英雄伝承~森人の章2~ 落ちこぼれと言われて追放された私、いつの間にか英雄になったようです。

大田シンヤ

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魔人決戦編

第26話

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 冷たい石床の上に倒れる。
 一番最初にマルム、次にルクティア、その次に私、最後まで粘っていたがオフィキウムも拳を受けて倒れる。

「ガハハハ!! ここまで来るとは見事、流石は噂に名高い勇者一行である。しかし、我には及ばなかったな!!」

 王城にまで侵入した私たちの前に立ち塞がったのはデレディオスと名乗った闘人族だった。

「何で、闘人族が魔人族の味方をッ」

「うむ、それは個人的な理由だ。別に闘人族全てが魔人族の味方になった訳ではない故、安心するが良い」

 何処かがだ。
 思わずそう口にしたくなる。
 闘人族一人でも厄介すぎる。現に蒼級そうきゅうであるルインやサクスムに勝利した私たちを一蹴している。
 これを倒さなければ魔人王には辿り着けないのに、何処が安心できると言うのか。

「何度も俺の国を荒らす魔人族に個人的な理由で味方だと? 脅されてでもいるのか?」

「いやいや、脅されてはおらん。むしろ、我の方から軍の末席に加わりたいと言ったようなものだ」

「俺の国を荒らす蛮族にッお前に正義の心はないのか!?」

「正義、か。。だから、こうして魔人族の味方になっておる」

「な――」

「お主たちには納得できんだろう。我も納得して貰おうとは思っておらん。だから、好きなだけ恨むと良い。恨みを吐き、怒りをぶつけよ。それを我は真正面からそれを受け止めてやろう」

「ふざけやがってッ!!」

 マルムが剣を持って立ち上がり、デレでイオスに向かって振るう。
 その一撃をデレディオスは避けることもなく、六本ある内の一つの腕で防いだ。

「お前たち、お前たちさえ来なければッ世界は平和だったのに!!」

 何度も剣を振り下ろし、腕を断とうとするが傷一つ付かない。

「はぁ!!」

 オフィキウムが後ろに回り込み、槍を突き出す。
 だが、腕の一つに槍を掴み取られ、マルムと共に薙ぎ払われる。

「師よ。何故ですか。何故あなたほどの御方が魔人族にッ」

「何だ。オフィキウムよ。お主は我を理解できると思っていたが、そうでもなかったか。我は我で魔人族に正義ありと思ったからこそ味方をしているのだ。それ以上でも、それ以下でもない」

 サクスム以上の硬さ、ルイン以上の武術。
 同じ四天王でも格が違い過ぎる。
 このままでは、負ける――最悪の結果が脳裏に過った。
 それは嫌だ。
 そう思った時にはもう行動していた。

「――『ルクリアの戦斧』!!」

「!? アルバ、それは!?」

「出し惜しみなんてできない。これはそういう相手でしょ!!」

 敬語すら忘れて叫ぶ。
 大地に手を翳し、土地の情報を元に形を形成。
 かつてこの地を征服し、開拓した英雄の一撃を再現する!

「黄金戦斧オーラム、破軍の如しと言われたその一振り、今ここに蘇り、見せてみよ!!」

 光の胞子が地面からふわふわと浮かび上がり、巨大な人の形が形成される。
 大きさは巨人とそう変わらない大きさの人間。実際にこんな只人がいたはずがない。
 この輝術は人がこの英雄はこう在るべきという想像、思想によって強化する輝術だ。加えてその想像や思想が強ければ強いほど、輝術は強くなる。

 ルクリア王国の国民でオーラムの英雄を知らない者はいない。
 初代国王マルスの相棒であり、臣下であり、最も敵を殺した男は、こうあるべきだ。こうだったら良いなと言う国民自身の思想によって強化され、デレディオスに向かって巨大な戦斧を振るう。

「なるほど、あの黄金戦斧の一振りを再現したのか。しかし、を読み取って側だけを再現したのでは、あの爺の恐ろしさまでは再現できんか」

「う、嘘でしょッ。アレを受け止めるの!?」

 振り下ろされた巨大な黄金の戦斧。
 ルクリア王国の国民の想像も後押しで強化されたその一撃をデレディオスは難なく受け止めている。

 切り札の一枚が通じなかった。
 マルムとルクティアが絶望に表情を染める中、私は更にもう一枚の切り札を切る。

――術式展開、砲身固定」

 残りの輝力貯蔵庫全てを繋げ、出力を上げる。
 黄金の戦斧を受け止めるデレディオスに掌を向ける。
 直進・強化・増幅の術式が三つ輪になって掌の先に、足元に体を固定する術式が展開される。

「輝力砲――発射!!」

 輝力貯蔵庫が完成してからずっと限界まで輝力を溜め続けた輝力貯蔵庫三つを接続させ、を放出する。
 私とこれまで溜め続けた輝力貯蔵庫の中にある輝力量は只人族三百万人分にもなる。それを炎にも水にも風にも変換させずにデレディオスにぶつける
 デレディオスは戦斧を受け止めていて動けない。
 もし、このまま戦斧を手放さなければ純粋な輝力の物量で押し潰され、輝力に対処すれば戦斧に体を両断させられる。
 切り札二つ使った絶対の布陣。確実に仕留める!

「はぁ、つまらん結果になったな」

「ッ――!!?」



 勝てる。殺せる。
 そう思って放った輝力の砲撃。
 それはデレディオスの体を押し潰すことなく、逆に私の腕を弾き、指を潰した。

「ウグゥウッ」

 何が起こったのか分からない。
 何故、デレディオスではなく私が、!?

「なん、で――」

「呆れたものだ。。その基本すら忘れたか。純粋な輝力にしたのが間違いだったな。我が輝力とお主の輝力が触れあった瞬間、我とお主の間には輝力の経路ができた。それを通って我の輝力がお主の方へと流れたのだ」

 デレディオスの言葉に唖然となる。
 それは輝力基本、私でも知っていることだ。

「それなら、私じゃなくてあなたが潰されるはず――」

「ほう、随分と輝力の量に自信があるようだな。しかし、結果が全てを物語っているぞ。その道具、輝力を貯蔵するものだな。それも加味すればかなりの輝力量になるだろう。しかし、それでも我の方が輝力量は多い」

 そんなの嘘だ。
 だってあれは只人族三百万人分にも匹敵する輝力量だ。そんなの保有するのは人間じゃない。

「あなたは、人間なの?」

 思わず、そんな言葉を口にしていた。

「人間だ。ただし、星を掴んだ人間だがな」

 星を掴んだ人間?
 それは、まさか――。

「ふぅむ……外が騒がしくなってきたな」

「!?」

 王城の門が音を立ててゆっくりと開いていく。
 門を手で押しているのは、サクスムだ。まさか、死んでいなかったのか!?

「ふぅ、ふぅ、ふぅッ」

「サクスム。生きておったか」

「はい、何とか」

「そんな、何で……あの状況から生きて脱出できるはずが」

「もう忘れたか。我が貴様等の前にどうやって姿を現したか」

「!?」

「まさか、地面に潜って!?」

「あぁ、そうだ。泥水を啜りながら、生き足掻く。戦士ではなく亡霊の類になった気分だったぞ。師よ。敗北した身でありながら、師に意見することをお許しください。彼奴等の首、このサクスムに頂けないでしょうか?」

「構わぬ。それに我はお主が敗北したとはまだ思っておらん。お主が生きている以上、まだ勝負は続いている。この場合、我がお主と勇者一行の戦いに横やりを入れてしまったものだろう。ならば、ここはお主に譲るのが当然だ」

「ありがとうございます。師よ」

 サクスムの後ろには魔人族の軍がいる。
 どれだけの数がいるかは数えきれない。逃がさない様に私たちを包囲するように動き始めている。
 これではもう逃げられない。

「まずは貴様からだ。森人族。卑怯な戦法で我を殺そうとした罪を償うが良い」

「させるものかァ!!」

「アルバに近づくな!!」

「――ッ」

 マルムとオフィキウムが剣と槍を持って私の前に立ち、ルクティアが矢を放つ。
 しかし、矢は弾かれ、マルムとオフィキウムは腕を一振りするだけで薙ぎ払われる。短剣を抜いてルクティアがサクスムに挑むが、同じように薙ぎ払われた。

「…………」

 敗北感が心を支配する。
 ここまでやっても勝てなかった。
 軍に包囲され、デレディオスには切り札を使っても傷一つ付けられず、二人の犠牲を出してやっと倒したと思ったサクスムは復活した。
 ここからどうやって勝てと言うのだ。
 逃げろ、と叫ぶ声が聞こえる。だけど、駄目だ。もう駄目だ。
 もう持ち得る手札ではこの状況を覆すことはできない。

「ごめんなさい」

 頭を下げて、振り降ろされる戦斧を待つ。
 迫ってくる戦斧を見るのは怖かった。死ぬのなら、少しでも怖くない方法で死にたかった。
 だが、マルムとルクティアの叫び声以外に、私は思わず顔を上げた。

「何事だ!?」

 叫び声が聞こえる方に視線を向ければ、が見える。
 それも一人や二人ではない。空が覆う程の魔人族が吹き飛んでいる。あの数、一軍という規模じゃない。軍が三ついなければ、あの数にはならないぞ。

「きょ、巨人でも出たの?」

「馬鹿な。巨人は魔人族の味方だろう。何故、奴等を攻撃するんだ」

「こっちに近づいてくるぞ!!」

 城門の近くにいた最後の魔人族の戦士たちが吹き飛ばされ、乱入者が姿を現す。その姿を見て、私は目を丸くした。

「森、人――?」

「ぬぅ!!?」

「その方から離れろ」

 乱入者がサクスム目掛けて一直線に突っ込む。

「――『無窮一刺』」

「戦人流『闘人鎧』!!」

 森人族の背丈はサクスムの膝ぐらいの高さしかない。体格差は圧倒的だ。
 なのに、二人が激突した瞬間に勝利したのは森人の方だった。
 マルムの持つ剣よりも細い剣で、鉄の筋肉を持っているとも言って良いサクスムを吹き飛ばしたのだ。
 巨人に殴られたかのように家屋を破壊して吹き飛んでいく。
 あまりの光景に唖然となった。

「あ、あなたは一体――」

 サクスムを吹き飛ばした張本人である森人に視線を移す。
 美しく、凛々しい女性だ。
 そんな女性が私を見て、跪いた。

「お久しぶりですアルバ様。近衛戦士リボルヴィア、御身の元に参上仕りました」
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