竜殺し、国盗りをしろと言われる

大田シンヤ

文字の大きさ
50 / 124
第四章

賞金首

しおりを挟む
「フハハハハ!! よく来たな侵入者。 俺はダッカ大盗賊団随一の怪力!! 貴様も相当の力自慢のようだが、俺には勝てなイ――――タイイタイイタイイタイイタイ!!」

 入り口で侵入を防ごうとした盗賊達を蹴散らした後に現れた幹部の一人の腕を掴んで力比べ。丸太と見間違えてしまうような腕の太さからして他の者とは筋肉の量が違うのが分かる。だが、それでも及ばない。
 握り潰そうとした手は逆に握り潰される形になった男が情けない悲鳴を上げる。もう隠し球はないと判断した侵入者は頭を掴み、近くの壁へと叩き付けた。

「――――ガッ」

 あまりの衝撃に頭は壁へとめり込みそのまま気を失うが、これで終わりではない。大男の後ろにいた者が二刀の短剣を逆手に持ち、走り出す。

「フハハハハ!! そんな木偶の坊を倒したからと言ってつけあがるなよ侵入者!! 我はダッカ大盗賊団随一の俊足。 その素っ首瞬時に切り落としてやるわびゃ!!」
「いくら足が速くても、ここは直線だから動きは読める」

 低身長の男が、その身を更に小さく的を絞らせぬようにして距離を詰めてくるが、動きを予測していた侵入者に拳骨を叩き込まれ地に沈む。
 低身長で突進してきた男を殴り、視野が狭まった瞬間に侵入者の頭目掛けて矢が放たれるが、それを片手で掴み取る。

「ほう……この私の矢を片手で阻止するか。 実に面白い。 名乗っておこう――私はダッカ大盗賊団随一の弓つがっ!?」
「紹介が長い」
「…………せめて名乗らせてやれ」

 二人の盗賊団の幹部を倒すと後ろの影から悠々と歩み寄ってくる一人の男。手には弓を持ち、何時でも矢を放てるようにされてある。されていたのだが、矢を放つまでにベラベラと前の二人と同じように喋ることに我慢できなくなった者が一人いた。
 名乗りの最中に石を顔面に向かって投げられ、もう少しで顔が出そうになったのに退場してしまった哀れな男。そんな男に向かって石をぶん投げた張本人を見下ろす。

「ふむふむ……怪力無双のゼルダンに影走りのルッディ―ル。 弓の方は…………何だ、手配書にも載っていない雑魚じゃないか。 まぁ良い、喜べ。 コイツらの首には金貨五十枚が両方に賭けられているぞ」

 久しぶりの大金が入ると喜ぶ少女――ミーシャを見下ろす侵入者――シグルド。二人は現在周辺を悩ませている盗賊団の討伐に訪れていた。
 勿論理由は金だ。
 これまで何とかやってきたが、街に入るにも身元を証明できるものがなければ金を取られる。その為の金を手に入れるためにこうして懸賞金の掛かっている犯罪者達を捕まえていたのだ。

「それにしても何でだろうな。 犯罪者は全て生け捕りのみだなんて……」
「あぁ、そうだな」

 確かに、と顎に手をやる。
 帝国は一年前から懸賞金を賭けている犯罪者は全て生け捕りのみとなっている。ただでさえ懸賞金を賭けられる犯罪者は危険人物だというのに、殺すのではなく生け捕るなど難しいだろう。当然、賞金稼ぎ達の犠牲は増えた。
 何が目的なのかと考え込むが、頭を振るう。今はそんなことを考える必要なんてない。懸賞金が生死問わずだろうが、生け捕りのみだろうが自分達には意味がないのだと仕事に集中する。

「それよりも、早く進もう。 敵さんがお待ちだろうからな」
「ちょっと待て、コイツらをこのままにしておく訳にはいかないから――――束縛二イドっと」

 気絶するゼルダンとルッディ―ル。そしてついでに弓使いも束縛のルーンで縛り付ける。これで目が覚めて、素手や短刀で千切られる心配はない。

「これで良し――――さ~て、残りの懸賞金共はどこかな~♪」
「楽しそうだな、お前……」

 買い物感覚で懸賞金が書かれている羊皮紙をめくるお姫様は大陸中探してもこの娘だけだろう。
 少し呆れた目で見るが、久しぶりの大金が手に入るのでミーシャは気付いていなかった。

「さて、今頃残った盗賊達はどうなっているかな?」
「さぁな……今頃溺れているんじゃないのか?」

 見張りをしていた盗賊も迎撃に出てきた盗賊も倒し、残るは奥へと逃げ込んだ盗賊だけだ。恐らく万が一の為の逃げ道があるのだろうが、それを予想していたシグルド達は予め逃げ道を塞いでいた。その為、盗賊に逃げられることは心配していない。心配しているのは、彼女がやり過ぎないかだ。






「くそおっ――一体何なんだ!?」

 ただ、逃げ道の確認に来ただけだった。襲撃者が来たと連絡は受けだが、仲間が迎撃に向かったし、ここに来るまで罠も大量に仕掛けてある。この逃げ道を使う可能性は低い。それでも確認をするのは頭領の命令だからだ。
 仲間と談笑しながら、扉を開けて確認する。それだけで良い。なのに――何故自分は溺れているのだろうか。

「あ、兄貴ぃってなんだこの水!?」

 何とか男を助け出そうと手を伸ばすが、まるで生き物のように水が動き出し、男の腕を絡めとるとそのまま中に引きずり込んだ。

「ま、魔物か!? 一体誰だ!? こんなのを中に入れたのは!?」
「お、俺じゃねえよ‼」
「——んなこと言ってる場合か!? 早く助けるんだ‼ 棒で引き寄せろ‼」

 責任の擦り付けをし始めた男達の尻を蹴り飛ばし、持っていた槍をひったくると刃の部分とは逆を差し出す。しかし、結果は同じだ。

「のわあぁ‼」
「や、やっぱり魔物じゃねぇかよ‼」


 槍を突き出した男が飲み込まれ、捕らわれる。中にいる者は苦しそうに藻掻くが、いくら必死になって腕や足を動かそうとも水面に出ることはできない。体の胴体に太い触手があるようでガッチリと固定されている。
 次々に仲間が飲み込まれている様子に悲鳴を上げる男達。自らの理解できないものが目の前に存在することに恐怖を覚える。

「——ヒィッ」

 その悲鳴に触発されたように、水の触手が男達の体を掴み取る。そこから先は一瞬だった。悲鳴を上げることもできなかった。
 男達は一人残らず水の中に取り込まれ、肺にまで水が入り込む。
 人間に水を掴み取ることなどできはしない。最後まで苦しみながら、男達は意識を手放す。

 ——この光景は、ここだけで起こっていることではない。全ての逃げ道で、全ての盗賊達が同じ目に遭っていた。








 先程まで聞こえていた悲鳴が完全に途絶える。それが何を意味しているかを理解しているミーシャとシグルドは顔を合わせた。

「終わったらしいな」
「そうらしい」

 懸賞金が付いている者は生きていて欲しいと願いながら歩を進める。あの幻影の騎士ワイルドハントは人間相手に手加減をしない。手配書を見せ、殺してはいけない者は教えたが、魔物にとって人間など餌か遊び相手ぐらいの認識だ。理解はしても守れるかが不安だった。

「…………」

 シグルドが制止し、ミーシャの前で構える。遅れて聞こえてきたのは、ガチャガチャと金属同士がぶつかり合う音だ。
 その音源が姿を現すとシグルドは構えを解くが、逆にミーシャはシグルドの影へと隠れる。

「お姉様―‼」

 駆け寄ってきたのは、体を自由自在に水へと変換できる幻影の猟師の一人、ガンドライドだ。理性が戻った時に暑苦しいと脱ぎ去った全身鎧フルプレートを身に付けている。
 寄ってきたガンドライドは陰に隠れるミーシャを見つけると野獣の様に目を光らせ、鼻息を荒くする。

「お姉様お姉様‼ 私ちゃんとやりましたよ‼ だからご褒美、ご褒美を要求します‼」

 頑張りましたと胸を張り、大きく両腕を広げる。要するにいい子いい子して欲しいのだ。しかし、ミーシャは冷たく言い放つ。

「お前が頑張ったのは分かったが、結果は? それが一番重要だ」

 自分が言ったことをしっかりとできているのか。試すようにミーシャが目線を向けるとニッコリと微笑み腕を振るう。
 ——すると、洞窟の奥から流水が押し寄せてくる。狭い洞窟内に逃げ場なく押し寄せてくる水の奔流はそのままミーシャ達を飲み込むかと思われたが、その直前まで来ると見えない壁があるかのように急停止する。
 そして、その中には確かにいた。懸賞金は前の二人は少ないが、それでも金貨二十枚が賭けられている盗賊団の幹部が——。

 キラキラ、ワクワク。成果を持ってきたガンドライドがミーシャに向ける視線だ。その視線を受けて居心地悪くなったのか、自分の体を隠そうと更にシグルドの陰に入る。
 それに不機嫌になったのは当然ガンドライドだ。だが、その矛先はミーシャではなくシグルドに向けられる。

 さっさとそこをどけと言わんばかりに睨み付けてくるガンドライドと絶対に退くんじゃねぇぞと睨み付けてくる。
 両社に挟まれる形になったシグルドが取った行動、それは——————

「裏切り者ォ‼」

 取り敢えず、結果は出したんだからご褒美は必要だよね。というものだった。
 魚の鑑賞会のようになった洞窟で再び悲鳴が響き渡る。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

後悔などありません。あなたのことは愛していないので。

あかぎ
恋愛
「お前とは婚約破棄する」 婚約者の突然の宣言に、レイラは言葉を失った。 理由は見知らぬ女ジェシカへのいじめ。 証拠と称される手紙も差し出されたが、筆跡は明らかに自分のものではない。 初対面の相手に嫉妬して傷つけただなど、理不尽にもほどがある。 だが、トールは疑いを信じ込み、ジェシカと共にレイラを糾弾する。 静かに溜息をついたレイラは、彼の目を見据えて言った。 「私、あなたのことなんて全然好きじゃないの」

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

処理中です...