英雄伝承~森人の章2~ 落ちこぼれと言われて追放された私、いつの間にか英雄になったようです。

大田シンヤ

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魔人決戦編

第27話

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 こうして面と向かい合うのは久しぶりに思う。
 あの頃と同じように髪は短い。何処か里長の面影もある。
 また、ふくよかな体になっていたらどうしよう。何て思っていたが、無駄な肉はお腹周りには付いていない。良かった。

「アルバ、大丈夫!?」

 未だに放心しているアルバ様の元に只人族の女性が駆け寄って来る。表情からしてアルバ様を心から心配しているのが分かった。
 そうか、もうあなたは一人ではないのか。
 里にいた頃の一人で部屋の中に引き籠る少女はもういない。ここにいるのは勇者一行の一人、アルバ・サンクトス。
 もうこの人は、一人で扉を開けて歩ける人なのだと思い知らされた。
 少し、寂しいな。

「あの、えっと……リア、で良いのよね?」

 懐かしい愛称を耳にする。
 自然と頬が緩み、笑顔になれた。

「はい、リボルヴィアです。お久しぶりですね」

「久しぶりって……いや、本当に久しぶりなんだけど」

 アルバ様がスッキリしない表情で頭を抱えている。
 何がいけなかったか。やっぱり、ここは感動して抱き着くぐらいはした方が良かったか。アルバ様はあまり敬われることは好きではなかったし、そちらの方が互いに良い再会にはなったかもしれない。

「珍妙な乱入者もいたものだ。よもや森人族が剣を持つとはな」

「サクスムッ。い、生きていたの!?」

 瓦礫の山から大きな影が這い上がる。
 アルバ様が驚いた声を上げ、只人族の女性と男性、オフィキウムが戦闘態勢を取る。

「闘人鎧で受けたにも関わらず、この衝撃。貴様、中々の剣士だな。よい、実によい。貴様とならば、戦士として熱き戦いができそうだ」

 魔人族の戦士――サクスムが戦斧を構え、距離を詰めて来る。
 歩き方一つとってみてもかなりの実力者だと分かる。
 蒼級そうきゅうはあるな。ルインとメトゥスと同格の存在か。本来なら、喜んで戦うのだが、今は邪魔でしかない。

「失せろ」

「――何?」

「聞こえなかったのか。失せろと言ったのだ。魔人族。私はあなたに毛ほどの興味はない。やらなければいけないこともある。だから、見逃してやる」

「クッククククッこの我に向かってそんな大言壮語を吐くとは。よほど自信があるらしい。だが、調子にのるなよ? 我ら魔人族は厳しい環境で生き抜き、戦闘を繰り返してきた一流の戦士。他種族では到達できない遥か高みにいる種族だ。その中から更に鍛え抜かれ、選抜されたのが魔人王の傍に控えることが許されるのが四天王、つまり、この我だ。多少腕が立つと言っても、貴様では我は越えられぬ。それを今からとくと教えてやる。さぁ、武器を構えて何処からでもかかってくるが良い!!」

「…………はぁ」

 無駄な体力も手の内も見せたくはないが、相手が引き下がらないのならば仕方がない。
 この男を生かしておけば、アルバ様の身に危険が及ぶ。
 溜息を一つ付き、細剣レイピアを抜いて三度突く。
 私がやったのはそれだけだった。

「は?」

「え――?」

 サクスムの体に三つの大きな穴が開く。
 何が起きたのかも分からずに、サクスムは間抜けな声を出し、崩れた。
 倒れ込んだサクスムを見て、有り得ないものを見るかのようにアルバ様やオフィキウム、只人族の二人が目を見開く。

「アルバ様、少々お待ちください。残りを片付けて参ります」

「え、あ……は、はい」

 敬語?
 まぁ良いか。
 軽く頭を下げた後、デレディオスと向かい合った。
 ニヤニヤと私の成長を嬉しがるような表情をしている。本当に勝手な人だ。私がどんな気持ちでいたかもしれないで。
 声が届く距離まで歩き、足を止める。これ以上は踏み込んではいけない。後一歩でも踏み込めば、戦いが始まる。そんな気がした。

「久しぶり、デレディオス」

「おぉ、リボルヴィアよ。久しいな。僅かな時しか離れていないのに、随分と強くなったな。師として鼻が高いぞ!!」

 豪快な笑い声を上げてデレディオスは私の実力を認めてくれる。
 こんな状況でなければ、素直に喜べた。
 アルバ様とようやく出会えた時の高揚は、今はない。
 胸の内にあるのは、あの魔人族に聞いた話が本当だったのだと言う落胆。

「森人族の里を襲った魔人族から、翼竜はあなたが従えたと聞いた」

「ほう、森人族の里に帰ったのか。帰りたがっているとは思っていたが、そうかそうか。無事に戻れたか」

「……翼竜にはあなたが指示を出していたとも言っていたけど、それは本当?」

「そうだなぁ。あの翼竜は階級で言えば緋級ひきゅうに匹敵するからな。魔人族の中には我の指示しか聞かなかった。それ故に我が指示を出したのだ」

「それは、魔人王に脅されてやったの?」

「脅される? いいや、何なら襲う場所は我自身が考えたぐらいだ」

「…………」

 私を馬鹿にしている訳でもない。ただ、事実を淡々と述べている。
 何か彼を怒らせることはしただろうか。疎ましいと思われていたのだろうか。実の父親には嫌われても何ともなかったのに、彼には嫌われたくはないと思ってしまう。

「森人族に恨みがあったの?」

「いいや」

「私が何かあなたを怒らせたのか?」

「そんなはずがなかろう」

?」

 一緒に旅をしていた時は、私は私自身の気持ちすら理解していなかった。でも、デレディオスは私自身が気付いていなかったことにも気付いていたようだった。
 それなのに、里を襲ったのか。
 嘘だと言って欲しい。
 脅されたのだと言って欲しい。
 やんごとなき事情があるのだと弁明して欲しい。
 これは自分の意思ではないと否定して欲しい。



 だが、私の願いは無情に捨て去られる。
 細剣を握る力が緩む。思わず、手から滑り落ちそうになった。

「――私のことをどう思っているの?」

「さっきから質問ばかりだな。別に構わんが……そうだな。お主のことは誇らしいと思うぞ。なんせ、我の弟子でそこまで実力を高めた者はおらん! ガハハハハ! 三日三晩宴をして祝いたいぐらいだ!!」

「私はあなたの弟子だろう」

「当然だ。今も、これからもずっと変わらん」

「それじゃあ――――何で私の故郷を襲わせたんだ」

 声が低くなる。
 風が髪を撫でた。
 後ろでごくりと唾を飲む音が聞こえた。
 緊張した空気が張り詰める中、デレディオスは何一つ変わらずに、淡々と、いつもの口調で告げた。

「そんなの決まっておろう。森人族は輝術に優れた種族。遠方から一方的に輝術を放たれ続けたら、それを平野でやられたら、我や他の魔人四天王は兎も角、軍が跡形も無くなるからだ」

 正しい、魔人族に与する者ならば正し過ぎる言葉だった。
 でも、。デレディオス。
 戦いになったからさぁ滅ぼそうと思ってしまうほど、私との関係は安いものだったの?

「私の故郷を滅ぼそうとして、私が怒るとは思わなかったの?」

「当然思う。だが、やるべきだと思ったことをやるだけだ」

「そう――」

 伏せた顔から、雫が一つ落ち、地面を濡らした。

「なら、私もやるべきことをやろう」

「ククッやっとか。存分に力を振るうが良い」

 デレディオスが腕を広げて、懐を大きく開ける。
 胸を貸してやる。そう言わんばかりに。

「八大星天序列六位――デレディオス」

「森人族里長の血族、アルバ・サンクトスの近衛戦士――リボルヴィア」

「「いざ尋常に――勝負ッ」」

 細剣を握り直し、地面を蹴る。
 戦いが始まった。
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