではないと分かったレギンは、受け流されることを読んでいた。そして、その後にくるであろう一撃すらも。
「ハアッ!!」
「おお!?」
わざと踏み込みを浅くしていたレギンが剣を引き寄せ、真向斬りを受け止める。これで決まると確信していたヤマトとレギンが鍔迫り合う。
拮抗は一瞬だった。
「(力はこちらが上!!)」
腕力で勝るレギンが真っ向からの力の勝負に出る。今いるのはリングの端、力で突き飛ばせば軽く飛んでいくのだ。ならば、無理して剣術で勝利することはない。
「(なーんて思ってんのかい?)」
だが、その考えをヤマトは読んでいた。
馬鹿正直に力比べに興じる必要はこちらにもない。力で勝てなければ、他で勝てば良いのだ。勝負とは自分の有利を押しつけて勝つものである。
間合いに関してはリーチのある両手剣の方が大きいが、鍔迫り合いからの状態ではその間合いを活かすことなどできない。
「(懐に入れば、そちらが有利――とでも?)」
――しかし、僅かな力加減でレギンは相手の意図を読み解く。
力で勝負ができないのなら引けば良い。間合いの有利も距離を詰められていれば、発揮することはない。だが、自分はお綺麗な騎士様ではないのだ。剣術だけだと思ったら大間違いである。
ここから取れる手段など幾らでもある。相手の柄頭を掴んで剣を奪い取ることもできるし、接触している刃の箇所を軸に柄頭で顔を叩き付けることだってできる。
そんな多々ある技の中からレギンが選んだのは、関節技だった。
「イデェッ!?」
柄から片手を離し、相手の腕を掴んで捻る。
相手が抵抗すれば骨は砕け、もう使い物にならなくなるだろう。捻ったままレギンは地面に叩き付けようとする。相手は軽く、羽毛のように簡単に投げ飛ばすことができた。
――だが、
「イッテェ――なっ!!」
ヤマトが捻った方向に身を捻る。
地面に叩き付けられ、骨も砕かれるはずだった男が難なくレギンの目の前に着地する。確実に決まったと思った一撃が躱され、レギンは目を見開いた。
「今度はこっちの番だあ!!」
低い体勢からヤマトがレギンの顔面に向けて跳び上がる。一瞬の硬直をヤマトは見逃さなかった。
ゴキッと鼻から嫌な音がし、同時に鉄の香りがする。
「まだまだぁ!!」
好戦的な目をしたヤマトが続けて怯んだレギンを見逃さずに追撃する。手に持っているのは短刀。腰に下げてあったもう一つの刀だ。
しかし、敵もさる者……一度は許しても二度は許されなかった。
掴んでいた腕をレギンは頭突きをされても離さなかった。追撃を仕掛けられ、喉に刃を突き付けられる前に力の限り腕を振るう。
「舐めるなぁ!!」
「マジかよ!?」
まるで剣でも振っているかのように振り回し、放り投げる。それは大人が子供を投げ飛ばすようだった。
ヤマトは地面に転がりながらも立て直し、二人は再び最初の立ち位置に戻った。
「フゥ~」
「ハァ……ハァ……イッ――」
頭突きをかまされた際に曲がった鼻を治すレギンと一汗かいたように息を吐くヤマト。何でもないような表情をしているが、最後に強く背中を打っており、痛みを感じているのは流れる汗から想像できた。
「流石ですね。魑魅魍魎とやらが跋扈する国から来ただけはあります」
「ん、ありがとよ」
レギンの賞賛の言葉を何ともないように受け、軽く流す。彼にとっては賞賛などむず痒いものなのだろう。
「――それで、続けますか?」
「え?今聞くのそれ」
「そろそろ潮時かと思いましてね」
レギンが周りを指差す。ヤマトも釣られて周りを見渡すと戦い始めた頃よりは闘技者の数が減っていることが分かった。
レギンとヤマトの戦いは直ぐに決着つきそうにない。もう一度ぶつかり合っていれば、必然的に最後の五人に残ることになる。
「無駄な体力は削らないでおきましょう――ってか?」
「ふふっ……そう受け取って貰っても構いませんよ?相手をして欲しいなら付き合いますが……」
挑発的な笑みを浮かべてヤマトを見つめる。しかし、その挑発は不発に終わった。それどころか全く関係ないことをヤマトは尋ね始める。
「お前…………化けの皮被ってない?」
「はい?」
「あ、ごめん。間違えた……猫被ってない?これで合ってるかな?こっちの言葉はまだ理解してなくてな」
そう言って恥ずかしそうに頭を掻く。そこには既に冷たい目をした男はいない。
――見間違いだったのか。そう思えるほどの豹変に思わず言葉が詰まる。そうしている間にも聞いてもいないのに男は喋り出す。
「なんつーかさ。こう、ムズムズするんだよな。お前が丁寧に喋ってると……いや、ただのカンだぜ?カン。でも俺のカンは良く当たるって母さんは言ってたからなぁ」
手をワキワキと握ったり開いたりしたり、腕を組んで何かを思い出すように悩んだりとしているヤマト。完全に自分の世界に入っている。
「だからさ。ちょっと聞いてみたんだよ。戦っている間も変な感じだったから気になったんだ」
「そうですか。ですが、私は何も隠してませんよ?」
「そうか?ん~でもなぁ……何か全部嘘な感じがするんだよなぁ」
カンで自分の性格を疑われているというのにレギンは怒らない。まるで訳の分からないように振る舞う。
それでもうんうんと頭を捻るヤマトにレギンは笑って答える。
「ハハハハッ――出会ったばかりの人のことを早々分かるはずはありませんよ。私も貴方のことは腕の立つ変な人にしか見えません」
「うぉい!?それって酷くねぇか!?」
カンで人を疑う人物はそう判断されても仕方ないだろう。悪ければ嫌われるに違いない。レギンでなくともそう考えるはずだ。確かにこの男はその鋭すぎるカンのせいで人の忌み嫌われ、故郷を抜け出してきたのだが……。
「――まぁいいや、アンタとはもう止めとくよ」
「そうですか。では、トーナメントで……」
この男の実力ならば確実に残る。そう確信して言った言葉だった。だが、振り向いたヤマトは想像していなかったことを口にする。
「いや、俺明日は出ないよ?」
「え?」
「だって、明日には女との約束があるからな!!――――では、さらば!!」
「はい!?」
それだけ言い残し、ヤマトはリングから飛び出て出口へと走り去る。その姿はまさに疾風の如し!!――何でこんな場所でこの言葉使わなきゃならないんだろう。
あまりの出来事にレギンは目が点になる。
そして、それは一部始終を見ていたハルベルトも同じだった。
「ヤマト何してんの!?」
今までの実況すら忘れて叫んだ言葉は、闘技場にいる全ての人間の思いを束ねたものだった。
三キロほどの重さがあり、両手を使わなければ扱えない大きさの剣だ。多数の敵を同時に相手取る場合や長柄武器に対抗するのに有効であり、歩兵用の武器である。
その大きさは見かけ倒しではなく、振り回せば鎧ごと両断し、戦場で馬すらも叩き折ることができる。当然、担い手は相応の腕力と技術が必要だが、使いこなせれば、亀のようにガチガチに鎧で固めた戦士すらも相手にできる。
そして、ヤマトと名乗った闘技者が手に持つ武器――それは刀と呼ばれるものである。
片方に刃がないものを指し、斬る際を和らげるためや切断力を増すために反りがある構造をしている武器だ。両手剣のように鎧の上から肉を断つことはできないが、切れ味では両手剣より勝っている。
両手剣が腕力と重量で肉を断つのならば、刀は当てて引くことで肉を断つ。といった感じだ。
重量と耐久性で勝る両手剣と刀がぶつかり合えば、勝つのは当然両手剣だ。だが――
ジャリジャリジャリジャリィ!!
何度目かの刃同士が擦れ合い火花が散る。再び受け流されたのだ。刀の反らしの構造すらも利用して、力を流され刃は地面へと突き刺さる。
「――チィッ」
「そぉらっ!!」
攻勢は逆転して、ヤマトに移る。
上段から下に振り下ろす――真向斬りでレギンの頭を叩き切ろうとする。受け流すことで体勢を崩された相手はこの一撃を防ぐことなどできない。その一撃を読んでいなければ……。
これまで何度も受け流され、相手の剣は打ち合うためのものではないと分かったレギンは、受け流されることを読んでいた。そして、その後にくるであろう一撃すらも。
「ハアッ!!」
「おお!?」
わざと踏み込みを浅くしていたレギンが剣を引き寄せ、真向斬りを受け止める。これで決まると確信していたヤマトとレギンが鍔迫り合う。
拮抗は一瞬だった。
「(力はこちらが上!!)」
腕力で勝るレギンが真っ向からの力の勝負に出る。今いるのはリングの端、力で突き飛ばせば軽く飛んでいくのだ。ならば、無理して剣術で勝利することはない。
「(なーんて思ってんのかい?)」
だが、その考えをヤマトは読んでいた。
馬鹿正直に力比べに興じる必要はこちらにもない。力で勝てなければ、他で勝てば良いのだ。勝負とは自分の有利を押しつけて勝つものである。
間合いに関してはリーチのある両手剣の方が大きいが、鍔迫り合いからの状態ではその間合いを活かすことなどできない。
「(懐に入れば、そちらが有利――とでも?)」
――しかし、僅かな力加減でレギンは相手の意図を読み解く。
力で勝負ができないのなら引けば良い。間合いの有利も距離を詰められていれば、発揮することはない。だが、自分はお綺麗な騎士様ではないのだ。剣術だけだと思ったら大間違いである。
ここから取れる手段など幾らでもある。相手の柄頭を掴んで剣を奪い取ることもできるし、接触している刃の箇所を軸に柄頭で顔を叩き付けることだってできる。
そんな多々ある技の中からレギンが選んだのは、関節技だった。
「イデェッ!?」
柄から片手を離し、相手の腕を掴んで捻る。
相手が抵抗すれば骨は砕け、もう使い物にならなくなるだろう。捻ったままレギンは地面に叩き付けようとする。相手は軽く、羽毛のように簡単に投げ飛ばすことができた。
――だが、
「イッテェ――なっ!!」
ヤマトが捻った方向に身を捻る。
地面に叩き付けられ、骨も砕かれるはずだった男が難なくレギンの目の前に着地する。確実に決まったと思った一撃が躱され、レギンは目を見開いた。
「今度はこっちの番だあ!!」
低い体勢からヤマトがレギンの顔面に向けて跳び上がる。一瞬の硬直をヤマトは見逃さなかった。
ゴキッと鼻から嫌な音がし、同時に鉄の香りがする。
「まだまだぁ!!」
好戦的な目をしたヤマトが続けて怯んだレギンを見逃さずに追撃する。手に持っているのは短刀。腰に下げてあったもう一つの刀だ。
しかし、敵もさる者……一度は許しても二度は許されなかった。
掴んでいた腕をレギンは頭突きをされても離さなかった。追撃を仕掛けられ、喉に刃を突き付けられる前に力の限り腕を振るう。
「舐めるなぁ!!」
「マジかよ!?」
まるで剣でも振っているかのように振り回し、放り投げる。それは大人が子供を投げ飛ばすようだった。
ヤマトは地面に転がりながらも立て直し、二人は再び最初の立ち位置に戻った。
「フゥ~」
「ハァ……ハァ……イッ――」
頭突きをかまされた際に曲がった鼻を治すレギンと一汗かいたように息を吐くヤマト。何でもないような表情をしているが、最後に強く背中を打っており、痛みを感じているのは流れる汗から想像できた。
「流石ですね。魑魅魍魎とやらが跋扈する国から来ただけはあります」
「ん、ありがとよ」
レギンの賞賛の言葉を何ともないように受け、軽く流す。彼にとっては賞賛などむず痒いものなのだろう。
「――それで、続けますか?」
「え?今聞くのそれ」
「そろそろ潮時かと思いましてね」
レギンが周りを指差す。ヤマトも釣られて周りを見渡すと戦い始めた頃よりは闘技者の数が減っていることが分かった。
レギンとヤマトの戦いは直ぐに決着つきそうにない。もう一度ぶつかり合っていれば、必然的に最後の五人に残ることになる。
「無駄な体力は削らないでおきましょう――ってか?」
「ふふっ……そう受け取って貰っても構いませんよ?相手をして欲しいなら付き合いますが……」
挑発的な笑みを浮かべてヤマトを見つめる。しかし、その挑発は不発に終わった。それどころか全く関係ないことをヤマトは尋ね始める。
「お前…………化けの皮被ってない?」
「はい?」
「あ、ごめん。間違えた……猫被ってない?これで合ってるかな?こっちの言葉はまだ理解してなくてな」
そう言って恥ずかしそうに頭を掻く。そこには既に冷たい目をした男はいない。
――見間違いだったのか。そう思えるほどの豹変に思わず言葉が詰まる。そうしている間にも聞いてもいないのに男は喋り出す。
「なんつーかさ。こう、ムズムズするんだよな。お前が丁寧に喋ってると……いや、ただのカンだぜ?カン。でも俺のカンは良く当たるって母さんは言ってたからなぁ」
手をワキワキと握ったり開いたりしたり、腕を組んで何かを思い出すように悩んだりとしているヤマト。完全に自分の世界に入っている。
「だからさ。ちょっと聞いてみたんだよ。戦っている間も変な感じだったから気になったんだ」
「そうですか。ですが、私は何も隠してませんよ?」
「そうか?ん~でもなぁ……何か全部嘘な感じがするんだよなぁ」
カンで自分の性格を疑われているというのにレギンは怒らない。まるで訳の分からないように振る舞う。
それでもうんうんと頭を捻るヤマトにレギンは笑って答える。
「ハハハハッ――出会ったばかりの人のことを早々分かるはずはありませんよ。私も貴方のことは腕の立つ変な人にしか見えません」
「うぉい!?それって酷くねぇか!?」
カンで人を疑う人物はそう判断されても仕方ないだろう。悪ければ嫌われるに違いない。レギンでなくともそう考えるはずだ。確かにこの男はその鋭すぎるカンのせいで人の忌み嫌われ、故郷を抜け出してきたのだが……。
「――まぁいいや、アンタとはもう止めとくよ」
「そうですか。では、トーナメントで……」
この男の実力ならば確実に残る。そう確信して言った言葉だった。だが、振り向いたヤマトは想像していなかったことを口にする。
「いや、俺明日は出ないよ?」
「え?」
「だって、明日には女との約束があるからな!!――――では、さらば!!」
「はい!?」
それだけ言い残し、ヤマトはリングから飛び出て出口へと走り去る。その姿はまさに疾風の如し!!――何でこんな場所でこの言葉使わなきゃならないんだろう。
あまりの出来事にレギンは目が点になる。
そして、それは一部始終を見ていたハルベルトも同じだった。
「ヤマト何してんの!?」
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